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小さな嵐の吹くところ

39.王太子は才女がお好み?

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 フレイラは緊張していた。

 この茶会に出る事が決まった頃から、父親から色々と聞かされていたから。

 我が家は、コンスタンティノーヴェルでも屈指の古くから公爵位を保ってきた家柄で、何代も王妹降嫁を受け入れたり跡取りに恵まれなかった折に王弟を婿養子に迎え入れたりして来たが、一度も王家に輿入れをさせたことがないと。

 王太子アレクサンドルは、二十歳にも拘わらず浮いた話もなく婚約者もおらず、遊学も兵役も済ませ、恐らくはそろそろ未来の王妃を決めるのに本腰を入れるに違いない。
 公爵家(王族傍流)ゆえに敬遠されるだろうが、出来れば正妃に、せめて側妃に潜り込め、まずは気に入られろと、今朝も言われて登城したのだ。

 アレクサンドルは、ひらひら煌びやかに着飾って笑うだけの令嬢や、くだらない話しか出来ない友好国の王女達を適当に遇って寄せ付けないのは有名である。

 当の父親は、エスタヴィオからひとつ離れたテーブルで、宰相や大臣達と話している。が、時折こちらの様子を覗っていた。

 兄に呼ばれ、いよいよ王太子殿下に紹介される。緊張しない筈がなかった。


「妹は、レース編みと刺繍なら、王都の上級ブティックに並べられた品物と遜色ない美しいものを作り上げることが出来るのです。その流れで、北の、手芸の盛んなノックホルムで製糸工業の視察勉強会や、手芸用品商店連合の主催する手芸スクールなどに研鑽に行っておりました」
「お初にお目にかかります、王太子殿下にご挨拶申し上げます、アルタイラ家が息女、フレイラ・マリア・アルタイラ=エステルヴォム公爵令嬢でございます。
 北国に滞在していたため、デビュタントは今年に延びておりましたの。どうぞよろしくお願いします」


「おそらくは、ユーフェミア王女殿下やそのご学友のシスティアーナ侯爵令嬢のように、国益になる事業を支援したり諸国の大使と会話が出来るような、才女がお好みなのであろう。お前も、甘えたような声は抑えて、なるべく知性を感じられる話し方を心掛けなさい」

 父に言われたとおりの、知性の見える受け答えが出来ただろうか?

 フレイラは、緊張で気が遠くなりそうであった。

 さりげなく、自分の刺繍したハンカティーフを握り締め、一番綺麗に見える部分が表を向くように口元を抑えた。

 雪深い土地は家に籠もる時間が長いためか、手芸、絵画や工芸品などが発展し、家具や装飾品に凝る傾向がある。
 フレイラは、嗜み程度を越える技術を学ぶべく、2年間、商業を学ぶために留学する次兄と共に北国に滞在していた。

 故に、貴族名鑑に載っている以上存在はアレクサンドルも認知していたが、茶会や夜会で会ったことはなかった。

(私や息子の留学の話から広げて、表に出さずにおいた娘を売り込むか、エステルヴォム公爵)

 おそらくは、遊学前にデビュタントさせることもなく秘匿して育て、ここぞという所で引き合わせる算段が前々からあったのだろう。

 記録によれば、今年18歳、ユーフェミアやシスティアーナのひとつ上、上位貴族令嬢としては婚姻を結ぶのに適齢期だろう。





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