異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?

ピコっぴ

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優しい大きな人達に、子供扱いされる私は中年女

私もするの? お帰りなさいませ、旦那さま ★

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 サンルームで茶器を選んでいたルーテーシアさんのこめかみに軽く挨拶をし、ソファでゆったりとしていたお母様にも頰に挨拶をしたルーシェさんが、くるりと振り返り手に木の箱を持って、ルイヴィークの背中を撫でる私に近づいてきた。

 すっくと立ち上がり、もう慣れたカーテシーでご挨拶。
「ルーシェさん、お帰りなさいませ」

 笑顔で何かを言ってくれるけど、解らない。
 写本途中の自筆の絵と文字を指先でなぞって、笑いかけてくれるので、お勉強を労ってくれたか、絵を誉めてくれたのだろう。

 手にした木箱を私に差し出す。

 なんだろう。最後の会話の内容を思い出してみても、帰ったら訊いてみたい事があるし色々話したいとだけ。
 その前の雷獣の騒ぎの時に話したこと……
『飼いたいのか?』

仔猫にゃんこが入ってる、とか?」
 ドキドキしながら、箱を受け取る。

 ルーテーシアさんとマーサさんが、にこにこ笑顔で私の背中を押す。

「ありがとうございます」
 ぺこりと頭をさげる。ルーシェさんは笑顔で頷いて頭を撫でてくれる。
 が、マーサさんが、まだ背中を押す。
 ──まだ何かある? お礼は言ったよ?

 ルーシェさんの隣に立ったルーテーシアさんが、笑顔で頰を指さす。ルーシェさんは気がついてないみたい。

 ほっぺ……つんつんしろって? 違うよね。

 ほっぺちゅーしろぢゃないよね? まさかね? 私が? ルーシェさんに? 冗談でしょ?

 ルーシェさんはただにこにこ笑顔で私の反応が楽しみな様子だけど、ルーテーシアさんやマーサさんが、感激を態度で示せと無言の圧力をかけてくるせいか、ほっぺちゅー待ちしているようにも見えてくる……しないってばさ。

 取り敢えず、木箱の蓋を少し押し上げると、ひんやりとした空気が流れでる。ドライアイス?
 木箱をそっとテーブルの上に置き直して、そろそろと蓋を外して横に置くと、冷気が抜けて、中味が現れる。

「かっ……可愛い♡♡♡」

 今、私の目はハート形に違いない! なんて、なんて可愛いの!

 両手に抱えて少し小さく感じる木箱の中に2つ、ちょこんと丸いリスが!
 艶々のブルーベリーのお目々、野いちごのお鼻。シマリス柄にツートンカラーのプチケーキ!!

 この世界にも、こんなお菓子があるなんて!!

「ルーシェさん、ありがとう! とっても嬉しい!! 本当にこれ食べていいの?」

 普段から抱っこされたりお膝で餌付けされてたからか少し下がっていたハードルが、元々のさみしがり屋で甘えん坊な本質を呼び覚ましたのか、感激のあまりやらかしてしまった。

 ルーシェさんの首に飛びつき、艶潤つやうるのほっぺに、自分のもっちりほっぺを押しつけてしまったのだ。

 子供の頃は父にしていたと思う。大きくなって、でも精神的に不安定な年頃に、母の背中にくっついたり抱きついたりはしてた。
 でも、よその人にはやってなかったよ? さすがに。手は無意識に握ってたらしいが……

「わっ、ぁわぁ!?」
「ヴァニラ、セルティックヴァル、ヘル(以下略)」
 ルーシェさんのお得意の(?)お父さん抱っこが発動した。抱き上げられる瞬間は、いつもはくるぞと判ってるから体重移動したりバランスとるけど、今は来ると思わなかったので、びっくりして首に縋り付く。
 立ち上がった所で腕を伸ばして突っ張るようにして、ルーシェさんのお綺麗なお顔から少しでも離れる。

