身代わりの私は退場します

ピコっぴ

文字の大きさ
7 / 143
お嬢さまと私

7.森の中の別荘

しおりを挟む

 連れて行かれたお嬢様の別荘は、お祖父様のタウンハウスや亡くなった父の借りていた賃貸連棟住居マルチストーリーハウスで暮らしていた私には想像もつかないような、お城?って言いたくなる豪邸だった。

 基本的に態々わざわざ同じ町で何軒も家を持つ意味はなく、別荘とは当然、王都を離れ、郊外の閑静で自然豊かな土地の森の中に隠れるように建てられていた。
 夏の避暑地なのだろう。

 訊けば、この森自体がお嬢様の祖父の土地で、他人が立ち入ることは殆どなく、人目につかない場所としては最も適しているのだという。


「私はお祖父様には可愛がられているから、いつでも使っていいと、ここの鍵を渡されているのよ」

 管理人の夫婦と、庭師と家政婦が一人、常駐していて、邸の手入れをしているので、いつでも使えるとの事だった。

 管理人の夫婦は、帝都の近くに小さな領地を持つ伯爵家出身の三男坊夫婦で、今の身分は王宮で働いていた頃の武勲で陛下に戴いた騎士爵。

「いやぁ、陛下は陛下でも、帝国東部でも小さめの我が国シュターク王国のアッシャーハワン陛下で、皇帝に戴くほまれとは格が違いますから、帝都に行けば平民と変わりませんよ」
「そんなの、うちのお父様も変わらないわよ。侯爵とは言っても、帝都に行けば、ちょっと小金持ちの田舎者扱いよ。公国主の大公や公爵じゃないと、帝都の大貴族には相手にされないわ」


 ここで、初めて知るお嬢さんの身分。

 ──この国の侯爵令嬢ヒュルスト・ダム

 郊外の大きな森ひとつが領地で、お城のような別荘を持つ侯爵家なら、きっと王家にもちかしい上位貴族に違いない。


 管理人の元騎士の男性は見た目も精悍で、貴族出身なのがすぐ解る整った容姿で、人のよさそうな受け答え。謙遜しても厭味でないし、鍛えられた身体をしていて、真っ直ぐで姿勢のよい、いかにも騎士という風格を醸し出していた。

 挨拶が済むと、これから過ごす部屋に案内される。
 その途中の廊下で、お嬢さんはドヤ顔で自慢してきた。

 今は平民でも、帝国の伯爵家の三男で、そこからの一国の王に直接騎士爵を授与された実力者の誉れ高き騎士が、自分の家に仕えているという事実が誇らしいのだとか。

(お嬢さんにしてみれば、使用人も一種のステイタス。血統書付きの愛玩動物や高価なアクセサリーと変わらないのね)


 どこまでも人を莫迦にした、俗っぽくて底の浅い人。


 そういう、形に囚われている感性自体が、低俗で子供じみている。
 口に出せば機嫌を損ねるだけなので、そう思うに留める。


「この部屋なら、万一誰かが訊ねてきても、エントランスから遠く奥まっているし気づかれないわ。勉強に飽きても庭園やその先の風致林から森も見えるから気晴らしになるでしょう?」

 つまり、私はお嬢さんに成りきれるようになるまで、ここに軟禁されるという事ね。

「何よ。私になりきるために、私をよく見て完璧に憶えてもらうんだから、私も一緒よ? 治療のために、ちょくちょく席を外すとは思うけど」
「そう言えば、お嬢さん⋯⋯お嬢様の病気はなんなんですか? 完治に時間がかかる病気ものなんですか?」

 ピシッ

 まるで、眼に見えて空気が凍る音が聴こえたような気がした。




しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした

まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】 その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...