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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
68.マジックマッシュルーム
しおりを挟むお昼休み(伍の刻)も、おやつ(六の刻)の時間も、景色のいい山小屋で休憩をとる。こんな山で物資を運ぶのも大変なんだろう、食事は山の恵みのシンプルなものだった。特に、何種類ものキノコをたくさん入れた濃いスープは、この街道一の名物料理で、ずっと昔から出汁をそのままに継ぎ足して作っていくらしい。
鰻のタレみたいなものかな? 作り続ければ、悪くなったりしないのだろう、きっと。カレーのように酸っぱくなったりしないのだろうと自分を納得させ、口に含むと、きのこの風味が舌にまとわりつくような、濃厚なコクと味わいの、ポタージュやシチューのような感じのもので、とても身体が温まった。
《シオリは、そのアカヒラダケはあまり食べない方がいいと思うわ》
《そうネ。味が気に入っても、ヒトカケかフタカケで止めときなサイ》
なんだか、怖いことを言うフィリシアとサヴィアンヌ。
《別に、心配するほどのことはないワヨ? ただ、醜態は晒したくないでショ?》
心配するほどのことはないとは言いながらも、醜態は晒したくないだろうと言うのが、矛盾してない?
「あ、やはり、フィオリーナさんも、アカヒラダケは残されるんですね」
ルーチェさんがさもありなんと言うふうに頷き、見れば彼女もお皿の端に溜めている。
「何かあるんですか? これ」
「そうねぇ、身体が温まるし、栄養もあるんだけど、身体が出来上がってない子供や、魔力の制御が弱い人は、あまり食べない方が、いいかもしれないわね」
お母様も頷く。お皿の端に、特定の具材を選り分ける娘のお行儀の悪さを咎めないところを見ると、本当に食べないほうが良さそう。
ていうか、子供にはお勧めできないようなシロモノを名物にする食堂って!?
「魔力酔いするというのが近いかな? 見えないものが見えると言い出したり、お酒に呑まれた人のようにフラフラしたり普段と性格が変わったり。一定時間が経てば効果は抜けて、特に弱い人はしばらく眠り続けるんだけどね。中毒性はないから、もし酔っても心配しなくていいよ」
お兄さんも笑って言うけれど、それ、心配しなくていいとは思えません。麻薬と酔っぱらいの悪いところどりみたいじゃないですか?
「寒さが厳しい秋と冬だけ提供される特性スープで、春と夏はごく少量の付け合せ程度なんだが。体を温めるのと消耗した魔力や霊力を回復する効果の高さが、このスープが認められる理由だよ」
冬は雪に覆われる山の北側街道を行く人が凍えたり魔力を消耗した時に、かなりの効果を期待できるのだという。
中毒性はないとは言っても、そんな話を聞かされると、食べづらい。
困惑した表情でアカヒラダケを選り分けていると、
「俺は常に解毒作用が働いてるから、食べても問題はない。シ……フィオの分は俺が食うよ」
シーグが私の選ったアカヒラダケを、自身のお皿にひょいひょい移していく。
有り余る魔力を自身の身体能力の強化に変換される狼族のシーグは、体調に異変をきたすような異物を取り込んでも、常に無効化したり、吸収せずに排出することができるという。
「確かに、味はいいんだけどな。温まるし」
美味しそうに食べてる。温まる効果はそのままに、魔力酔いするのは解毒できるなんて都合のいい身体が羨ましい。
「私のもどうぞ?」
食べ終わったコッペパンが乗っていたお皿にアカヒラダケを積み上げ、シーグに差し出すルーチェさん。
「私も、今は魔力切れを起こしてる訳ではありませんから、摂り過ぎは良くないと思うので」
たぶん、魔力過剰に酔うタイプなのだろう。恥ずかしそうに、シーグにささげる。
ちなみに、ご家族は、ルーチェさんほど魔力に敏感ではなく、今まで悪酔いしたことはないという。
「そういえば、ハシュ兄様もこのきのこには弱かったです」
詳しくは聞いてないけど、この巡礼旅の途中で会えるはずだと言う離れて住むお兄さんは、ハシュさんと言うらしい。
ちゃんと、件の紅茶入パウンドケーキは、可愛いレースペーパーでラッビングされて、ルーチェさんの手荷物に入れられている。
「ハシュ兄様に会うのが楽しみです」
花がほころぶように愛らしい笑顔を咲かせるルーチェさんは、改めて美少女だなぁ、この人と姉妹に間違われるなんて恐れ多いな、とか思った。
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