異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

7.初めて見る、瘴気と魔獣

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 カサリ……

 魔獣と化した山犬が、一歩歩くごとに踏みつけられた花が草が枯れていく。

「みんな! こちらへ」
 生まれた花が枯れても、新たな花を祝福して引っ越す事が出来れば、妖精達は消滅しないですむかもしれない。
 南の国から来た籾ッコちゃん達だって、種籾について来て、ここの田んぼや苗代を祝福してマーキングする事で引っ越し出来たのだ。

 自分の花が枯れて動揺し、逃げられず魔獣になった山犬から立ち上る瘴気に、避けることも出来ずに触れてしまった妖精達は、悲鳴をあげる間もなく姿を消していく。

 ──やめて! 奪わないで! 私の大切なお友達なの!!

《あわわ、一鈴や二鈴に連絡して、セルティックを呼ばなきゃ……》
 腰を抜かした三鈴の言葉に、咄嗟に大声を上げてしまう。

「呼んじゃダメ!」

《え? ど、どうして? なにか危険があればお互い報せ合うために、それぞれのコサージュに引っ越したのよ? 私達……》
 そう、遠くにいても、異変を報せるため、火急の事態を伝えるために、彼女達の同じ花から生まれた姉妹故の、精神感応で伝達係になる契約も結んでいる。

 だって、呼んだら、カインハウザー様まで危険にさらして、ただの二次災害でしかない。

「巫女や聖女が瘴気を祓わないと、剣でも鎚でも倒せないんでしょう?
 そんな危険な生物、カインハウザー様に相手しろなんて言えないわ」
《それはシオリだって一緒なんじゃ……》
《ただの山犬だって、シオリがどうにか出来る訳ないし、このままじゃあいつの餌になって終わりよ》

 そうこうしてる間にも、山犬がゆっくり近寄ってくるし、一歩ごとに花は枯れていく。

 ──ここにいちゃダメだ!

 どんどん花が枯れてしまう。

 私は、覚悟を決めた。

 訓練された犬ほどの利口な動きはしないだろうと当たりをつける。
 イヌ科なら、動くもの、逃げるモノを追いかける習性があるはず。

 持ってきていた手焼きのお菓子を握りしめ、予備動作のモーションはゆっくりと、後ろ手を引き切って、思いっきり山犬の頭上を通って後ろの林の中へ投げ込む。

 甘い匂いにつられ、動きに気をとられ、林の中へお菓子を追いかける。

 私は、山犬が眼でお菓子を追うのを見て確信すると、林とは反対の、小川の方へ走り出した。

《魔獣になっても食いしん坊なのね。シオリの手焼きのお菓子を食べてるわ》
《勿体ない……》
「また、焼いてあげるから!」
《約束よ!!》×2

 それにはまず、今日が私の命日にならないといいのだけれど。

 川辺では、水面と河原との温度差で風が吹いているはず。

 居た! 風の妖精シルフィール達が!


 初めてこの町へ来たとき、私が、よき風に恵まれますようにと祈った事で、町中の瘴気や闇が浄化されたって、カインハウザー様は言っていた。

 巫女と間違われるきっかけの例の祈り。

 アレをもう一度おこせたら! 山犬の瘴気も吹き飛ばせたら!

 なんとかなるかもしれない。

 ──ああ、また、妖精たちの気配が小さくなっていく……

 泣いちゃダメだ。しっかりしないと。

 今、なんとか出来るかもしれないのは! 神殿の奥に居るあの3人がいないこの場は……! 私だけなんだから!

「シルフィール! 聞いて! 風の精霊さんにお願いがあるの! あの山犬の、瘴気を祓って! お願い! 早くしないと、どんどん妖精達が減っていくの!! 助けて!!」
《シオリ……》

 私の肩でサヴィアが、頭の花輪で三鈴が、声もなく震えている。

 川の上を滑るように飛んでいるシルフィール達はちらとこちらを見た。

「お願い! 私はどうでもいいから。なにかやって欲しいことがあるならいつでもやるから! あの子達を助けたいの! どうやったら浄化出来るの? 教えて!!」
 シルフィール達は、首を横に振るだけ。

《来るわ!》
 サヴィアの叫びに振り返ると、お菓子を食べきった山犬が、こちらへ向かってきている。だんだん、速度をあげる。
 ヒタヒタ歩きから軽快に、やがて走り出すと一気に目の前に!

「ダメェ! やめて! 花を荒らさないで! 来ないでぇ!!」
 恐怖に両目も閉じ、俯き加減でヒステリックに叫んでしまう。それで、山犬の足が止まるはずもないのに。

 ──私に力があったら! 美弥子のような聖女の強力な能力でなくても、さくらさんの持つ巫女の、神の奇蹟を代行する力でなくてもいい! ただ、あの山犬に巣喰う瘴気を祓うだけの風がおこせたら!

「祓って! 薙ぎ払って! 私の大切なお友達を守りたいの!」

 私の叫びに同調するように、言葉にならない鈴の音が幾つも鳴った。

 ひとつはサヴィアの励まし

 ひとつは三鈴の悲鳴

 多くは花の妖精達の助けを求める声

 それらより強く低い虎落もがりぶえのような叫びが、幾つも幾つも私の背後から花畑へと走り抜け、その幾つかは私の中を引っかき回すように通り抜け、花畑に嵐が舞った……


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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 8.知っている事と、黙っている事①

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