148 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
110. そして、また恩人への隠し事
しおりを挟む「ここが、シオリの家なのか?」
「正確には、リリティスさんのお家だけど、私が自分で生活出来るようになるまで、自由に使える事になったの」
サヴィアンヌが、シーグの背に留まった蝶の姿から等身大の女王様に変化すると、戸口に降り立つ。
シーグの鬣を1本拾い、小屋の扉に当てる。
《この者も、ワタシの庇護下。ここの住人》
呪文とも思えない、淡々とした言葉。でも、それだけで、シーグはこの小屋に出入り自由となった。らしい。
現代日本で日常的に見られるドアノブを回す扉ではないので、シーグも狼姿のままで開けられるようだった。
軽く押せば、反動で扉が建屋に跳ね返るように開いていくし、中からは、鼻先を当てて押すだけで開く。
「へえ? なんだか、中は思ったより広いんだな?」
「やっぱり、シーグもそう思う?」
《見たところ、セルティックが精霊に作らせたようダカラ、きっと空間魔法とか形態維持とか、普通の建築法とは関係ナイ、物理的にデタラメ~な造りになってるんじゃないカシラ?》
「「えっ?」」
サヴィアンヌが精霊を視る眼で見たところ、そこかしこに古い精霊の力が染みこんでいて、しかも、更にカインハウザー様の霊気が、練り込むように混じり込んでいると言うのだ。
「そう言えば、家事全般があたり得意でないリリティスさんのひとり暮らしを心配して、カインハウザー様が精霊に色々便宜を図って貰うよう頼み込んで建てた小屋だって言ってたような……」
「へえ。あの、金髪の女性、料理下手なんだ?」
《ワタシの見た感じじゃ、秘書としての仕事は出来るケド、料理と言わず掃除洗濯、人間の生活習慣の殆どが得意じゃないみたいだケド?》
「人は、見かけによらないな」
シーグの言うように、あんなにカインハウザー様の秘書官として有能そうなのに、本当、見かけによらない。
でも、リリティスさんが成人──15歳の時、7つ年下のカインハウザー様は、まだ8歳。
「8歳で、この小屋を作ったの? カインハウザー様……凄い」
「わたしが作った訳じゃないよ、樹や地の精霊達が作ったんだけどね?」
「きゃっ」
ビックリした。
いつの間にか、後ろに立ってるんだもの。
「驚かせてしまったかな? 街でも、民も衛士も、今日は狼殿が一緒に街に入ったと話しているのを聞いたのでね、ちょっと様子を見に来たんだよ」
カインハウザー様は、この小屋を建てる時に霊的に関わっている上に、サヴィアンヌの封印の影響を受けない。いつでも入ってこられるのだ。
シーグは、じろじろと、不躾にカインハウザー様の頭のてっぺんから、足の先まで、観察していく。
「直接会うのは初めてかな。こんにちは、狼殿。わたしは、この砦街の領主、セルティック・ヴァル・カインハウザーという。よろしく、お見知りおきを」
そう言って、床に膝を突き、シーグの眼の高さになるべく合わせようとする。
『シーグだ』
「シーグ。この街を、シオリを救ってくれてありがとう」
『別に、お前に誉められるためにした事じゃない、シオリのためだ』
魔力を持つ狼のふりをするつもりなのか、狼の時は本当は喋りにくいのか、脳に直接響く念話で答えるシーグ。
「それでも、領主としては、街の近くにある危険、瘴気の活動を最小限に抑える手伝いをしてくれ、闇落ちを行動不能にして、わたしが保護しているシオリの身を二度も救ってくれた恩人には、礼を述べねばならないし、何か希望があれば、報いねばならないだろう?」
『希望』
「そうだ。何か、望みはないか? わたしで可能なら手配するよ」
じっと見つめ合う、カインハウザー様とシーグ。
『そうだな。木蔭で雨をしのいだり、何日も他人の畑から野菜を盗んで食いつなぐ生活は飽きたな』
「それはそうだろうな」
『この街で、普通に、屋根の下で雨を避け、毛布の上で眠り、何か、役目をして、食事を摂る。普通のことだろう?』
「……解った。さすがに豪邸は用意できないが、普通の、少し大きめの犬小屋でも?」
『いや、ここで、シオリと妖精王と、アリアン達たくさんの精霊と暮らす。いいか?』
犬小屋で眠ってて、ふと人の姿になったら、さすがに目も当てられない姿に違いない。
なんだか緊張する空気の中、しばらく目を反らさず向かい合っていた二人だけど、ふと目元口元を緩めたカインハウザー様が、笑いかけた。
「いいだろう。これからも、シオリを守ってくれるのかな?」
『ずっとそばにいると、約束した』
カインハウザー様は立ちあがり、シーグの頭を撫でる。
カインハウザー様にしてみれば、魔力を持った、喋るちょっと変わった大きな狼だ。
でも、シーグにしてみれば、自国では成人と見なされた立派な雄で、人の姿をも持っている人狼で、この扱いは不満だったのだろう、
『俺は、1人前の雄だ。子犬じゃない』
拗ねたふうに、カインハウザー様の手を振り払う。
「これは失礼。街と民の恩人の立派な狼殿に失礼した。撫でられるのはあまり好きではないのかな?」
『素直で裏のない子供なら構わないし、シオリは、いつでも好きに触っていい。が、他の知らん奴や雄には、簡単に触られたくない』
「なるほど、もっともだね。以後、気をつけるよ」
こうして、シーグが一緒に暮らすことは認められたものの、彼が人にもなれる人狼である事は、ついタイミングを逃して、言いそびれてしまった……
33
あなたにおすすめの小説
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる