異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

20.知っている事と黙っている事⑬

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「神殿にいる巫女はサクラと言うのかい?」
 ハッとして口を押さえるシオリ。

 また怖がらせてしまったか。
 大神殿でそんなに酷い扱いを受けたのだろうか。
 いや、強引に攫っておいて何も持たせずに放り出されれば、警戒して当然か。
 わたしが大神殿とは仲が悪く、彼らにシオリから話を聞いたとか匿ってるとか、知られる事はないと言い聞かせると、震えながらも素直に話し始めた。昨夜の内に訊いていたら、警戒して沈黙を決めただろうが。

「……聞いてもいいかな、後のふたりはどんな能力スキルを持ってそうだったかわかるかい?」
 ビクッと肩が揺れる。かなり動揺していた。

「シオリ」
「ヒャッ、ひゃい!」
「シオリ、大丈夫だから、落ち着いて。
 精霊との付き合い方とも通じるけど、嘘は言わないのは基本だが、言えないこと、言いたくないことは言わなくていい。ムリはするな。いいね?」
 潤んだ眼が、揺れる。

「精霊は嘘は言わない。言えない。ただし、なんでも答える訳ではない。わたしも、君に対しても誰に対しても、嘘は言わない。勿論、理由があって言わないことはあるがね。嘘は言わない。いいね?」
 感情が乱れ、涙が零れるが、拭ったり擦ったりせず、頰を伝って流れ落ちる。

 動揺が激しく、ちゃんと聞いているのか少し心配だったが、時折頷くので大丈夫だろう。

 こちらの質問に対し、嘘をついてまで答えなくてもいい事、言えない事は言わなくていい事も言い含める。
 人との付き合い方の基本でもあるが、精霊達に対しては絶対的な、重要な事だ。

 わたしは、立場上・・・情報を集め、精査する。それはこれからも変わらない。
 その事で負担を負わせるつもりはなかったのだが、素直なシオリは答えようとして苦しんでいた。

「言えない事は言わなくていいが、嘘は言うな。約束だ。出来るね?」
 泣く事で喉の奥が腫れたのだろう、声が出せない代わりに、何度も強く頷く。

 嘘は言わない事だけは互いに約束し、怖がらせた事を詫びると、シオリは涙を堪えるのに眉間に力を入れつつも、笑顔を返してきた。
 
 わたしは、領民と父の残した領地を守るために、情報を集め、精査し、なるべく不確定要素は除いて事を起こすようにしている。
 なにか大きな失敗があったと時、わたし一人の事ではないからだ。

 そういった、いわゆる通常の情報収集から果ては他人の秘匿する情報まで、細かく正確に知るのに、知りたがりでお喋りな精霊や妖精達ほど都合のよいものはない。

 なにせ、彼らは多くの者には態々わざわざ見ようとしなければ見えないので、存在も知られずにスパイ活動が可能なのだ。
 しかも、精霊にいたっては、魔術の素となる力そのものだから、彼らを妨げる方法が殆どない。
 彼らより強力な精霊か神に、その力を無力化させるしかないのだ。
 個性が強く気ままな妖精達より、素直な精霊が情報収集には向いていた。
 勿論、喋りたがりの妖精も、色々な情報をもたらせてくれる。とりとめがない雑多なお喋りの中に、有益な情報が混ざっているのを聞き逃さないようにするだけだ。

* * * * *

 昼食を摂った後、再び精霊達を視るコツの復習をする。
 わたしが同調、誘導したとはいえ一度は見えたのだ、後はコツを摑むまで繰り返すしかない。

 元々なのかこの世界に召喚された時になのかは判らぬが、女神の祝福と加護を受けているシオリは、その身に魔力を多く内包していたし、祝福とは、悪い言い方をすれば『女神』世界を構築維持する力に感染していると言ってもいい。

 わたしの手助けなどなくてもすぐに妖精と会話できるようになっていた。

 ただ、一日でその力を解放したため、華奢な身体への負担が大きかったのだろう、疲れ切って腰を抜かしたようになってしまった。
 生命を維持できる最低限の霊力は残し、魔力を使い切ってしまったのだ。

 背と膝裏に腕を回し、横抱きに抱え上げると顔を真っ赤に染めて慌てた。
 シオリの年頃の娘にはお姫さま抱っこと呼ばれ、憧れの運び方なのだそうだ。今後は不用意にやらぬよう覚えておこう。

 彼女を抱え街に戻ると、すっかりシオリの信奉者シンパになったロイスが動揺したが、魔力の枯渇だと伝えると納得、安心したようだった。

 そのまま街中も抱えて歩いたので、一部の親しい者にからかわれた。
 いわく
「ありま、カインハウザー様、いつの間に嫁ッコもろたんだ?」
である。まあ、冗談なのは判っているので取り合わなかったが、シオリは気にしたようだ。
 誰も本気ではないと言っても、顔を真っ赤にして狼狽え、しまいにはわたしの肩に顔を伏せてしまった。

 館に戻ってもまだ手足が震えるようで、シオリの世話を申し出たメイド長メリッサに任せた。

 ベッドに寝かせたシオリが、初めて自発的に甘えてきた。わたしとリリティスに、眠るまで手を握っていて欲しいと。

 柔らかく小さな手を握る。改めて、その小ささと弱々しさに、親を亡くした子供で、わたし達よりも華奢なつくりの肉体を持つ別人種、異界よりの来訪者なのだと感じた。
 リリティスが14歳の頃と言えばわたしはまだ7つであったが、2人とも今のシオリより骨格も肉付きもしっかりしていたように思う。

 わたしが出した、冗談の課題を忘れずやり遂げたシオリ。本当に、ロイスやナイゲルのおふざけを真似ただけの冗談だったのだ。

「カインハウザー様は、元騎士だけあってとても誠実で素敵な方です」
 シオリが恥ずかしそうに言ったからかこちらまで恥ずかしくなるではないか。
 かつて、己の愚かさや未熟さに恥じた事はあったが、これは知らないタイプの「恥ずかしい」だった。

あるじ。教えてあげましょう」

 ──何をだ?

「それは「恥ずかしい」に限りなく似てますが、「照れくさい」と言うのですよ」
 この、なんとも居心地の悪い恥ずかしさと、僅かな嬉しさと、もういいと言いたいような、また聞きたいような、複雑な心情……これが「照れくさい」?
「シオリは素晴らしいですね。主に、忘れていた、或いは知らなかった「感情」を幾つも思い出させ、新たに教えてくれるのですから」

 ──素晴らしい? わたしに感情を憶えさせる事が?

「わたしにはいい事のように思えますが?」

 それは「人」としてはいい事なのだろうけど、わたしには危険なものなのかもしれない。
 わたしはまだ、この国の王城中枢の奴らを信用していないし、彼らに欺されたり利用されるつもりはない。今のわたしに「感情の豊かさ」は必要ないものだ。

「危険だよ」
 彼女は、女神が会わせてくれた奇蹟の神子なのかもしれない。いや、そうなのだろう。だが、同時に、悪魔の寄越した誘惑のようにも思える。
 わたしはまだ、感情に振り回されたり、人々の温かさの中でぬる湯に浸かっているような余裕はない。
 なのに、それなのになんという事か、シオリにつられて、リリティスやロイス達とふざけあうのが心地よく思ってしまう。……怖いな。

「危険だよ。たった一日で中毒を起こしてしまいそうだよ」


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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

   ごめんなさい、これが最後!
   本編に繋がるラストです
 21.知っている事と、黙っている事⑭
      順風満帆だったはずの日常生活

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