126 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
閑話②-3 納得いく訳がない
しおりを挟む本日は、2本立て公開です。
『棄てられました』の閑話②(美弥子目線)の続編と、2日前に新公開した短編とで、詩桜里は一日おやすみです。
明日は詩桜里の続きです。
❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈
「何言ってるか判らないって、どう言うこと?」
彩愛の問いかけは、その内容が想像できるものなのだろう、概ね会話が出来ているようにしか聴こえない。
大神官と名乗った老人は、揉み手するような腰を落とした姿勢で、答えてきた。
「ご不安はもっともですが、そのままですじゃ。巫女様方の仰るお言葉は、意味不明の音にしか聴こえませぬ。言わば、知らぬ国の、知らぬ言語のようですな」
「まあ、本来ならそうでしょうね? こちらは異世界から来てるんだから」
神官達の言葉に、頷く彩愛。さくらも同意している。
確かに、諸外国のどこかというのなら、日本語を知っている者がいてもおかしくないし、英語なりなんなり、共有できる言葉もあるだろうが、まったく異世界だというのなら、言葉が通じていた昨日の方がおかしいのだ。
「お爺ちゃん達、本当に、あたし達のいう事、判らないの?」
さくらの問いにも答えない。
大神官だとか大賢者だとか、大袈裟な肩書きがある人達だ、さくらの『お爺ちゃん』発言が解っていれば、眉を顰めるくらいはするだろう。
本当に解らないのだ。
「まあ、わしらは巫女様方のお言葉はなんとか推察するとして、巫女様方がこちらの言葉を理解出来るだけ良かったと言うべきでしょうな」
「全部は解らないわ。きっと、あなた方の言う、知識を刷り込んだ魔力に馴染ませるって言うやつの効果でしょう。その、いわば目に見えない私達の中にある翻訳機にある言葉しか理解できないんだわ」
彩愛のいう事が、だんだん解ってきた。
こちらと私達の地球との、世界の境目を通り抜けるときに、こちらの世界の言葉や知識を刷り込んだ魔力を、私達に馴染ませたと言っていた。
だから、私達には、こちらの言葉は、ある程度は理解できる。
でも、私達の言葉をこちらの言語に翻訳する機能はない。
それはそうか。彼らが私達の言葉を知っているはずがない。
翻訳するための基礎知識が備わっていないのだ。
「私達が、こちらの言葉を覚えるしかないでしょうね。気をつけて聴いてれば、耳から入る情報はこちらの言葉なんだから、二カ国語同時放送のテレビを観てると思えばいいのよ。一から覚えるよりかはマシだわ」
英語が得意で、字幕スーパーの映像で中国語やドイツ語も少しだけ覚えている彩愛なら、確かに、その内覚えるかもしれない。
でも、生憎私は、脳に響く日本語に頼ってしまうから、彩愛ほど早くは覚えられないかもしれない。
「英語の授業より難しそうよ~。英語なら、外来語やなんかで、日常でも馴染みがあるけど、こっちの言葉は、全く解らないんだからぁ」
私の不安を、さくらが代弁してくれた。
* * * * *
刷り込まれた知識とやらで、神殿の書庫にある魔法に関する書物も読めるようなので(文字が読めるのは助かる)、まずは巫女としての、神の力を代行する方法を覚えることにした。
まずは、これが出来ないと、ここに連れてこられた意味がないし、早く終わらせられないと、いつまでたっても元の世界に帰れない。
幸いというか才能なのか、彩愛はすでに、ちょっとした傷なら治せる力を、発現させていた。
「これ、巫女と巫女の騎士って書いてあるよ」
さくらが、膨大な本の中から、それらしき本を見つけてきた。
神殿の書庫は、私達が寝ていた最上階のすぐ下にあり、ワンフロアすべてが、広大な図書室だった。
「あうっ」
