3 / 72
駅前から自宅まで約8分の間に迷子になりました
ここどこ? 丹波の森ぢゃないよね? ★
しおりを挟む雑種犬か山犬か知らない汚らしい獣は、低く唸りながら、妖精の環の周りをゆっくりと廻る。
お腹を空かせているのだろう、肋骨が浮き出るほど痩せている。
こんなどこかわからない所で、犬っぽい何かのお腹の足しになって、改めて振り返るほどでもないしょぼかった人生を終えるのか~
不思議と、震えたり焦ったり、恐怖は感じなかった。
現実味がないのかもしれない。意識が途切れた後にもの凄い迷子、不思議な感じのするキノコとハーブのミステリーサークルの真ん中に立ってて。
状況判断もままならないうちに、現代では殆ど見ない野犬的な獣に襲われる。
確かに非現実的な感じはする。
けど、状況的に言って、のほほんとしてられない状況なんじゃないのかな。
───── ◆ ◆ ◆ ──────
お世辞にも、日頃の行いが良いとは言いがたい私の人生でも、ご先祖様は見守ってくれてるのか、山犬らしき獣は林の中に姿を消した。
どうやら、妖精の環のハーブか茸、或いはその両方の、臭いだか胞子だかが気に入らなかったらしい。
おかげで、今夜の方針が決まった。
嗅覚の良い獣の鼻を刺激するらしいハーブと茸に囲まれたまま、夜明かしする事にした。
幸い、ちょっと小石がお尻に当たるけど、三角すわりしてもはみ出さない程度に幅は余裕あるし、そのまま寝て足を伸ばしてしまっても、全身で横にならない限り、妖精の環を蹴飛ばしたり踏み潰したりはしないだろう。
虫や鳥、特に毒虫も気になるけど、山犬と同じで、ハーブが虫除けになってくれるような気がする。思い込みかな?
徹夜するか眠るか少しだけ迷ったけど、どうせ気配に敏い訳でもなく、明日に疲れを残して拙い事になるよりかはマシ。寝る事にした。
元々、本を持ったまま座って寝落ちるのや、お風呂で湯船に浸かったまま寝るのは日常的で、関西に居た頃、東京で下宿中の弟の所に行くのに夜行バス使っても平気で寝れたし、座って寝るのは大丈夫。
寝ると決まったら、お腹が空いてるのは気になったけど、他に何もないんだし、今夜はここから出ないと決めたから、食料を探すのも諦めた。
明日は早めに、水の確保を考えよう。
人間、二~三日食べなくても動けるけど、水がないとヤバい。
ホンマに、ここはどこなんかいな。
それよりも、明日は何か進展がありますように。
───── ◆ ◆ ◆ ──────
ちゅーちち ちゅくちゅく ちーちちち
「あー、もう、うるさい!!」
自分の、誰かに怒鳴る声で目が覚めた。
その誰かは、妖精の環のハーブに実った小さな実を啄む小鳥だった。
「うぇえ、ちょっと待って! それ、私の生命線かもしれないんだから、荒らさないで!?」
当然、ただの小鳥が私の言う事を理解する訳がない。小首をかしげて啄むのをしばし休んだが、再び啄み始める。
まぁ、ずっとここに居る訳にもいかないし、小鳥だって食事は必要だ。
それに実を採るけれど、まだ実ってない花や葉には触らないようだし、止める訳にもいかないだろう。
しばらく、小鳥の食事を眺めて和む。
少し肌寒い感じもするけれど、足の辺りは朝日がさして暖かいし、小鳥が鳴きながら啄む姿は見ていて心も少し温かくなる。
小鳥が飛び去った後、周りを見まわすけれど、やはり見覚えのある景色に戻ってもないし、夢落ちでもなく、現実として、知らない土地の林の中に座り込んでいた。
さて、これからどうしようかな?
林の方は、昨夜の靄と朝露で濡れていたが、この妖精の環のある開けた場所は、朝日を浴びて明るく、乾いていた。
どうやら、雨は降らなかったみたい。さすが、私。
何がさすがなのか。実は、年間を通じて、殆ど傘を使わないのだ。
都市型ゲリラ豪雨には数年に1度当たるものの、朝降ってても、出勤時には小やみになってて、仕事中再度降り出し、なぜか帰宅時にはやんでいる。
それは、急な残業にあっても同じ事。寧ろ定時であがった同僚は雨に降られたのに、残業後にあがった私はやんでたり。
雨に嫌われる女。降られない女。そんな渾名がついたり。振られない女なら格好いいけどね。
そして、昨日は全く気づかなかったけど、サークルの内側の、ハーブが何種類か濃く繁ってる所に、ハーブの株に隠れるようにして、昨日飲み残したペットボトルが転がっていた。
人工甘味料不使用の、ミルクコーヒーだ。
喉の渇きを癒やせるかと言うと微妙だが、糖分はとれる。
微炭酸乳酸菌飲料は見つからなかった。殆ど飲んでたから空に近かったけど、あるに越したことはないのに…。
手のひらよりかは小さいソフトクッキー5枚と、四分の一ほど飲んじゃったミルクコーヒー。
朝食に食べちゃう? 1枚だけにしとく? 何があるかわからないからとっとく?
お腹が空いた状態でずっといると胃が荒れるしなぁ…
取り敢えず、ぐーぐー鳴きだすまでは我慢して、1枚づつ食べよう。次に何か食べられるのがいつになるかわからないからね。
お陽様はまだ木々のてっぺんにかかる位置には来てないし、寝た感じでは7時か8時くらいかな?
