127 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
89.冥府の種①
しおりを挟む衛士隊の人達を4人以上ぞろぞろと引き連れて歩くのにも慣れてきた頃、田んぼは撓わに実り、穂が重みで項垂れてくるようになった。
「もうすぐ収穫ね」
「ホンに、嫁ッコのおかげじゃわい。重たげによう実っとる」
サヴィアンヌに手伝ってもらい呼び寄せた、鴨やトンボも居ついて、ニームやタンジーの効果もあって、害虫も少なくて、スクスク育っている。
雨期も過ぎ、夏期に入って、畑の水涸れが心配になったけれど、小川からひいた水路とアリアンロッドの降らす水が、カインハウザー様の野菜を瑞々しく育てていた。
シーグは、衛士隊の人達にも認知され、私は気兼ねなく、一緒に遊んだりブラッシングしたりする。
「そろそろ、一緒に街で暮らしても、誰も怖がったりしないかしら」
《それは、どうかしらネ? 知ってるのは、衛士隊の面々だけでショ?》
「ねえ! 一度、シーグも一緒に街まで戻ったらどうかしら?」
「レディ、それは」
「街に入るのはもっと後でも、私となかよしの狼さんですよ~って認知されていけば、いつかは一緒に暮らせるでしょ?」
《あら、シオリってば、本気だったノ?》
サヴィアもあきれ顔で、シャガ芋の葉の上を飛び回っている。
シーグの太い首に縋り付き、頼んでみる。
「まあ、いいけどさ。魔獣と間違われて狩られるのは勘弁だぜ」
シーグは、他の人には聴こえないくらいの小さい声で、了承してくれた。
全身は金の毛皮がふかふかで、首の後ろから背中に銀の鬣が格好よくって見ただけで、普通の狼と違うって判るはずよね。
すっかりその気になった私は、リードや首輪も用意していないのに、シーグと一緒に街まで帰った。
南の砦門まで戻って来ると、ロイスさんはニコニコしていたけど、相方の当番の人は、かなり動揺していた。
「え、あの、レディ? そ、その、大型の犬は?」
「私の、命の恩人なの。ね?」
シーグの耳から後ろを何度も撫でる。
「それに、犬じゃなくて、狼よ?」
シーグは、黙って撫でられている。
同じように畑から戻って来た農民達も見ている。
滅多に無い事だけれど、たまたま大神殿から下ってきた巡礼者の人が、少し怯えた感じで見ているけれど、シーグは、ジッと黙って、ロイスさんの横でこちらを覗っている衛士を見ていた。
「なるほど、そこらの犬とは違うようですね」
衛士のお兄さんは納得してくれたようだ。
「ま、魔獣じゃないのか?」
巡礼の人は、シーグの大きさに、ただの犬ではなくて、魔獣ではないのかと疑っているようだけど、まわりの衛士達も私も平然としているので、ビクビクしながら門をくぐる。
《見ない人ネ? なんて言うカ、匂い? 雰囲気もどことなく違うミタイ》
サヴィアンヌは、蝶の姿から、女王様の等身大になって、門を抜けて街に向かう、巡礼の札を下げた人の背を見送る。
「は。手形には、隣国を抜けてその先の工業国ハムスの農具鍛冶氏とあります。十年に一度の大巡礼の帰路の途中のようですね」
「え、そんなこと、本人の許可なく答えちゃっていいの?」
「本当はよくないですね。ですが、女王陛下のなにかに触れて気になるようなら、特別に……」
そういうものかしら。
「シオリ、あの男には……
《シオリ、あの男、街に入れない方がイイかもしれないワヨ》
近づくんじゃないゾ」
シーグとサヴィアンヌがほぼ同時に、同じ事を言う。
「なにか、不都合が?」
私の護衛についていたナイゲルさんが、サヴィアンヌに訊き返す。
《まだ保つとは思うケド、いずれ瘴気になりそうな穢れの気配があるワ》
「あの男、暗闇……冥府の臭いがする」
二人の言葉を聞いて、ロイスさんは、なにかを焚きつけた。
「なにしてるの?」
「カインハウザー様に連絡をしています」
青い煙が高く昇っていく。狼煙を見たのは初めてだった。
10分程して、遠くから馬の蹄の音が聴こえるようになってると、シーグは、舌打ちをして、畑の方へ去っていった。
シーグの後ろ姿を見送っていると、街への大通りから、カインハウザー様が、ドルトスさんを伴って現れた。
「危険度は高いが、急ではない案件だそうだな?」
「はい」
「何があった?」
《穢れの気配ネ》
サヴィアンヌの言葉に、カインハウザー様が、緊張していくのが解る。
「詳しく訊こう」
馬を下りて、私達を、砦門横の衛士隊の詰め所に促した。
もう、シーグは豆粒くらいにしか見えないほど遠くになって居る。
「狼殿には、わたしは嫌われているようだね」
《そりゃあ、恋敵だモンネ? 馴れ合えないワヨ》
「え? 何の?」
サヴィアンヌの返しに、カインハウザー様は軽く肩を竦めて苦笑するだけで、二人とも、私の問いには答えてくれなかった。
44
あなたにおすすめの小説
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について
いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。
実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。
ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。
誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。
「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」
彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。
現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。
それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。
家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました
朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。
魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。
でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる