異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

111. シーグの爆弾発言

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 狼や大型獣の毛は、見た感じゴワゴワと硬そうなのに、実際シーグの毛は、手入れを惜しまない女性の髪のように艶々と触り心地がいい。

 いくら撫でても飽きない。

「シオリ、いい同居人を手に入れたわね」

 ドキッとした。

「女の子や子供は、もふもふした柔らかい生き物が好きなものよね、フィオがちょっと羨ましいわ」

 領主館で働くメイド達も、リリティスさんも、シーグを撫でたくてたまらないらしい。
 よかった。『同居人』と言われて、シーグが人型にもなれる青年だとバレたのかと思った。

『ちょ……ちょっとだけならイイゾ』

 言って、シーグは後悔した。

「きゃーっ」
「本当!?」
「わあ、ふっかふか~」
「いや~ん、止められないぃ」

 触ろうとして出遅れたリリティスさんも、私も、ドン引きした。

 廊下で引き倒されて、四方から女の子達の手が伸び、もふり倒されるシーグ。

「わ、私は、今度小屋に行くわ。撫でさせてもらうのはその時にする……」

 メイド達のきゃいきゃい騒ぐ様子に、朝から疲れたように肩を落とし、カインハウザー様の執務室へ去っていくリリティスさん。

 私も、どの辺りで止めたらいいのかわからず、眺めているだけだ。
 気持ちは解る。いつまでも撫でていられる。
 でも、何人にも引き倒されてまで、顎といわず首といわず、背も腹も撫でられまくって、放心しているシーグの、逃げたいのか怒鳴りたいのかを耐える気持ちもわかる。

「あ、あの、その辺で…… この後もお手伝いする事もありますし」
「ゴメンねぇ」
「ありがとー」
「また、触らせてねぇ」

 逆毛を立てたようになったシーグと玄関ホールの方へ歩いていると、目を丸くして立っているカインハウザー様がいた。
「おはよう、シオリ。シーグ。それと、女王陛下もいるのかな?」
≪アリアンもいるよー≫

 天井から降ってきて、カインハウザー様の首に抱きつくアリアンロッド。
「おはようございます」
『……おはよう』
「なんだか、ずいぶん、毛が逆立っているようだけど、今朝はご機嫌斜めなのかな? それとも、新しいオシャレ……ではなさそうだね」
『アンタとこのメイドはどうなってるんだ? 人を引き倒して触るわ触るわ……毛がくしゃくしゃだ』
「ご、ゴメンね、後でブラッシングするから」
『シオリがしたわけじゃないだろ』
「止められなかったし」
「それは、悪かったね。シーグの許可を得た上で、節度ある触り方で、短時間にとどめるよう通達しておくよ」
『まったくだ。ちゃんと躾けてくれよな』
「し、シーグ、メイド達は、カインハウザー様が教育した訳じゃ」

 ツーン。シーグは、なぜかカインハウザー様には冷たい態度をとる。

「まあ、狼殿も一緒ならよかった。話があるから、こちらへ来てもらってもいいかな」
「はい。もちろんです」

 久し振りに入る、カインハウザー様のお部屋。

 白い天井や壁も、ビックリする大きなベッドも、私が寝泊まりしていた当時と変わらない。

 空色のカーテンが、風に揺れていた。

「懐かしいかい? あの頃のまま変わってないよ。衝立と君のベッドがなくなっただけだ」

 私が、懐かしげに視線を巡らせたのがバレたのだろう。カインハウザー様も目を細めて、微笑みながら、ソファに座るよう促した。

『衝立と、シオリのベッド? ここは、シオリの部屋だったのか?』
「そう言う訳じゃ……」
「そうだね。ここへ来た日から先月あの小屋を譲るまで、ここで、わたしと寝泊まりしていたんだよ」
『カインハウザーと? つがいでもないのに?』
 シーグの砂金を散らした水晶玉のような眼が、ギロリとカインハウザー様を睨めつける。

 シーグ、突っかからないで。本当に、寝泊まりしてただけなのよ。やましい事はないから。
 私が話を変える前に、祈りも虚しく、カインハウザー様がまるでワザとかと思うような選択でエピソードを披露する。

「そうだね。つがいでもないけれど、仲よく暮らしていたかな? 夜中に泣くシオリの手を朝まで握っていたり、歩けないシオリを運んだりもしたね?」

 ニッコリ、と言うよりかはニヤリとした笑みで、サラッと、シーグをからかうように答えるカインハウザー様。まさか、本当にワザとシーグの神経を逆なでしてませんか?

 ウゥーッ

 狼らしく呻り声を上げるシーグ。

「ははは。ヤキモチかい? 忠犬のご主人様を取り上げたりはしないさ。安心したまえ」

 どことなく大人げない対応のカインハウザー様。
 とりあえず、シーグの首の後ろから背の方を撫でて宥めながら、ソファに腰を下ろした。
 私の足元で、低い姿勢で、呻り続けるシーグ。

「やり過ぎたかな? すまないね。本当に、君からシオリを取り上げたりする気はないよ、軽いジョークのつもりだったんだが……
 若い衛士達を真似たんだが、馴れない事はするもんじゃないね、加減が判らないよ」

 カインハウザー様なりのジョークのつもりだったらしい。ジョークって場を和ませるものではなかったかしら?
 シーグはヘソを曲げたままだ。勘弁して欲しい。
 大きな狼のシーグの呻り声は結構怖い。

「それで、君達に来てもらったのは……」
『……だ』
「ん?」

 せっかく用事の本題に入ろうとしたカインハウザー様の言葉を遮って、シーグが、地を這うような低音で呟いた。

「シオリは、俺のつがいだ! 許可なく触れたり抱き上げたりすんじゃねぇ!!」






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