スマホの電源を入れてみたが、7時47分で、やはりアンテナは5本中3本立ってる。のに、家にも職場にも、家族の携帯にも繋がらない。
メールも受信はしてない。
地図アプリを立ち上げても、現在地が検知出来ないとかで、使えなかった。
電池が勿体ないから、人里に出るまでと再び電源を切る。
それよりも、12時間以上用足しをしてないので、さっきから急に、朝一番のトイレが緊急な感じである。
散々迷って、しかしどうしようも無いので、安全地帯と思っている茸とハーブのサークルから出て、林の繁みの陰にしゃがみ込んでお花摘みする。
今は貴重なポケットティッシュを泣く泣く消費して、落ちてる枝を使って埋める。
他人に見られても恥辱で悶えそうだし、臭いで、変な獣を呼びこんだり、昨日の獣の縄張りを荒らしたと勘違いされて襲われてもかなんし。
さて、人心地ついたところで、どうしようか?
しばらく、目を閉じて、風の匂いを嗅いだり、音に聞き耳を立てる。
なんて爽やかな朝。
音は、葉が揺れる音と、時折鳥が羽ばたく音と、虫や鳥の鳴き声が聞こえる。
狼とか狐とか、猿とかの獣の声は聞こえない。
やはり、どんなに意識していろんな音を聞き分けようとしても、人の声や足音、車や自転車の走る音も聞こえないし、じっと空を眺めても、飛行機雲や高い位置をゆく飛行機も見えなかった。空気が湿ってると飛行機雲は残りにくいんだっけ?
自衛隊や米軍の演習機とか、新聞社やテレビ局のヘリとか飛んでないのかな。
ホンマにここどこやねん。
しばし森林浴を堪能した後(我ながら余裕あるなぁ)、カッと開眼!山犬の去った方角と少しズレた南東(多分)に、水の流れるような音を聞いた。
水槽の浄水器から水が流れるような、湯船に溜まった水が溢れるような音だ。
川か、斜面から水が漏れてるのか、流水の音だ。
生命維持に必要な物の1つを確保するべく、水音に向かう事にした。
地面は固くもなく柔らかくもなく。
落ち葉や小石はたまに踏むけれど、乾燥して砂っぽい訳でもなく、朝露で湿ってるけど泥濘んでる程でもなく。
木の根っこに気をつけていれば、ツッカケでも歩行は困難ではなかった。
10分も経たない内に、幅1mほどの小川に行き当たり、目に入る範囲で2カ所程、段差が十数cm程度の小さな滝が見える。その、高低差から流れ落ちる水の音が聞こえていたらしい。
昨夜の内に聞こえてれば。
無理か。湿った風のおこす葉ずれの音が、神経質な人なら寝られない程度にはザワザワしてたし、パニック状態ではなかったものの、今ほど落ち着いてもいなかった。
さて、この水は飲めるのかな。
山の湧き水。温泉地だったら硬質かもしれない。だったら飲めないなぁ。西日本の水ならたいていは軟水なんだけどね。
海外のミネラルウォーターみたいな硬水だと、変な味して、喉がアレルギー反応に近い症状を訴えたり、お腹壊したりするからなぁ。
そもそも、蒸留しないで、細菌とか大丈夫なのかも怪しいか。
①穴を掘って、コップを真ん中に置いて、ビニール袋を穴に弛ませて張って、穴の周りに水を撒く。
②蒸気が出てビニールを伝って滴が落ちてコップに溜まる。
《1》大きな樽に、小石、砂利、砂を交互に何層か、上まで詰める。
《2》1番下に、穴を開けてコップで受ける。
《3》上から水を入れて、砂利や砂で濾されて、清水が下から出て来る。
1.荒い素焼きの水瓶に水を入れる。
2.ジワジワ染み出てくる気化水を下で受ける。
以上が、なんかの漫画で得た、本当かどうかちょっと怪しい、ざっぱな知識。
詳細が解らないから、成功するとは思えないし、道具が足りない。
迷ったけど、まぁ、日本で、酸や毒の入った川って聞かないし、上流に化学工場がありそうでもないし、少しのミルクコーヒーで凌げる筈もないし、思いきって川に手をつけてみる。
ひんやりとして気持ちいい。
そのまま両手に川の水を掬い、顔を洗ってみた。
さっぱりとして、顔中の毛穴が引き締まるような感じがした。
顔の皮膚は、身体のように自然に垢にならないから、新陳代謝させるには洗わなくてはならない。
でも、化粧水も乳液もないから、乾燥しきっちゃうなぁ…
冬じゃないだけマシかな。
眼鏡も流水の中に浸して、軽く振るようにして水滴を飛ばす。眼鏡拭きもないから困ったもんだ。
それでも砂埃や小さなゴミを洗い流しただけで見やすくなる。
改めて周りを見回す。
綺麗だ。緑深い自然の景色。さらさらと流れる小川。
子供の頃は、こういう環境でよく遊んだなぁ。
──いかん、ついほっこりしてしまった。
さて、川が流れてるって事は、方角はともかく、川下に行けば、山から出られるよね?
滝があって迂回しなくちゃならないかもしれない。
断崖絶壁にぶち当たるかもしれない。
渋谷みたいに、川が地下に潜ってるかもしれない。
カルスト地形で山の中を鍾乳洞になって抜けるかもしれない。
それでも、基本的には、街に、最終的には海か稀に湖に出るよね?
川沿いに行けば、当座の水は確保できる。
2~3日食べなくても死にゃしない。
川の流れに沿って、道を下る事にした。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
