異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?

ピコっぴ

文字の大きさ
12 / 72
駅前から自宅まで約8分の間に迷子になりました

凄いよ、魔法! 早く私も使いたいよ~

しおりを挟む


 昼ご飯も、串焼きの獣肉を囓りながら、ペットボトルに詰め替えた川の水を飲む。

 夜の寒さに対して昼間は暖かく、魔力操作の練習と距離を稼ぐために足を止めないせいで、ジワッと汗をかく。

 川岸で、手拭いっぽい生地の借り物のタオルを固く搾り、首筋と脇の下の汗を拭う。
 ふと気づいたが、こんなに暖かいのに、ジュードさんは爽やかそうなのだ。
 いや、私は、年齢的に更年期障害が始まる頃合いかもしれないけど、男性の方が、基礎代謝高くて、汗かきやすいはずでは?
 聞くと、勿論、汗はかくが、クリーンや浄化の魔道を使っているという。

「えーずるいぃ。私も使えたらいいのに~」
 ジュードさんが言うには、クリーンの魔道は、水や風などの媒体を使って表面を洗い流す魔術で、浄化は病原菌や汚れ、不純物を取り除いて、在るべき姿に戻す事と、もう一つ、純粋な魔力や霊力で、汚れ、不純物、穢れなどを焼き払う魔術があり、更には上級者向けのものに、対象に在るべき姿の記憶を再現して、本来の正常な状態にする術もあり、それはさすがに魔道省の大魔道士や、神殿の奇跡を行う大神官でも難しいらしい。

「そうは言うたかて、ヴァニラ、まだ魔術使われへんやん。俺は、森や山で狩りをすんのに、風呂入られへんから、必要に迫られて覚えただけや。そのうち、ヴァニラにも使えるようになるて」
 そりゃ、幾らクリーン魔法使えたってお風呂に入らなければ、いずれ表在細菌感染症で臭ったり病気になるけど、数日の凌ぎにはなるやん。いーなー。
「川の水をしぼって拭いても、体はともかく、頭痒くなるのはどうしょうもないやん。羨ましい」
 言いながら、ジュードさんに近寄って、気づく。
「そっか、だから、ジュードさんは平気なんだ…」
「平気? 何が?」
「んー、聞いても気を悪くしんといてや」
 一応保険に、先に断っておく。
「私な、花粉症やねん」
「へー。そうか。ここらは杉・檜はないで」
「杉・檜は大丈夫「ほな、なんや」雑草。よもぎやブタクサ、稲科、菊系統」
「結構多いな。クリーンのおかげで俺の服や髪についてないって事か?」
「それもあるけど。
 その花粉症のせいで、多くの果物とかタラの芽や芹、生の葱類などの一部の植物性の食べ物は胃痛、痺れや動悸、呼吸困難なんかのアレルギー反応おこすねんけど…」
そこまで言うと、ジュードさんはギョッとして怒鳴る。
「そ、そんなん最初にゆえや! めし用意する時に入れてたらどないすんねん。俺、抗アレルギー剤なんか持ってへんで!!」
「ごめん、こっち来てから症状出てなかったから失念してた。
 んで、その関連なんかな?キツい臭いとかカビなんかを吸い込むと、普通の人より過剰反応おこすねん。咳ごんで止まらんとか、鼻水ポタポタ滝のように落ちるとか、涙が滂沱とか…」
「アッチでの生活、苦しそうやな…」
「そやねん。電車の中で香水臭い女の人おったら、コイツヤバい病気なんちゃうかって周りの人が席を立つくらい止まらんし、接客中に体臭キツいオジサンとか、押し入れから出したまま虫干ししてないジャケット着てんのかってオニーサンとか来たらもう大変や」
 遠い目をして語る。ジュードさんも何か感じるのか自身の肩を摩って身を縮める。
「でも、ジュードさんと一緒に居ても、1度もそんな事なかったから、全然気にしてなかった。ちゃんとクリーン魔法使ってたからやねんね」
「俺、臭ないか?」
「うん、大丈夫みたい」
 聞かれたから、もう1~2歩近寄って、肩の辺りを嗅いでみる。