両手に本を抱えてかけてくるさくらは、予想通り転んだ。本を抱えていたがために、手をつくことが出来ず、両腕の肘から先一面を擦り剥ている。
「痛ぁい」
「あ~あ、もう、気をつけなさいな。高価そうな本を破損させたら大変よ」
「魔道書なんて、貴重本っぽいわよね」
彩愛は、痛がるさくらのそばにしゃがみ込み、右腕でさくらの肘をつかんで、左手を傷口に沿わせるように翳した。
すると、どうだろう。さくらの腕と彩愛の手のひらの間に、淡い光が発生し、見る見るうちに、さくらの腕の擦り傷が消えていくのだ。
「骨は異常ないみたいね。そんなに血が出てなかったし、清浄な神殿の中だし、バイ菌も大丈夫じゃないかしら?」
言って、今度は反対の腕を癒す。
「さすが、緑の巫女様、癒しのお力の素晴らしいこと。すっかり、傷が消えましたわ」
そばに控えている女神官達が褒めそやす。
「アンタ、いつの間に……」
「昨日からよ。外に放り出された詩桜里さんの腕にもこんな傷が出来たの。ちゃんと、刷り込まれた知識が、癒しの力の使い方を知っていたのよ。傷口についた砂利も落ちて、あっという間に塞がったわ」
彩愛はすでに、巫女としての力を使いこなしている。
さくらは、どうだろうか……
「え~、さすが彩愛ちゃん、すっごぉ~い。わたしも、巫女様の力、早く使えるようになるといいな」
どうやら、まだのようである。少しだけほっとした。
「えっとぉ、なになに?」
魔道書らしき本を開いてめくり、読み込んでいくさくら。
「暗がりに溜まった、汚れのぉ気配……んん、穢れかな、とにかく祓うには、光の精霊と契約してぇ、やっつける! のね」
「精霊なんて、見たことないわ」
「絵本では、精霊さんとか妖精さんとかいるよね」
私は、そんな不確かなもの、どうやって契約すればいいのか、見当もつかない。
「あっ、アレかな?」
さくらが、窓際へ寄っていく。
「……え? アレってどれ?」
見てもなんにも見えないけど。
「こんにちは、妖精さん? 精霊さん? わたしはさくらよ」
なにもない空間に向かって、さくらが話しかけると、窓の木枠に蛍のような光がともる。
「えっ!?」
ゆっくり明るくなったり暗くなったりしながら、蛍のような光が飛び立ち、さくらのまわりを回り始める。
「よろしくね。お名前はないの? 不便ねぇ。いいわ、お名前、つけたげる」
光の強弱が激しくなり、さくらのまわりを回る速度も上がる。あれ、喜んでるのかしら……
「蛍みたいに綺麗だから、そうねぇ、ステラちゃんでいい?」
さくらが訊ねると、蛍のような淡い光が、眩しいくらいに強く光り、やがて光が収まると、さくらの肩に、五百円玉くらいの大きさの──うさぎだろうか? リスかも? というようなふわふわしたものがとまっていた。
「わぁい、ステラちゃん、よろしくね~」
「さすがは巫女様、さっそく、ご契約なされたのですね!」
え?
「その精霊さまは、サクラ巫女様の守護と祓いの力になりますわ」
ええっ?
「さくらもやるじゃない」
「えへへ~、昔みた漫画やアニメみたいにやってみたんだけど、上手くいったね!」
喜ぶ二人を、私は素直に受け止められなかった。
お伴のはずの二人がすでに巫女としての力を表してきているのに、当の私がまだだなんて、笑っていられる場合じゃない。
さくらは、どうやって、自分の精霊を見つけたのだろうか。
「ん~とね、探し物はね、あると思って探すのがコツよ」
それじゃ解らないわ。
「とにかく、そこら辺にいると信じて、こんなのがいるかな~って見てみるの」
信じる…… ふと、詩桜里を思い出した。
あの子は、私の部屋の隅で、いつも神話や童話のような物語やライトノベルを読んでいた。
──あの子は、自分の精霊を見つけられるのだろうか
負けられない! 聖女は私なのよ!!
詩桜里の辛気くさい顔を思い出しながら、強くそう思った。
34
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる