捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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契約の夜

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「肌に触れても?」
「……どうぞ」

 彼の手が頬を覆う。状況は変わらないはずなのに、自分からそうしたときとは全く違う感覚。

 指が耳の縁を辿って形や感触を確かめるかのように軟骨を押したり表面を撫で始めて、ごそごそと耳に響く音がくすぐったい。

 唇を合わせ、もう片方の手はヴェールをかき分けて腹や腰を撫でた。こちらの肌が冷えているからか彼の手が温かく思える。

 一回するたびに少しずつキスの時間は伸び、指は骨の一つ一つをなぞりながらそこらを丁寧に這い回った。

 いよいよそういう行為が始まりそうな雰囲気や私の体が彼の足に跨っている現状に、薄れたはずの羞恥心が燃え上がってくる。

 恋人同士の営みとして世の中で一般的に行われていることは知っているものの、いざ自分がその行為に及ぼうとしていると思うと耐えられなかった。子どもを作るという口実すらもないのが余計に罪悪感を膨れ上がらせるのだ。

 勝手に強ばっていく体に気づいたのか、安心させるかのように優しく抱き寄せられて背中を撫でられた。私を覆い隠すほど大きな体躯、太く目立つ骨に、しなやかで無駄のない筋肉。紛れもない男の体。

「決して痛くはしない」
「……はい」
「無事に終えたら街に行こう。心配させてしまっているだろうから、教会にも挨拶させてくれ」
「…………はい」

 胸板を押して体を遠ざけ彼を見上げる。私の意を汲んでくれたのか、再び柔らかくキスを落とされた。

 お前は愛されている、大切にされているのだと理解させてくるようなそれに溺れながら、やがて唇をあの舌に舐められて手を握り込む。以前はそれどころではなかったからあまり気に留めなかったものの、このキスは何か変な感じがして嫌だ。

 拒むこともできず、反射的に噛みつきたくなるのを堪えてぬるりと滑るそれを受け入れる。覚えのある強引さはない。

 焦れったいほどのろのろと頬の内側や歯茎をなぞられる感覚とくぐもった水音、たまに空く隙間から漏れる二人分の吐息。腰が震えて力が抜けていく。上から徐々に流し込まれる唾液に喉を鳴らした。

「ん、いい子だ」

 零された言葉の意味を聞き返す前に口を塞がれる。

 舌先で上顎をくすぐられたり舐められたりすると余計変な感覚が強くなって、思わず頭を引いて逃げかけた瞬間に頬に添えられていた手が後頭部を支えるように移動した。

 捕らえた獲物を今にも食いちぎろうとしている彼の瞳は瞳孔が広がり、妙な輝きを放っている。見ていると取り込まれるような、落ちてしまうような、そんな予感がした。
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