 NHKのティーン向けの番組やったかな、十代の恋愛事情の特集みたいなので、ふたりの同じ男子生徒に片思いの女の子の、成就した方と駄目だった方との違いを検証していた。
 それの1つに、匂いがあった。

 人間の記憶に深く残りやすい情報に『嗅覚』があげられるのは他の番組でも見た事がある。
 好感の持てる匂いとその人物への好意とが、深く結びつきやすいとの事。
 他にも、声の質や、特定のちょっとした仕草などあったが、見た目が美少女で、髪を艶々にしてみたり、甘えてみたり優しくしたり、素の良さを生かしたメイクで可愛らしさをアピールした少女よりも、好ましい香りをさり気なく漂わせた(ここ大事。好みの匂いでもキツいと逆効果)、その男性にとって愛らしいと感じる仕草と聞き心地のよい声で話すだけの少女の方が、男子生徒に好印象だったという結果に。
 匂いが好みでないと、相性が良くないと思われるようだ。

 フェロモンをはじめ、匂いには、いろんな情報が詰まっているものなのだ。

 その法則でいくと、ジュードさんとは一緒に居ても不快でない、仲良く出来る人物だと言う事になる。
「なるほどな。匂いかぁ。特に気にした事ないけど、そう言われてみたらそうやな」

 関西人と関東その他の人との比較番組でも見たけど、美味しそうな物を見た時、初めて見る食べ物を見た時、目で判断する人が多い中、関西人はまず、臭い嗅いでた。美味そうな匂いか、不味そうな臭いか。そうかな? 他の地方の人もにおってみぃひんのかな?
 ちなみに私は、におう方です。お行儀悪いかもね。

 しかし、やっぱり、羨ましい。
「クリーン魔法「魔道、あるいは魔術な」魔術、難しいん?」
「そこそこかな? 生活魔道の1つとして、使える人は多いで」
「ウー、早くニンゲンになりたい~じゃなくて、人並みになりたい」
「ハイハイ。んなら、取り敢えず、頭あろたろか?」
「ホント!? やってやって!!」

 わ~い。私は髪が長いからか年齢からか、頭皮に皮脂が溜まりやすいらしく、2~3日洗わないでいると痒くなってくるのだ。そろそろヤバかったんだよね。シャンプーも無いし、川の中に頭まで浸かって頭皮をしごくように水だけで洗ってみるか迷い中だったのだ。さすがに夜は寒くて即決出来なかった。

 ジュードさんが呪文らしき言葉を謡うように呟き始めた。
 川から霧がたち、ふよふよと私に近寄ってくる。後は、特に呪文はなく、ジュードさんは真剣な顔で、私の頭を見下ろしていた。
 霧が髪の毛の間に浸透してくるのが感じられた。
「なんか、冷たくて気持ちいい」
「そうか…。お湯にするのは、別の術が必要で、俺はまだ2つ同時に扱うんは無理や。寒くなってきたら、先に湯を沸かしてからやらなあかんようになるけどな」
「全然、今はいいよ! 冷たくても汚れとか皮脂とか、臭い菌のもと、とれるかな?」
「そこは魔道や、普通に水で洗うんとはちゃうて」
「ふぅん?」

 なんか、美容院で指でマッサージするように洗って貰うのとちょっと感じが似てる。霧だけなのに不思議。でも、スッキリするね。

「ねえ、歯ブラシ、持ってないよね? してる所見た事ないし」
「ないな。地元の人らはちょい硬い刷毛みたいなんで擦ってるみたいやで。
 但し、獣毛とか繊維やのうて、木や固めた革を細かく裂いたもんみたいやから、歯茎切れそうでよう使わんかったんや」
「それは怖いな。私もよう使わんかも。
 ね! この術で、私の歯も磨ける?」
「ううぇえ? 歯、歯も磨くんか? 俺が?」
 何故か、ジュードさん真っ赤に。なんでや?

