異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?

ピコっぴ

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優しい大きな人達に、子供扱いされる私は中年女

陰に潜む野獣? ★

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 お世話になってる人達だし、ルーシェさんに子供扱いされた所で私に大きな不利益がある訳でなし、諦めて、みんなの視線で求められる「公爵様の可愛がってる近所の子(私の考える予想図)」を演じることにした。

 確かに不利益は生じないけれど、羞恥心とか四十余年生きてきた成人女性としての矜持とか、色々精神的なものがゴリゴリ削られていく気もするのですが……

 助けを求めて周りを見ても、3日ぶりに見た執事さんとか、妙ににこにこしてるマーサさん達は、目で、そのままルーシェさんのするようにされてろと圧をかけてくる。
 なんなんだ……

 私の事、本当に子供だと思ってるなら、もしかしてのまさかのマジなロリコンじゃないよね?
 いやいや、そうなら、私が気に入られてる事になるしそこまでのことはないか……

 デザートも美味しく、時々ルーシェさんの手ずから食べさせて貰い、ご馳走さまする。
 と、フィンガーボウルならぬ魔力で溜めた水球が目の前に現れる。ルーシェさんが、魔法が使えない私のために出してくれたものらしい。
 宙に浮かぶ水球で手を洗い、魔力のお水は普通のお水と違うのか、手を抜くと濡れてなかった。

 ルーシェさんは、私を抱き直して安定性を確かめると立ち上がり、お母様とルーティーシャさんに挨拶をすると、食堂の隣のサンルームに移動した。


 明るいお部屋の、庭に面した硝子扉の1つが観音開きに開け放たれていて、そこからテラスに出る。いつもより少し早い時間で、太陽もまだ低い位置にいた。

 テラスに用意されているテーブルセットの椅子に1人で座らされ、ルーシェさんは向かい側に座られた。ほっ。やっと幼児扱い時間から開放されました。

「ヴァニラ、ウィッヒヴァンヴェルグルビんクァンドンベリヒ……(以下略)」
 あ~あ、サッパリさっぱり、サッパリ妖精さんがまた日の丸扇子持って踊り出したよ。

 ──起きたすぐはなんで通じてたんだろう? 
 まぁ、通じてたと言うより、脳内で自動変換されてたっぽいけど。

 起きたすぐの状況。今の状況。違いは?
 体をくっつけてるくっつけてない? それならお父さん抱っこ中やお膝の上でも同じだから違うか。第一それが理由だったら、話したい相手に毎回べったりひっつかないといけないなんて、嫌すぎる。

 手を繋いでたからかな? ルーシェさんが強い魔法使いだから、接触テレパシーみたいな感じで通じ合ってた、とか? 試してみようかな?

 そっとルーシェさんの手を握ってみる。
 手の甲は、お貴族様らしく滑らかで手入れの効いた綺麗なお手々だけど、掌の指の付け根や指の節が案外ゴツゴツしてる。弟が剣道してた時の感じに似てる。魔法使いでも、貴族のご子息らしく剣を嗜むのかな?
「ヴァニラ? ファッティアールィヴ?」
「あ、ごめんなさい、なんでもないです」
 ルーシェさんは嫌がったり気持ち悪がったりせず優しく、何かを訊ねてくれる。
 恥ずかし。手を握っても、通じなかった。そりゃそうか……

 お母様とルーティーシャさんもにこにこして、テラスに出て来た。すぐ後ろにメイドさん達も居て、ワゴンにお茶セットが用意されていた。

 1人1人に、温められたティーカップが用意されている間、することなくて持て余し、俯いて足元を見る。お部屋から抱っこで移動したので、靴を履いてないのだ。お部屋まで、また、お父さん抱っこで帰るのかな? メイドさんに裸足の足を指さして見せれば、持ってきてくれるかな?

