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誰の手を取ればいいの

4.再従叔母(はとこおば)よりも義姉  

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 アナファリテの、『デュバルディオがシスティアーナの結婚相手として大本命だ』という発言に、アルメルティアが歓喜する。

「あら! 素敵なアイデアだわ!! デュー兄さまと結婚なさったら、シスは本当にお義姉さまになるのね! 私は大歓迎よ!!」

 きゃーっと喜び踊るように駆け寄ってきて、背後からアナファリテに抱きつくアルメルティア。

「今のままでも再従はとこ叔母おばさまで仲良しだけど、お義姉さまになったら、もっとずっと会える時間が増えるわね? いちいちお勉強だ公務だと、理由も必要なくなるわ。ああ、なんて素敵な提案なの」

「ちょ⋯⋯待ちなさい、アルメルティア。まだ、そうなると決まった訳では⋯⋯」

 なぜか、ディオの婿入りに消極的なフレックが困惑顔で、はしゃぐアルメルティアを宥める。

「あら、どうして? お兄さまも、シスが義兄妹きょうだいになる事に、ご不満はないでしょう?」
「も、勿論さ。シスなら今でも妹のように大事に思っているさ。でも、それとこれとは⋯⋯」

 珍しく歯切れの悪いフレックの態度にキリッと横目で睨みつけ、アナファリテが詰問する。

あなた • • • ? デュバルディオ殿下がお相手では、何か不都合でも?」

「⋯⋯⋯⋯」

 答えないフレックの様子に、焦れたアルメルティアが長兄の方を向く。

「ね? アレクお兄さまも、そう思うでしょう?」

「そうだね⋯⋯ ディオなら、ティアを大事にしてくれるだろうね」
「⋯⋯そう言えば、どうしてお兄さまだけ、シスの事『ティア』って呼ぶの?」


 フレック、ユーフェミアがピタリと動きを止め、ひと呼吸置いて、アルメルティアを見る。
 アナファリテは素知らぬ顔で、メイドの差し出す籠から小さな露花を摘まみ出し、爪にこすりつけて濃い桃色に染まるのを楽しむ。


 妹の含みもない素朴な疑問に、長兄らしく丁寧に、アレクサンドルが答えた。

「それはね、元々システィアーナは、幼い頃──今のフローリアナよりも小さかった頃に、周りの人も本人も、彼女を『アーナ』と呼んでいたんだ」
「システィアーナのアーナね?」
「そう。でも、ユーフェミアと共に淑女教育や教養を学ぶためにアナファリテが加わると、彼女も『アナ』と呼ばれていたんだ」
「うん。今もそうね」
「だから、間違わないように、間をとって『ティア』って呼び方を変えたんだよ」
「ふぅん」

 イマイチ納得していない様子に、フレックが付け加える。

「小さい頃のシスには、『システィ』って発音が難しかったんだよ」
「そうね、お口も舌も、忙しいわ。
 それで、どうしてお兄さまだけいつまでもティアって呼んでらっしゃるの?」

 フレックもユーフェミアも困惑顔で答えられない。
 答えを知らないのか、口に出すのを憚られる理由でもあるのか。

 少し考える素振りを見せて、アレクサンドルが答える。

「響きが可愛らしいから、かな?
 僕は、王太子として公務をたくさんこなすようになると、フレックやミアほど頻繁にはシスティアーナ嬢とは顔を合わすことはなくなってね。今でも彼女のイメージは、幼い頃の⋯⋯絵本を抱えて僕の膝に座って読んでとせがむ、小さなティアのままなんだよ」





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