4 / 72
駅前から自宅まで約8分の間に迷子になりました
ここどこ? 霧ヶ峰高原ぢゃないよね? ★
しおりを挟む──なんだか懐かしい。
ヤバい。一気にオバサンになった気分だ。
世間的には、数年で50歳になる中年女はオバサンと呼ぶのかもしれない。
しかし、家族から独立して家庭を持った訳でもなく、仕事に邁進してキャリアウーマンを極めた訳でもなく、子供もいない、自分の生活に責任を重きに置かない生活を続けてきたせいでか、父、母共に、親戚一同が実年齢より若く見える血筋だからか、私の見た目は三十代なのだ。
父の10歳年上の姉が、父と同級生だった母とそんなに離れてないように見える。
むしろ着飾ってお出かけ仕様にすると、母より若く見えるのだ。
72歳より若い82歳、凄くない?
しかも、母だって72歳と言っても60代前半で通る外見なんだよ?
母の母、祖母は60を越えても、髪を染める必要がないくらい黒々としていた。上半身は丸々と肥っていたからかあまりシワもなかった。
それは父の姉や兄も同様で、そんなに太ってはいなかったが、顔や首などにシワは殆ど見られなかった。目尻の笑いジワがたまに目立つくらいだ。
私も含めみんな、ほうれい線も深くなく影が出来ないので(某作品で日本人が平たい顔一族と呼ばれる由縁か?)、それが若く見えるのにかなりのアドバンテージになっていた。
そんな見た目はアラフォー精神的には学生時代から変わらない実はアラフィフな私でも、仕事に疲れたりする。
毎日、誰がやってもそう大差ない繰り返しの仕事を、アルバイト学生とそう変わらない給料で、社員と同じかそれ以上の時間を働くだけの、楽しみは読書とスマホアプリゲームとたまの映画鑑賞という味気のない毎日。
最近じゃ時間もなくて疲れてるから、おやつ作りは月に数えるほどの休日のみだ。
このままスローライフやりたくなってきた。
もちろん、現状何も持たずに出来る訳ないんだけど…。
何かやりがいのある、私にしか出来ない仕事という訳でなく、淡々とこなすのが意外に疲れるし、同じ事の繰り返しが毎日に意欲が湧かないのだろう。
この森林の感じが、生まれ育った地の山に感じが似てて。歳と共にだんだん酷くなる花粉症も出なくて。空気が美味しい。胸いっぱいに吸っても咳き込まない。
益々、ここで暮らしたくなってきた。涙も少し滲んで来た。
疲れてるのか、この非日常な環境に影響されたのか、状況把握・現在地確認が出来ない不安からの現実逃避か。或いはそのすべてか。
あまり人の入った感じはない道なき道は、なだらかな下り坂で、時折離れた場所で小鳥が飛来したり飛び立ったり、こちらの様子を覗くようにリスっぽい小動物が、高い位置の枝と幹の叉から顔だけを出しては引っ込む。リス?モモンガ?ヤマネ?
リスやヤマネだったら仲良くなりたいなぁ。
どんどん現実逃避が激しくなっていく。
いや、マジでここはどこなのか。
改めて考えてみても、駅前から自宅までのたった8分少々の距離で迷い混んだ場所とは思えない。
勝手に妖精の環と呼んでいた、山犬から身を護ってくれた結界のようなものが、なんだかラノベ風に異界渡りの召喚魔法陣とか、SFチックに神隠し的なミステリーサークルとかに思えてきた。
でも、空気が、景色が、馴染む感じが、あまり危機感を感じさせない。
時々つっかけで歩きづらい所もあるが、元々里山歩きが苦にならないので、平気で下山(多分)しながら景色を楽しんだ。
太陽が、木々の上に来る頃、お腹がきゅるきゅる鳴き始めた。
ポケットからソフトクッキーを出す。
シナモン風味、マカダミアナッツ、アーモンド、チョコキューブ入り、ヴァニラの香りつきプレーンと、5つとも違う味が楽しめる。
元気を出そう!とマカダミアナッツ入りにする。
本当は二口三口で食べられるけれど、ゆっくり、少しづつ噛み締めて食べる。
この、柔らかい、やや乾き目のまるぼうろみたいな食感が大好き。
ポケットに無理やり突っ込んでたミルクコーヒーを、一口だけこくんと飲んだ。
その後も特に問題なくすすむ。
こういう時年かなと思うのが若い頃ほど食べなくなった事。
起きてすぐは食べても消化しづらくなってきて、次第に起きてすぐは食べなくなってきた。
数時間はそのまま活動し続けられるのだ。
たった一枚のソフトクッキーと一口のミルクコーヒーで、全然平気で山歩きが出来る。
喉が渇けば、川の水を掬って、口を濯いでからごくごくと飲んだ。
───── ◆ ◆ ◆ ───────