「えー、だって歯ブラシないんでしょ? 私にクリーン魔法…魔術使えるようになるまで! ね? なるべく早く使えるように頑張るから」
 う、だの、あぅ、だの、なんか、歯切れ悪い。ジュードさんらしくないな。
「こんな所で虫歯出来ても、歯医者さんあるの?」
「ないな。俺は見た事ないし、医者も内科と薬師くすしの中間みたいなんしかない。そもそも、魔道が使えるから治癒魔法ヒールやリカバリーで怪我やちょっとした病気は治してまうからな」
「だったら! それに虫歯出来ても歯垢溜まっても、口臭いオバハンになってまうやん」

 私のおねだり勝ちというか、根負けしたというか、同じか?とにかく、やってくれる事になった。

 頭を洗った霧は1度霧散し、新たな霧が漂い始める。魔力とか精神力とか疲労とか、大丈夫なんかな? 聞くと苦笑して答えてくれる。
「自分のんでも、頭あろた霧で口濯ぐん気持ち悪いやろ?」
 確かに…。ホント、気遣いさんだなぁ。

 軽く口を開くと、霧が躊躇ためらいがちに…表現おかしいかもしれないけど、本当にそんな感じで、頭の時みたいにサアッとは入ってこないで、おずおずとって感じで、霧がゆっくりと口の中に侵入してくる。
 少し唇を撫でるような感じがくすぐったい。
 やがて次第に歯と歯の間や歯の表面をゆるゆると磨き始める。
「なるほど、このままやったら虫歯出来まくりやな。とりあえず、食べカスと歯垢、取るわ」
 さっきよりもなお赤い顔で、ジュードさんは丁寧に歯を磨いてくれる。
 口を大きく開けたりイーしてみたり。別に、キス顔見せる訳やあらへん…んにゃ、訳じゃないのに、今までと違って随分恥ずかしがるなぁ。昨日は干してた下着見ても笑って突っ込んでたやん。

「終わったで。後は、うがいし」
「コレ、お腹や胸の下とか汗溜まるところも出来るん? やっぱり服濡れるからアカンの?」
 あ、ジュードさんめっちゃ咳込んでる。純粋に疑問を述べただけやん。なんで?

「か、体は自分でしぼりタオルで拭けるやろ! 出来る事は自分でしぃや」
 ハイ、ごもっとも。手のかかるオバチャンで申し訳ありません。
「ごめん、甘え過ぎやった」
「ん。…はよう、クリーン覚えてや」
 スミマセン。

 そんなやり取りのせいか、森を出て町に着くギリギリの辺りで暗くなり始めてしまった。

「こら、アカンな。町の入り口にたどり着く前に夜中になるわ。
 しゃあない、もう一晩野宿して、明日は、朝飯もそこそこに明るくなり出したらすぐ出よか」
 川沿いの道の標識を見ながら、ジュードさんが肩を落とす。
 これが、この国の文字かぁ…。……読めん。アルファベットみたいな、表音文字かな。ヤバい、覚えられんかもしらん。

「ごめん、変なこと頼んだから…」
「いや、ヴァニラには必要な事やったやろ。しゃあないて。
 旅行なんてな、なんもかんも予定通りに進むことなんか稀やで。そこをうまくすんのが、俺らの仕事や。気にすんな」
 もうツアコンじゃないのに、そう言ってくれる。ありがたいけど、本当に申し訳ない。
 狩りの予定も変えさせて、元々面倒見る筋合いのない他人なのに、優しくしてくれる。
 本当に頭が上がらないなぁ。

「あ、私ね、起きてから2~3時間は食べない方が体楽やねん。嘘ちゃうで。
 中年入って、運動不足か年齢か判らんけど、消化吸収出来るん、体が暖まってからやねん」
「年寄りか(笑)
 わかった。ほな、明日の朝は、起きたらすぐめしも魔力操作訓練もナシで、真っ直ぐ町目指すで」

しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...