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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
80.レディの恥じらいと二人乗り
しおりを挟むすぐ出るつもりが、燻製腸詰めを一緒に食べたいというカインハウザー様の要望で、リリティスさんと3人で食卓に着き、グレイスさん特製の粒マスタードで食べる事に。
「ここ毎日、すっかり遅くなっちゃう」
今日は、午後からはお休みをもらえたので、燻製腸詰めとナッツ入りハニースティックパンをカゴに詰め、街の南門へ向かう。
もちろん、お爺ちゃんズは朝早くに畑へ行っているだろう。
でも、私は覚えた! こないだのように、花畑の貼り付けの瘴気を見張る衛士隊の交代が、お昼と夕方に花畑へ行くのそれに便乗すればいいのだと。
今日のお昼の当番は、東洋人のようなお肌色で、髪と眼の色が薄茶の三十路手前のオラフさん。
風と水の加護持ちで、魔道防御は強いらしい。いつも大剣を佩き、大きな鎚を担いでいる、ちょっと見ガテン系の精悍なイケメンさん。
もう1人はロイスさんで、二十歳超えたばかりの青年だけど、こう見えても実は小隊長さん。
精霊や女神の信仰に篤く、四大精霊の加護持ち。
槍斧を手に、門を出ようとするところだった。
淡い金髪に綺麗な薄い緑の眼で、いかにも白人さんで、地球ではモテそう。ここでは、金髪碧眼は珍しくなくて、アイドル系のハンサムなのに、まわりに埋没してしまう。
そう。この街には、精霊を視れなくても、そこそこ精霊に守護されている人が多いのだ。
あちらこちらに精霊が居て、魔術が普及している世界だから、普通のことだと思っていたけれど、実は他に比べて異常に加護持ちが多いのだとか。
加護があるから、魔術の効果が高かったり魔道に強かったりするけれど、精霊が視えるとは限らないし、魔術が使えるとも限らない。
私やカインハウザー様ほどではなくても、この街の人達はたいていが精霊に好かれていた。
「ロイスさん、私も一緒に行きます!」
「フィオちゃん? 今日も、セルティック様は一緒じゃないの?」
「ええ。リリティスさんと、各地の代表さん達との定例会議みたい」
「そうか。じゃ、一緒に行きましょうか」
先に出てたオラフさんがロイスさんの槍斧を受け取り、私はロイスさんの馬の後ろに乗せてもらう。
カインハウザー様もベーリングさんも、私を前に横座りに乗せて、抱えるようにして行くけれど、ロイスさんは、後ろに跨がらせてくれるので、私はロイスさんの腰にしがみつく感じになる。
実は、こちらの方が、気は楽である。
前に抱えられると、色々と気恥ずかしい。
「ロイス、自力でしがみつかせて、大丈夫か?」
オラフさん、無用のお心遣いです。
「なにも早駆けするわけじゃないし、一応気をつける。レディには、失礼のないようにしないと」
「なに言ってる? レディなら、前に座らせて、落ちないよう支えるべきじゃないか?」
「前で支えるという事は、距離感が近すぎて、恥じらって、却ってちゃんとおとなしく座っていられないレディもいるんだよ、オラフ
後ろから支える行為が抱擁に近く感じて、意識しすぎる女性もいるんだ。顔も近いから俯くし、まわりをちゃんと見なくなる。見ないという事は、馬の動きに合わせたバランスを取れない事もある。
──後ろの方がいいんだよ」
「その通りです。後ろから抱えられるように乗せてもらうのは、居たたまれないです」
私の同意に、同乗位置について、オラフさんがそれ以上指示してくる事はなかった。
パカポコゆっくり歩き出す。けっこう揺れる。
そんなにゴツくないロイスさんでも、私の腕はまわりきらなくて、後ろからしがみつき、前でしっかりとベルトを摑む。
「……恋人同士のお膝抱っこみたいだもん」
私の呟きに、ちょっとだけ、ロイスさんが動揺したみたいだった。
オラフさんは、聴こえてないかと思ったのに、笑い出した。
「なるほど、小さな若奥様には恥ずかしい事なんだな。それに、膝に抱っこみたいだと言うのなら、カインハウザー様以外の男には無理か」
「カッ、カインハウザー様も同じです!! どなたでも、近すぎはよくないです」
も~ぉ。悔しい。子供扱いなんだから。
田園地を横目に街道を通り、カインハウザー様の畑を越して、田んぼに着くまで、オラフさんは時々こちらを見て、楽しそうに微笑んでいた。
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