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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
107.農場への待ち合わせ
しおりを挟む今朝もいつもの通り4時に目覚め、なかった。
気がついたら朝日はすでに昇っていて、腕時計は10時を示していた。現地時間で9時である。
それよりも、朝食はどうしようかな。もう、9時なら収穫祭の三日目は始まっている事だろう。
そもそも、小屋を出ても、大神官たち一行はまだいるのだろうか?
《アイツらなら、もう、領主と一緒に出たわよ。セルティックは内心嫌そうだったけど、ちゃんと感情を押し殺して彫像のような、アルカイックスマイルで応対してたわ。きっと今夜はぐったりして早々に就寝するわね》
とは、フィリシアの言である。
フィリシアも、サヴィアンヌほどではないけどそこそこ人間臭い表情や感情を見せる。
過去に誰も守護した事も、契約した事もないと言ってたけど、それでも誰の影響を受けることもなく個性を持つくらい、大きくて強い長生きの精霊なんだな⋯⋯
「じゃあ、気にしないで行きましょうか。どうする? お祭りの振る舞いものを食べるんなら、食堂へ行かなくてもいいわよね」
『俺は?』
「思うんだけど、彼らが探してるのは、金茶の大型の、狼犬でしょ? 人型のシーグと同一人物だと思わないんじゃないかしら?」
『まあ、変身するところを見てた訳じゃないからな。アイツらは。ハシュと言ったか? アイツが見てたかどうかくらいだし、もし見てたとしても、初対面でシオリを助けてくれたくらいだから、俺の事も漏らしたりしないだろう』
「そうね。だから、シーグも今日は一緒に行きましょう?」
魔力の漏れを抑える、王宮女官のケープを被り、アリアンロッドには小さくなって貰って、サヴィアンヌと一緒にシーグの肩や頭に座ってもらう。
そう。他の妖精達が大きさや姿を変えるのを見て気がついた。
アリアンロッドも、金髪の少女じゃなければいいんじゃないのか。と。
姿形を変えるのはまだ出来そうにないと言うけど、試しに大きい小さいを変えられるか訊いてみたところ、知らないとか言いつつ試した結果、サヴィアンヌが形態をコロコロ変えるのを見てて、手本にしたらしく、ちっさくはなれた。
《たぶん、姿に関しては、シオリの中のイメージが影響してるみたいだから、変えづらいかもね。大きさは、霊気のまとめ方を意識して変えれば、多少は可能よ。神殿の関係者に見咎められたくないなら、当分の間、形だけでも小さくしていれば、気配は変わらなくても見えないから、アイツらは見えなきゃわからないわよ》
と言うフィリシアのアドバイスでしばらくの間、小妖精くらいの大きさになってもらい、シーグか私の頭や肩に座ってるか、ポケットの中に入ってるかしてもらうしかない。
それでも、小屋でお留守番をさせるよりはいいと思う。
獣神の眷族を祖に持つというシーグは、人型になっても、その身体能力は一般人の何倍も優れていて、防風・防火を兼ねた風致林を通って、木を伝い砦壁を飛び越え、街の方へ抜ける。
私は、堂々と、丘を下って濠と砦壁の城門から門番のおじさんに挨拶をして街へ向かう。
シーグとは、北門の外で、羊の農場へ向かう途中で待ち合わせているので、大神官や美弥子達がまだ居ても会わないよう、中心部は避けて歩く。
何人か顔見知りの人と挨拶をする。領主館の外ではフィオリーナで通ってるし、ケープについても、リリティスさんかカインハウザー様から貰ったものとでも思っているのか、入手経緯を訊いてくる人もいない。
基本的に、この街の人たちは気が良くて懐が深く、詮索もしないしそのまま受け入れてくれる。私がセルヴァンス夫妻の養女になったからと言って、ここへ来る前の事を訊いてくる人もいない。
四日目ともなれば、さすがにいつまでも逃亡した狼を連れた少女が隠れているとは思わないのか、僧兵らしき人は見受けられない。
北門へ到着すると、巡礼者が北の国へ渡るのか、身分証明の割り札を手に並んでいた。
いつもなら、早朝の教会の配給食が済んだらすぐに発つものなのに、ついでに収穫祭を見て回ってたんだろうか?
「フィオリーナ様、どちらへ? 今日もノドルへ行かれるのですか?」
「ううん。今日は、ハビスさんの農場を見学させてもらうの。チーズや毛織物の加工場もあるんですって」
「そうですか。実は、教会近くの会場で穢れになるギリギリの凝りが、朝陽では浄化されてなくて、ちょっとした騒ぎになっておりまして。それで巡礼者達の外出も一時的に見送られてて今混雑してるんですが、ご存じなかったですか?」
「ええ。先週、瘴気や穢れの大浄化は済んだのではなかったんですか?」
また、穢れ騒ぎが? せっかくの収穫祭なのに⋯⋯
「どうやら、大神殿から下ってきた巡礼者達の置土産みたいですね。
ほんとに、あの神殿は、穢れを製造してるんじゃないだろうな?」
二隊の衛士は、さすがに後半は声を潜めたものの、大胆な発言をする。
「まさか、神さまの住まう場所であるべき大神殿で、そんなことある訳ないでしょう?」
「いいや、そうは言っても、この街で蟠った凝りって、殆どが隣国への通過巡礼者の落とし物なんですよ? この時期じゃなきゃ、穢れ騒ぎなんて起こらないんだよ、このハウザーは。それは本当に自慢なんだ」
それはわかる。住んでいる人たちは本当にいい人達ばかりだ。
住民が穢れを産まないというのは、自慢だろう。
複数の人が集まって暮らす以上、どうしても生まれる昏い感情も、例え暗がりに溜まったとしても、毎朝の光の精霊の営みで霧散する程度の軽いもので、ここの空気は、今までまわったどの土地よりも清浄だ。
次いでノドルも居心地がいい。のどかな村で、互いを思い合える村人達の気質と、コールスロウズさんとオークスの日々の活動のおかげだろう。
そうこうするうちに、やっと私達の番がまわってくる。
「すみませんね。フィオリーナ様なら、すぐお通ししてもいいのですけどね」
「他にもちゃんと並んで待っている人はいるのだから、身内贔屓はだめですよ。ちゃんと待ちますから」
「うん。これが、アイツらともなれば、誰だか判ってるだろう、いちいち確認せずともサッサと通せ、ですからね」
う~ん、目に見えるようだなぁ。
美弥子達の前では、気のいいお爺ちゃんの感じだったけど、丁寧な腰の低い言葉を使いながら、有無を言わせない強引さもあったのよね。それで私は棄てられたんだし。
街門の外は、国境へ向かう巡礼者達の後ろ姿と、収穫祭でも関係なくいつも通り放牧されている羊達の群れが、実に牧歌的だった。
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