異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

文字の大きさ
29 / 294
Ⅰ.納得がいきません

28.目立たないって難しい⑫

しおりを挟む
 サヴィアの言う通りなら、かなり知恵のまわる動物らしい事になる。

 どの畑からも、欲張らず作物はひとつだけとる。
 作物をとる位置はそれぞれの畑で毎回変えている。
 足跡も食べかすも残さず、取った作物の周りの葉や畝も乱さない。

 景色がほぼ変わらないという事は、かなり気づきにくく、どうやらどの畑の持ち主も、盗難に気づいてないよう。

「その獣の姿はどんなだい? 畑に忍び込んでも足跡を残さないとは、かなり軽くて小さいのかと思ったが、糞を見る限りは、大型の山犬っぽいんだが」
 
《そうよ。あれは、山犬とか狼とかいうやつね。分厚くて大きな尖った耳と、たてがみとふさふさの尻尾は立派だけど、痩せて毛並みもボサボサ。栄養失調なんじゃないかしら?》
 カインハウザー様の手の上で胸を張って、ふんぞり返るように語るサヴィア。鈴の転がるような音が耳に届くと、頭の中で可愛い少女の声にかわる。

「栄養失調?」
「それはそうだろう。鬣のある大型犬が、毎晩とは言え、各畑から1つづつしか作物をとらずにいて、足りるはずがない。うちの畑からは盗らないという事は、生でも食べられるものしか手を出してないって事だ。メディ菜は、食べたら畑の印象が変わって判るから、サラダ菜ではあっても手を出さなかったのだろう。ああ、この場合は口かな」
 ずいぶん、サバイバル知識のある山犬さんなんだな。人に見つからない為の知恵が凄い。

「そこまで知恵がまわるとなると、あるいは、狼の姿をした魔族かもしれないな。となると、罠では捕まらないかもしれない」
「難しいのですか?」
「見た目は狼でも、言葉を解し、文化を営んで思考する、我々と同じかそれ以上の知能を持った種族って事だ。これ見よがしな獣用の罠など、引っかかりもしないだろう」
 カインハウザー様は、難しい顔をして考え込んでしまった。

「魔属の獣ではなく魔族なら、出会い頭にいきなり襲われる事も少ないでしょうか?」
 リリティスさんも、難しい顔をしている。2人とも、領地の為に出来ることをしなければならない立場の人達だから。

「魔族だと襲われないのですか?」
「一概にそうとは言えないけれど、腹を空かせた獣よりかは、言葉で交流する事は出来る存在だから。
 シオ…フィオだって、道で外国人に会っても、お腹が空いたからって、襲って食べられるか考えたりしないでしょう?
 猟師も山で猟をするけれど、痩せた獣より美味しそうな丸々肥えた人の子を見ても、狩りの対象にはなり得ないように、その魔族の習性次第では、我々も捕食の対象にはならないかもって事よ」
「畑の作物を食べているが、狩りをして獣を食べていないのは、怪我をしていて狩りが出来ないのか、狼の姿でもベジタリアンなのか、我々と同じ、獣は調理して火を通さないと食べられないのか……」

 とりあえず、せっかく朝早くに来たのだからと、考える領主様を残して、リリティスさんが畑に水をまき、私が昨日と同じように、害虫がいないか見て回ったり、ついでに山犬の糞を掘り出して、林の奥に埋め直しに行く。

「毎日来るのだから、狼も近くに居るかもしれないわ。あまり奥に入らなくていいからね」
 リリティスさんの気遣いに頷きながら、足元の木の根に気をつけて、林の中に入る。

 水をまくリリティスさんが見える範囲でと足を止めると、木の根の一部が夜露ではなくしっとり濡れていて、僅かにアンモニア臭がした。
「例の狼さんのおトイレなのかな? ここ」
 湿っているので掘り返しやすかったので、そこに糞を埋めることにした。

「ごめんね、あなたの根元に埋めて。後でリリティスさんにお水をたくさん掛けてもらった方がいいんかな? 枯れちゃわないかな」
 立派な木の幹に手を掛けて話しかける。

 日本でやってると、感傷的なとか変なヤツ扱いをされそうだけど、ここなら普通だろう。動物はともかく、植物はもちろん、家具や建造物、持ち物など無生命の物体に話しかけるとか、今までこっそりしていたことが普通に出来てちょっと嬉しかったり。

 ふと視線を下げると、木の根の辺りがキラキラして、アンモニア臭がなくなり、大量のお水が地面に染みていく。

「もしかして、精霊さん達が?」

 昨日習った、3D写真を見るような、遠眼をずらして木の根元を見ないで意識して視る。
 頭の奥がクラッとしたが、眠いような疲れたような怠さが眼にのしかかったけど、根元に、薄い、蒼に近いやや緑を帯びた青いぽわぽわした霧のような綿のようなものが漂っている。
 手を伸ばしても突き抜けるだけで、触れることはなかった。

「シオリ、水霊を動かしたね?」
「ひゃっ」
 真後ろに、いつの間にか、カインハウザー様が立っていた。
 後ろから、肩を摑んで引き寄せるように腰を落として、私に寄り添って、水霊が漂っている辺りを見つめる。

「狼さんのおトイレになってたみたいで、木が可哀想かなって、後でお水を汲んでくるか、リリティスさんにお水を掛けてもらおうかと思ったら、この辺りがキラキラして、アンモニア臭がなくなって、お水が地面に染みていったの……」
「きっと、この木も喜んでるだろう。
 だが、意識して、そうしようとして水霊を動かした訳ではないところが減点かな」
「……はい」

 カインハウザー様の手が肩から外された所で立ち上がり、木の幹に手と耳を当ててみる。
 僅かに水が流れる音が聞こえる。

「シオリ?」
「木の幹をお水が巡る音が聞こえます。元気になったみたいですね」
「どれ?」
 カインハウザー様も立ち上がって、私よりも高い位置に、木の幹に耳を当てる。

「命の音だね。初めて聴いたよ」
「よかったね、エルバレオ」
「誰?」
「……? なんか、口をついて出て来たけど、この子の名前、かな?」
 木の幹をポンポンたたく。と、ゆらゆらと葉っぱが何枚か落ちてきた。

「シオリは、意識しての魔術は使えないのに、無意識に、精霊や動植物たちと交信出来るんだね。その葉はとっておきなさい。怪我をした時に使えるよ」



🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯

次回、Ⅰ.納得がいきません

29.ここはどこ? 目立たないって難しい⑬
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...