異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

90.冥府の種②

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「先ほど、大巡礼の帰路の者が街へ入ったのですが……」
「この時間だ。今夜はここで泊まるんだろうな?」
「そのようです。
 提出された計画には、この街で一泊して、早朝に発ち、隣国へ入って、ミネア大神殿で海路の安全を祈願、その後アクロ大神殿、最後にアルファ大神殿と、各地の大神殿を巡る、大巡礼の帰路の途中とあります」
「隣から海路……工業国ハムスの者か」

 カインハウザー様の頭の中では、世界地図が展開されているのだろう。

「その者の、何が問題なんだ? 危険度は高いが、緊急性は中程度だとの報せだったが」
《もしかしたら、この街では何も起こらずに、明日、無事出て行く事になるかもしれないワ。どちらかというと、その可能性の方が高いでしょうネ》
「ですが、監視は必要かと」
「監視が必要なら、なぜ留め置かなかった?」

 ドルトスさんの問いに、巡礼の鍛冶氏さんを検問した衛士が口ごもる。

《その人には見えないくらいの小さな種だからネ、まだ》
「女王陛下と狼殿の言うには、いずれ瘴気になる穢れの気配があると」
 ドルトスさんがそれを訊いて立ち上がる。

「ヤバいんじゃないのか?」
《あの人は、無事にこの国を通過するかもしれないワネ。でも、あと何日かで、彼の影に潜む穢れは、どんどん膨らンデ、近々なにかのきっかけで瘴気になると思うワ》
「この街に、その種を撒いていく可能性は?」
《充分、考えられるデショウ》
「女王陛下は、この街に入れない方がイイと仰られたんです。彼を通してしまってから、ですが」
《アラ、本人の前で、アンタ、あと何日かで闇落ちになるワヨ、なんて言えないデショ》
「そ、そこまで?」

《巡礼の旅で、体力消耗してるのカシラネ? 、穢れを寄せ付けて行ってるワ》

「その者の、穢れは、祓えるのか?」
《正式な、経験を積んだ巫女がいれば、闇落ちになる前に祓えるデショ。北隣りの国は、巫女、居るんデショ?》
「ああ、3人、いや、一人は現役を退いたと言ったかな。二人は、各地の穢れを祓うだけでなく、今も前線で、闇落ちの駆逐に参加していると聞いた」
 さすが、カインハウザー様、よく調べてるのね。
 領地を守るために、情報を集めて、精査するって言ってたものね。

《なら、あの人が堕ちなかったら、隣の国に任せてもいいんじゃナイ?》
「しかし、巫女が気づく前に堕ちたら、国民に被害が出るのでは……」
《それは、隣の国の問題じゃないノ?》
「いや、知って放置できる問題ではないかもしれない」

 カインハウザー様の言うには、ドロボウになるかもしれない人を、まだ何も盗んでいないうちに泥棒だと騒ぎ立てて捕まえる事は出来ない。
 けど、これは、見過ごせば確実に、何らかの被害があり、人に犠牲が出る可能性も高い闇落ち。
 しかも被害の拡大するスピードと物量が大きすぎるのに、知らぬ顔をすると、それは見殺しにしたのと同じではないかという事だった。

「この街を出る時に、木札身分証か関の手形に、闇落ちの可能性ありと解るよう、仕掛け出来ませんかね?」
「精霊をつければ、関を通る時に報せる事は出来るだろうが……」
 穢れを抱えた人物につくのを精霊は嫌がるだろうと言う事だった。

「レディの大精霊は、まだそこまで成長出来てないんですか?」
「アリアン? アリアンは……」
「ダメだ。彼女への負担が大きい」
 衛士は、私がアリアンロッドを使って穢れを祓う事を期待したけれど、カインハウザー様の許可がおりなかった。

「あの、私なら、やれそうなら…… まだ、瘴気になってないのなら、もう少し楽なのでは……」
「危険は犯せない。穢れが憑いていると知って平常心をなくしたその者が、その瞬間に堕ちないとは限らない」
《可能性はあるワネ》
「それはマズいですね」

 衛士も、私がアリアンロッドを使って、穢れを祓う事は諦めたようだった。

《ワタシやシー……狼が気づかなきゃ、知らなかった事デショ? 始末は、隣の国で堕ちた時に任せればいいんじゃナイノ?》
「し、始末って……」

 サヴィアンヌの台詞がとても冷たいもののように思えた。

《アラ、ワタシは、カラカルの女王ヨ。この地に危険があるなら、策を練るワ。でも、隣の国の事までは面倒みきれないワネ。この国に巫女が居るなら、払って貰うのもいいワ。でも、居ない。表向きネ。隣の国で堕ちるかもしれなくても、今はそうじゃナイ。ワタシは、隣の国は守護してナイし、妖精統括してないワヨ。
 タマタマ、堕ちそうな人物を見かけた。穢れを撒き散らす可能性があるから、ワタシが守護してるシオリに危険が降りかからないよう、街に入れない事を勧めたダケ。ワタシには、闇を見つけることも、精霊達と共に守護する事も出来るケド、精霊のように、祓ったり滅したりはデキナイ。
 デキナイ事をアンタ達にも望んだりはシナイ。
 シオリとセルティックのために、瘴気の種と、闇落ちの可能性を報せたダケナノ。解ル?》
「勿論、女王陛下のお心には感謝してるとも。
 ただ、対処の点で、合理的な妖精と、人情やルールに縛られる人間とが違うだけ。
 出来ない事、やる義務も必要もない事を、押しつけに期待したり依頼したりはしないから」
 カインハウザー様は、サヴィアンヌに微笑みかけたけど、眼は緊張と不安を映し出していた。
 きっと、今、最善の方法を模索しているのだと思う。
 私が、アリアンロッドが、もっと成長していれば、あるいは……

 大神殿で、巫女の訓練をしているであろうさくらさんや、更にその上を行くという聖女の美弥子は、今、どうしているのだろう……

 カインハウザー様に頰ずりをしながら会議を聴いているのか聴いていないのか、気楽なアリアンロッドが、少しだけ羨ましかった。



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