 ふと、足元の影に、違和感を感じた。ルーシェさんと私の影が少しだけ繋がっている。
 影なのに、ちょんちょんと黄水晶シトリンのように光るものが2つ。ネコ科のお目々みたいな?
「みるうぉーびぃ?」
「バニラ?」
ルーシェさんやお母様達が一斉にこちらを見る。
「にゃんにゃん、みるうぉーびぃ?」

 ルーティーシャさんが、首を横に振る。
「ごめんなさいね、この国には猫はいないのよ」
 アレ!? また、言葉が解る? どうなってんの?
「にゃんこ、いないの?」

 お母様も、微笑んでお答えしてくれた。
「愛玩用の小さな猫は、森の向こうの山を越えた神獣王國にはいっぱい居るのだけど、この国にはいないのよ。
 魔獣系でもよければ、雷獣やサーベルタイガーなら居るわよ? 森の奥にだけど。猫が好きなの? 飼いたい?」
「実家では二匹飼ってました」

 ルーシェさんも身を乗り出すようにして訊いてくる。
「飼いたいのか?」
「いないんでしょう?」
 私は首を左右に振った。第一、ここは本来私の居る場所じゃないのに、飼い始めてもこの先飼い続けられるかわからないし、もし日本に帰れるとしても連れて帰られないかもしれないのに、飼いたいとか、我が儘で無責任な事は言えないよ。

「それに、本来ここにいないものを無理に飼うのに、必要なものを用意するの大変でしょう?」
「まあ、そうだが…… 定期的に用意できないこともないが?」
 これは、どう解釈すればいいのだろう?

 飼ってもいいって事? てか、飼うって事は、私はまだしばらくここにいるって事?

 考え込みながら俯くと、また、影の中に光るものと、目が合った。

 ──光と目が合う?

 不思議に思ってじっと目を凝らすと、影の中に猫が座っていた。

「なんだ、黒猫か……ここに居るじゃないですか。可愛い、触ってもいいですか?」
「ヴァニラ?」

 異世界の猫は尻尾が2本あるのね? 猫又みたいに先が分かれてるんじゃなくて、お尻に2本生えてる。お髭も長くて、肩にもある? 触手? 厳密には猫じゃないのかな?
 にゃんこは目を細めてにあ~とひと鳴きして私の足の指を舐めた。か~あいい♡
 私が椅子の上から手を伸ばし、黒いにゃんこを撫でようとすると、ルーテーシャさんの優しい声と、ルーシェさんの鋭い声がした。

「猫なんかどこに居るの?」
「ヴァニラ! ダメだ!触るな!!」
「へ? ダメなの? 可愛いのに……」

 影と同一化してたようだったけど、一度猫が居ると認識したら段々そうと見やすくなって、にゃんこがちゃんと立体的に浮き上がって見える。
 さっきは飼いたいなら飼ってもいいって感じの話だったのに、この子は触っちゃダメなの?
「私、この子でいいのに……」

「くっ…… なぜだ。まさか昨夜からずっと私の影にひそんでたのか?」
 ルーシェさんは、何か苦しそうな、よくない感じで唸るように呟いた。

「影にひそむ……この国の猫は、忍者なん?」
「ニンジャ? かどうかは判らないけど、この子は雷獣の一種みたいね?」
 お母様がのほほんと答えてくれるのが、ルーシェさんの鋭い声と真逆で、緊張感がない。

 らいじゅう……って、雷獣? 肩の触手から雷飛ばしたり、鋭い爪で切り裂いたりする、SFのクァールとか幻獣とかの雷獣? この子が?

 ルーシェさんはそっと、まだ握ってた私の手を離し、後ろに下がりながら立ち上がって、影の上に座って首を巡らし周りを観察する雷獣を、警戒するように睨みつける。

 にゃんこはゆっくりと伸びをした後、ゆらりと立ち上がる。
 あ……れ? なんか、急に大きくなった?

 影の上に座ってた時は仔猫みたいな大きさだったのに、影から出ると、動物園で見るチーターくらいの大きさになってた。どーゆー事? 異世界の猫は伸び縮みするん?

 厳しい目をしたルーシェさんと睨み合って、黒猫改め雷獣が地に響く、虎かライオンみたいな咆哮をあげた。

 え? 何? 公爵邸に、モンスターが出たの?

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