88 / 263
婚約破棄後の立ち位置と晴れない心
15.両者の心の内
しおりを挟む茶を出す侍女も、執事や側近もいない、国王と、一騎士見習いのエルネストしかいない、エスタヴィオの個人的な居間に言いようのない緊張感が張り詰める。
エスタヴィオになんと言われるのかをそれとなく察し、かといってそうと言われた訳でもないので、反応してよいものか判断しかねた。
勿論、ただの親戚の世間話で、早合点という事もある。それならば、かなりの自意識過剰で赤っ恥だが、まだ救いようもある。
が、エスタヴィオの中で確定した未来予想図であった場合、反応してしまえば後戻り出来なくなる。
──いや、国王の、貴族階級掌握の政策としてすでに決定事項ならば、エルネストが気づかぬふりをしようが反応しようが、その未来は覆らない。
進退窮まる事態に、すでに詰んでいるのだと諦めるしかない⋯⋯のかもしれなかった。
「一応ね、君は複数の女性に望まれてるんだ」
「は?」
風向きがおかしい?
エルネストは緊張しながらも、疑問符に圧されて身体が傾ぎそうだった。
──複数の女性に望まれてる?
譬えそれが本当だとしても、その中にシスティアーナが入っていなければ意味がない。
眉間に力がこもるのを必死で隠し、それでもなお、思い詰めた表情でエスタヴィオの次の言葉を待った。
一方、その実エスタヴィオも僅かながら緊張していた。
どう切り出せば、エルネストは逆上したり反発したりせずに、大人しく話を聞いて、唯々諾々と従ってくれるのか。
国の頂点国王と、臣下たる公爵家の次男坊。
エスタヴィオが王命として詔勅を発せば、エルネストは従うしかない。
それは解ってはいたが、エルネストの性格からしてむやみに反発したりはしないと承知していても、出来れば笑って快諾して欲しい。
万人が総て納得のいく事案など存在しない。
誰かの意見を通せば、必ずといってもいいほど、反対意見がある。反対はしなくても、逆らわなくても心に凝りを残して影がさす。
満場一致ですべてがハッピーに落としこめる事などあり得ない。
それでも、エルネストを公爵家の次男坊──遠くても複数の傍流から同じ血をひく王族のひとりとして近くに置いてきた彼を不幸にしたい訳でもなかった。
もっと言えば、自分の弟妹達の子──甥よりも可愛がってきた。
騎士科に進学しなくても、稀に近衛騎士からも一本取れる剣術の腕前、危なげなく優雅に操る馬術。
従来の素直で優しい性格と兄を支えるために真面目に学ぶ姿は、エスタヴィオにも好ましく映っていた。
甥や従兄弟の子供達の多くは、愚者とは言わないが俗物であったり、オルギュストのように己の考えに固執して反発したり、貴族としての矜持と義務と権利を履き違えたり、残念な事に素直に可愛い甥とは言えない分、王子の学友として選ばれた優秀で好人物だが遠縁の子でも目をかけてきたし、不幸になって欲しくはなかった。
「君に選択権をあげたいところなのだけれど⋯⋯」
空になったティーカップをあまり音を立てずにソーサーに戻したエスタヴィオは、力強い王の目をして、エルネストを見据えた。
1
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました
皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」
頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。
彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。
この一言で彼女の人生は一変した――。
******
※タイトル少し変えました。
・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。
・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる