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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
8.知っている事と、黙っている事
しおりを挟むしばらく、カインハウザーが、詩桜里の素性や行動について、どこまで察して、どこまで影響されているのかなどの視点の話が続きますので、そんなんいいから花畑の事件の直後に進みたいという方は、
21.知っている事と黙っている事⑭順風満帆だったはずの日常
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初めてあの娘を見たとき、口をついて出た言葉。
「……女神がいる」
本当にそう思った訳ではない……と思うが、解らない。なぜ、そう口走ったのか。
ただ、あまりの精霊の多さに驚いたのは間違いない。
精霊にピントを合わせると、中心に居る彼女が見えなくなるほど、精霊に、守られるように埋もれるように、恋人に執着する死霊の執念のように、まるで精霊の塊のようになっていたのだ。
あんなのは初めて見る。
わたしも、精霊に好かれる体質としては異例の好かれようだが、彼女の足元にも及ばない。
ただ、養母に昔話に聞かされた、この世界を管理する女神が、精霊の鎧を着るかの如く層をなして、まとわりつかれているらしいという話を思い出したのは確かだ。
あれほどまとわりつかれて、まったく気がついてないのか、あれが普通になっててもはや気にならないのか……
どうも気づいてないようだ。一度も精霊達に視線が合わない。
そこで腑に落ちないのが、なぜあんな、いかにも神の祝福を受けた精霊の愛し子たる子供が、たったひとりで、山中の田舎の畑に佇んでいるのか。
あんなに顕著に愛し子然とした精霊に埋もれている子供が、王家にも大神殿にも貴族どもにも囲われずに、独りで外を歩いているなんて、掠ってくれと言っているようなものだ。
「迷子でしょうか? 他国の巫女が街道を通ったという情報はありませんが……」
精霊を視る力はないものの、魔術師として気配は読めるリリティスが、副官らしく最近の情報を脳内で検索する。
……なんて事だ、わたしの何十倍、母の数倍はつきまとって、更に増えつつある。
あれは、間違いなく精霊の愛し子、女神の祝福を受けた者だろう。
ただ解せないのは、そんな神殿や王家が何を置いても取り込みそうな子供が、こんなところで、たったひとりで、何をしているのか……
女神の祝福を持った少女が、親や保護者もなく、従者や護身の供もなく、一人で、途方に暮れた様子で、山頂の大神殿から続く巡礼街道に佇んでいる。まったくおかしな話だ。
この先は、小さな村があるだけで、大神殿しかない。あそこからは、王都や南の商業都市に続く道は分かれているが、神殿のそばを通ったのなら、奴らに拐かされているに違いない。あれほどの祝福を持った子供の出現事例は、他国には何例かあっても、この国には未だ存在したことない。それくらいの祝福を、奴らが逃すはずがない……!!
「ですが、特別信者の使う妖精の羽衣を身につけていますし……」
「大神殿とは別の神殿……他国の巫女かもしれないな」
リリティスと言葉を交わしながらも、慎重に周りの様子を覗い、少女からは目を離さない。
「他国からの巫女が、この街を通ったという記録はありませんが。南から回っているのでしょうか? いずれにしても、変ですね。
それに、周りを観察、視察してると言うよりかは、ただの迷子にしか見えませんが」
精霊を視る力のないリリティスからして見れば、ただの迷子に見えるのかもしれないが。
年の頃は10歳になったくらいだろうか? もしかしたらもっと……幼いかも……いや、さすがにそれはないか。
背丈はわたしの胸の辺りまではあるようだし、王都に暮らす上流階級の子供なら家庭教師をつけて、一般的な知識くらいは身につけている頃合いか……それでも十二~三、表情も仕草もあどけないし、まだ元服も迎えていまい。
日暮れが近く、畑仕事を終えて街に帰る農夫達に挨拶をされるが、頭を下げるばかりで、ひと言も発さない。
少女も、日が暮れるのが解るのだろう、だんだん焦っているようだ。
……声をかけてみるか? いずれにせよ、日が暮れて街に入れてやらねば、魔獣に襲われるやもしれぬし、夜盗や人買いに掠われる危険もある。
最も、あれだけの精霊に囲まれていれば、獲物の力量を読めない小物か、大精霊でなければ祓えないような大物しか寄ってこないだろうが。
小物なら精霊の魔法で祓えるし、戦乙女の精霊もいるようだから、野獣や魔獣からも身を守れるだろう。
だからといって、保護者の姿もない子供を一人で放置しておく理由にはならない。
最後の農夫が立ち去り、農耕地に囲まれた街道には、わたしとリリティスと、オロオロする少女だけが残される。
このタイミングまで待って、まずは柔らかい表情を作れる、女性のリリティスに声をかけさせる。
「こんにちは、小さな巡礼さん」
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
9.知っている事と、黙っている事②
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