そんな感じで、わりと気楽に川沿いを下る事数時間、ここは住んでた多摩地区じゃないらしい事が判った。…多分。
──霧ヶ峰
空気が美味しい自分でお掃除出来ます新型エアコン…じゃなくて、ネットで霧ヶ峰で検索すると出て来る、一面の、爽やかな空と緑の丘しか見えない光と風を感じられる景色。アレが、今、目の前に広がってます。
勿論、検索して出て来る画像には、遠くに街と、送電線と鉄塔、民家や施設が点在してますが、ここには何もない。
延々続く緑の丘と遠くに緑の山、薄い水色の空。
所々花が咲いているのだろう、鮮やかな色がついている所も在るけれど、民家が在りそうにはない。
さっきまでの懐かしさを感じて滲む涙と違う、帰れそうにない絶望の涙が零れた。
「ホンマに…ここはどこなんや~ぁ~!!」
山びこが返ってくるほど壁になるものもなく、私の絶叫は空に吸い込まれていく。
体力的にではなく精神的に歩く元気をなくし、芝生っぽいふさふさした下生えに寝っ転がり、涙を拭うように顔を覆った腕をそのまま庇代わりに目を閉じた。
───── ◆ ◆ ◆ ───────
疲れていたと思うし、気落ちもしてた。
結果、数時間くらい寝てたらしい。
風が冷たくなってきて冷えたのだろう、くしゃみをして目が覚めた。
「こんな状況でも寝れるんやなぁ」
涙の痕を擦りながら立ち上がり、体中の草を払って、改めてまわりを見た。
来た方角、林の先は下ってきた山が近い。
真正面は何kmも高原が広がっていて、遠くに見える山まで徒歩では何日もかかりそうだ。
右手も山が近いので、民家を求めて歩くのも、つっかけではツラいかも。
元居た場所の山から右手の山、遠く向こうの山まで繋がっていて、なんとか連峰とかいうやつかな。今この場に釣部さんが居たら、あの山は何山?って聞いてみたい。
うう~ん、太田蘭三さんの渓流シリーズ読みたくなってきたよ。一時期ハマったなぁ。
取り敢えず、深呼吸して、歩き始めた。
いずれ山が続いて移動が困難な、背後(多分北)から右手、更に正面の高原地帯(多分南)は避けて、林から出て左手、なだらかな丘が少しづつ下り坂の方へ。
草原の真ん中は歩かず、林沿いに。
少~し過去に、人が歩いた事があるらしい踏み固められたっぽい草の生えてない獣道があったので。
それに、草原の真ん中を歩いていて、鷲とか猛禽類に襲われたら困るし。
イヌワシとか大鷲とか、翼広げたら2m超えるものもいるし、子育ての時期は、羊とか鹿(!!)も捕まえるって聞いた事あるし。大昔、ヒトの子供も攫われたって本当かな?
林沿いになら木蔭にもなるし。
昨日の山犬にも遭わず、心配した猛禽類にも遭わず、勿論、人にも逢わない。
だんだん暗くなって来て、再びぐうと鳴いたお腹を、チョコキューブ入りのソフトクッキーと二口のミルクコーヒーで黙らせる。10秒飯ゼリー飲料かぐーぴた的なお手軽食べ物が欲しい。
足元はまだ見えるけど、林の中は見づらくなってきた。
ここで再びスマホを起こしてみるけど、今度は位置情報サービスが使えないどころか、遂にアンテナも小さい×がついてしまった。
時間はもうすぐ5時半。
昨日は妖精の環の中で夜明かししたけど、今夜はどうしよう…。
暖をとる為に焚き火をして、山火事を起こしたら怖いし。日本には居ないけど、犀なんかは火を消しに突入してきて踏み消すらしい。そんな獣がいないとも限らない。
第一、火を熾す手段がない。
太陽が高い時間帯なら、眼鏡のレンズで光を集められるかも?だけど、暗くなったしね。
板か何かに枝で摩擦熱で火をつけるヤツは子供の頃試したけど無理でした。
火が点くほどそんなに回せないし、同じ位置を擦り続けられなくて効率が悪かった。紐か何かあれば、結ばずに一周させて左右に引っ張り続けて回せるかも知れないけど、紐もないし、やはり窪みでもないと、巧く一点集中で擦れないと思う。
まぁ、少し離れた位置に、林の中を今朝見つけた川が、同じ進行方向に向けて流れてるのは助かる。
繁みを越えて、川の水を口を濯いでから飲んで、顔を洗う。泣いた痕や砂埃や花粉等も着いてるかもだし、スッキリ寝たい。
虫歯も怖いし、どうせ寝るだけだから、大事なソフトクッキーは食べずに、ミルクコーヒーのペットボトルと眼鏡を草の上に置いて、右手にスマホを握って、夕べと同じ三角座わりで眠る事にした。
明日はどこか人里に辿り着けるかな…。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
