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婚約者様と私
38.身の証を立てる
しおりを挟む「お兄さまは、どうしてこちらに?」
「一応、お前を迎えに来た。という建前で、実はテレーゼ様に喚び出されたんだ」
「テレーゼ様に?」
ローザリンデ嬢達が騒がしくして場を乱したということで、残念ながらお茶会はお開きになった。
令嬢達はみな帰宅され、私とお兄さまは、騒がせた事を詫びようとしたところ、テレーゼ様に促されて、庭園のお茶席から館内のサロンへ場を変える。
お母さまのご実家も素晴らしいお城だったけれど、こちらも城下町の貴族屋敷街のタウンハウスだというのに、素晴らしいお屋敷だった。
今回の招待客は、ローザリンデ嬢ともうひとりの伯爵令嬢以外、私には見覚えのない方ばかりだったので、淑女教養学校へ通われた方か、深窓の令嬢方なのだろう。
公爵令嬢テレーゼ様のお友達なら、そういった方々ばかりなのは当然なのかもしれない。
中には、災難でしたわね、などと声をかけてくださる方もいて、お上品な方達ばかりだった。
となると、なぜ、ナターリエ様やローザリンデ嬢達が招待されていたのだろうという気にはなる。
「お察しの通り、例の噂について、伺いたかったのですわ。そして、根も葉もないものであるのなら、繁った枝葉を落とすために、事実であればブラウヴァルト氏族のためにも問題を解決するために、お呼びしたのですわ」
青の森の氏族──王家とその一族のため。
「そうでしたか。妹のためにお気遣いありがとうございます。今日のことで、ある程度の噂は払拭できた事でしょう」
「ご本人に証明していただきましたもの、なによりの身の証でしょう。ですが、もう一度伺いますわ。病は得ていらっしゃらなかったようですけれど、ギュンター様と親交があったのは事実ですの?」
ここは、正直にあったと答えるべきか、私は面識がないのだから、ないと答えるべきか。
お兄さまの顔を見ると、眉を少し引き上げ軽く肩をすくめただけで、なにも仰らなかった。
「わたくしは、ギュンター様とは面識がございません」
「そう? では、シュタインフルス家のヨハン様は? グレンツェヴォルカー家のルーカス様は?」
どちらも、貴族名鑑で家名は知っているけど当主と夫人の名前しか知らないし、当然、貴族学校でも見かけたこともない。
彼らがお嬢さまと交際のあった令息達なのだろうけど、本当にそうなのか、引っかけなのかすら判らない。お嬢さまには、亡くなられたギュンター様のことしか聞いてないから。
知らないのは本当なので、素直に首を振るだけで否定する。
「そう。本当のようね」
「なぜ本当のことだと? 妹が嘘をついているとは思わないのですか?」
「ギュンター様の名前を出した時は、僅かに表情に動きがありました。恐らく「ああまたか」と言ったところでしょう。後の二人の名前には本当に初耳のような感じでした。あれが演技だとしたら、この方の仰る事は全てが信じられないということですわ」
「妹を信じていただき、ありがとうございます」
頭を下げるお兄さま。
「ただ、これで終わった訳ではございませんことよ? 噂がなくなった訳ではないのですから」
「ご心配おかけします」
「まさか、あなたが、あんな方法で身の証を立てるとは思いませんでしたわ」
「ええ。わたくしもあんな事をするつもりは勿論ありませんでしたわ。男性のいない、淑女だけのお茶会だったから出来たことです」
「淑女とは言い難い令嬢もいたようだがな?」
「あの方々は、今回特別にお呼びしましたのよ。アンジュリーネ嬢に言いたいことがおありのようでしたし。彼女達は何か勘違いをして、大喜びでいらっしゃいましたけれど」
王家とも縁の深く、国内でも帝国全土でも権威があり古くから続く公爵家のお茶会に招待されるということは、令嬢として認められること。
それは、ご両親もご本人達も、大喜びで仕度をし、参加したことだろう。
「わたしの妹を辱めた事で間接的にやらかしてしまった彼女達は、諦めもついただろう」
「かもしれないですわね。アンジュリーネ嬢、今後もつつしみ深い生活を送られることね。何か困ったことがあったら頼ってちょうだい。わたくしに出来る事があれば、協力させていただきますわ」
優しくしてくださっているようにも見えるけれど、眼が笑っていない。
口で言うほど、信用はしていないのかも。
お嬢さまが遊んでいたのは事実だし、何か掴んでいるかもしれない。
お兄さまと公爵家の談話室を後にする。
私がここまで乗って来た侯爵家の馬車が待っていて、その隣に、お兄さまの乗ってきた馬が。
「アンジュリーネ嬢、その服のお色⋯⋯」
「ええ。クリストファー様の瞳のお色ですわ」
「別荘留学ごっこから戻って来てから、この色のドレスばかりなんですよ。急にどうしたんだか」
「だって、来年のお誕生日の後、クリストファー様の元に嫁ぐのですもの。わたくしは、婚姻契約を正式に締結した時点でクリストファー様のものですから」
「そういう意味のつもりだったのか」
「ええ。ドレスコードがない限り、外出時は全て萌葱色にしようと思いまして、新調したドレスはみんな萌葱色なの」
「ふぅん? お兄さまの色はないのか?」
「まあ、ほほほ。テオドール様。幾ら仲がよろしくても、妹は、お兄さまの色は身につけませんわ」
ほら、テレーゼ様に笑われてますわ。
「外ではクリスの色でもいいから、家では『お兄さま』の色を着てくれ。これからの季節にはピッタリだろう?」
確かに、爽やかな碧の瞳で、青々とした山や湖の色を思わせる夏に合う色かもしれない。
「考えておきますわ。何着も新調したばかりで、暫くは控えようと思ってますの」
「大丈夫だ、このお兄さまがプレゼントするから」
大丈夫というか、なんというか。本当は、ずっと妹を可愛がりたかったのかしら?
「可愛がっておいでですのね」
「少し前まで反抗期で、素直に甘えてくれなかったからね。嫁ぐまでに、お兄さま大好きとか感謝してますとか、言わせて見せようかと」
「そんな事、言いません」
恥ずかしい。ツイと横を向くと、笑いながら頭を撫でてくる。
これ。お兄さまが良くしてくださる、大きな温かい手で頭を優しく撫でるのは、結構好きかもしれない。
「わたくしも兄がおりますが、そのように可愛がってくださったのは、兄が貴族院高等学校へ進学されるまでですわ」
呆れた訳ではなく、微笑ましい眼をされていたので、兄妹仲がいいと本当に思われているのだろう。
本当の兄妹なら良かったのだけれど。
再度礼を述べ、お兄さまの手を借りて馬車に乗り込む。
よければ文通をしようと言われ、約束をして、公爵家を後にした。
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