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テレーゼ様と私
56.双子の (※内容に注意 苦手な方は回避してください)
しおりを挟む前回に引き続き、生まれてくる子供に対して配慮の欠ける表現があります
苦手な方は回避してください🙇
❈❈❈❈❈❈❈
まだ青白い顔をしていたけれど、秘密を打ち明け家族に気遣われて、少しだけ落ち着いた様子で、お母さまが、すっかり整えられた庭を眺めてぽつりぽつりと話していく。
「リヒャルトと名付けたのは、南の発音でリッカルドと呼んで花に話しかけても、エッカルトに話しかけているように聴こえるからで、お母さまは、いつも花に向けて、離れたギムナジウムにいるエッカルトに話しかけるように見せかけて、リヒャルトに話しかけていました」
当時の産婆はもういませんし、メイド達も入れ替わって、中には亡くなった者も。
だから、リヒャルトの事は今は知る者はいませんから、ずっと、お母さまはリヒャルトに話しかけていたんです。
ツラそうに語るお母さまの肩を抱き寄せて、お父さまは寄り添ってただ黙って聞いていた。
お仕事をお休みしてずっと寄り添っている。何も訊かずに。
クリスは公爵家とは直接の関係はないので客室で待っていたけれど、テレーゼ様は私と共にお母さまに付き添ってくれた。
お祖母さまの母上、お嬢様の曾祖母は、テレーゼ様の曾祖母の妹君で、互いに傍系血族や姻戚関係にあるのでこの場にいても誰も何も言わなかった。
テレーゼ様も、ただ黙って傍にいてくださった。
でも、何かたくさん考えているみたいだった。
「母上、リヒャルト叔父上の遺骨は、エッカルト叔父上と一緒に埋葬し直すそうです」
「そう。⋯⋯よかった。独りでお花畑に眠っていても寂しかったでしょうから。生まれるまで一緒だったエッカルトと再び一緒に眠れるのね。隣にお母さまもいるし、きっと、神の御許で親子で仲よくされることでしょう」
いずれお父さまもお兄さまも側に召されるのを待てば、もっと賑やかになる。わたくしは一緒に行けないけれど、その時までは、時折訪ねてお花を添えて、お話をいっぱいしてあげるわね。
もうお骨は礼拝堂へ運ばれていたけれどお母さまにとっては三十年間、このお庭がリヒャルト叔父さまの墓標だったのだ。
ランドスケイプ家に嫁いだお母さまは、その時はお父さまと一緒に弔われる事になるので、一緒には行けないと言ったのだろう。
鬼気迫るような悲鳴を上げていた時に比べたら、やはり秘密を打ち明けた事で肩の荷が下りたのだろう、顔色もよくないしツラそうではあるけれど、眼だけは穏やかになっていた。
みんなでリヒャルト叔父さまの新しい墓標に手を合わせて、ご挨拶を改めてしてから、侯爵家へ戻る。
帰りの馬車の中でも、テレーゼ様に肩をぴったりくっつけていたけれど、嫌がったり文句を言ったりはしなかったので、そのまま甘えさせていただいた。
父のお墓にずっと花を添えてない。
パン屋に住み込みで働くようになってからは年中無休で、北西の辺境伯領には帰っていないから。
パン屋は毎朝、町中の家庭の食事を支える重要な仕事でパン屋だけの組合もあるくらい。
やりがいはあるけれど、どのパン屋も休めないから、自由時間は寝る前の夜だけ。
恐らくだけれど、母も王都の資産家の男爵と再婚したからには、父の墓前に花を添えるなどという事はしていないに違いない。
この身代わりが終わったら、一度、辺境伯領に行こう。
ついでに、その隣のクリスのお国を歩いて、エーデルワイスを探してみて、見つからなくても、その後はどこか静かな村に行こう。
王都にはもう戻れない。
お嬢さまの身代わりをして顔見知りが増えた事で、他で例え町娘の姿でも王都を歩くことは危険だと思われるから。
テレーゼ様が、私の手を強く握ってきた。
ご自身の膝を睨むように見つめ、何か葛藤しているようにも見える。
「アンジュ様」
「はい」
「わたくし、今回のこと、他人事とは思えませんの」
古い因習。
昔は、それこそ、双子が生まれた時点で、産婆や乳母が片方を弑したり、もしものための代わりとして、生まれなかったことにして隠して(幽閉して)育てられたりした。
「比較的近年まで、双子で生まれただけで、命を絶たれる事もあったと言うからね」
「ええ。我が国でも、昔の王族や貴族には、氏族婚や血族婚なども多く、精神や身体に異常のある子供が多く生まれたり、双子の片方がそれらに当たって、大人になっても言葉を話せず獣憑きと呼ばれたり、残虐な行為を繰り返したりして悪魔憑きと言われたりした時代もあったようなの。
或いは、存在を隠して、塔や地下牢などに幽閉して、後継ぎの影武者として使うために育てられたり、その子が長じて境遇を強く恨んで血族に復讐したり、とにかく、そういった不幸な事実と迷信が絶妙に混ざり合って、双子は忌まわしい事だと考えられていたのね」
「聖書の兄弟殺しの逸話も関係あるのかもな。それでも、不幸な事実が存在する数だけ、双子を死なせす育てた親もいたと言うことだろう?」
「そうですわね。わたくし、少し、リヒャルト従叔父さまの事に、そういった背景を連想してしまいましたわ。ごめんなさいね、アンジュ様。嫌な話をしますわ」
「いいえ。わたくしも、お祖母さまがお祖父さまに双子の二人目の事を話せなかったのは、死産ではなく、そうなのではないかと思いました。内に秘めたまま、死の間際まで花を植えて、悔やみながら知られることを恐れていたのではないかと。だから、秘密を共有するお母さまともあまりお会いにならなかったのではないかと」
「まあ、そうだとしても、もう亡くなった方の事なんだから、掘り返さなくてもいいんじゃないか?」
「ええ。わたくしも、ギーゼラ・ロスヴィータ様の事は、もう蒸し返すつもりはありません」
「だったら、もうその話は⋯⋯」
クリスが話を切ろうとするけれど、テレーゼ様は更に私の手を握る力を強くする。
「わたくしの曾祖母がアンジュ様の曾お祖母さまの姉だという話、憶えてまして?」
「はい」
「実は、彼女達も、双子だったのです」
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