「ごっごめんなさい。馴れ馴れしくて、あまり嬉しくてつい、わざとじゃないの!」
「ヴァニラ」
 たぶん、気にしないでとか構わないよとか言ってるんだろうな……

 ご機嫌なルーシェさんに縦抱きで連れ出され、そのまま食堂へ移動する。
 後ろに楽しげなお母様と、お土産の子リスのケーキを抱えたルーテーシアさんも続く。

 いつも不思議なんだけど、細身で魔法使いなのに(本当は魔道士らしいんだけど)、軽々と私を抱き上げる。

 言いたくないけど、下半身ぽっちゃりで、漫画のヒロインみたいに45㎏とか軽いって事はまずない。もっともっと重量あるよ、哀しいかな。
 足も、太腿は子供の頃から白豚ってからかわれてたし、ふくらはぎも張ってカモシカでロングブーツ入らなくて泣いたことあるし、下っ腹も丸々と出てて、全体的にお乳のあるキューピー人形なんだからね?
 その、わりと重量ある私を、苦しそうな様子もなく軽々と抱き上げるのだから、結構力持ちだよね。


 食堂に入ると、皆それぞれの席に着く。
 奥の席にルーシェさん、その左隣に私、更に隣にルーテーシアさん、その向かいにお母様。いつもの指定席。
 執事さんの合図でお料理が運ばれてくる。

 末席は、騎士様2人なのもいつもの通り。でも、2人とも知らない人。……じゃなくて、手前の薄い紫色の髪の人は、2日目にジャニーズ君の代わりに来た人だ。
 口は利いたことないので、名前とかどんな感じの人なのかとかは知らない。

ルーシェさんのお伴の騎士様は4~5人で交代制みたい?

 1番良く見かけるのは橙色の金髪の大柄2m超えのシュワちゃん。
 でも、いかにも使われてる人って感じで、侍従的な? ルーシェさんが代表取締役なら彼は課長とか部長くらい? 騎士団の階級も精々行ってて中尉、曹長とか軍曹くらいかな?
 どちらかというと、小柄なジャニーズ君の方が位が上みたい。彼は、ルーシェさんの秘書官とか専務理事とか、直属の部下って感じ。きっと彼も貴族階級の人で、中佐とか少佐とかかな~?

 お食事があらかた済むと、温かいお紅茶が出て来る。
 子供と思われてる私には、たっぷりのミルクとお砂糖がついてくる。ハイ、40を過ぎても、お紅茶も珈琲も、お砂糖とミルクがないと飲めません。

 恭しく、木箱の中の子リスちゃんをお皿に移してもらって、上から横から正面から眺める。眺める。眺める。
「か、可愛い♡ ちゃんとリスに見える」
 茶色い部分は、匂いからしてココアやチョコではないみたい。なんだろう。

 はあぁ♡ 幸せのため息をついて、両頰を手で受けて肘をついたり、テーブルに寝るようにケーキの子リスちゃんに顔を近づけたりして観察。
 お行儀悪いけど、(たぶん)美味しいものが可愛いなんて、なんて幸せなんだろう。

「なんて可愛いの~。食べるの勿体ないくらい」
「『カワイイ』? ヴァニラ、ウォクル、デ、アルバフ『カワイイ』デリヤク(以下略)」
「えっと『カワイイ』は、とっても可愛いものを見て、『可愛い~♡』と言うのが正しい作法です」(ホントか?)

 にこにこ笑顔で目を細めて訊ねるルーシェさんに『可愛い』を教えてあげる。

「ヴァニラ、ウォクル『カワイー』デル、シルセル『カワイー』?」
 ルーシェさんの大きな手が私の頭に載せられ『カワイー』と言ってくれるけど、正しく理解して言ってくれてるのかな。もしそうなら、これは……ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。

「ヴァニラ『カワイー』」
 ルーテーシアさんまで。これは、私よりもみなさんの方が、先に日本語覚えたりしてね。

 もう一つのお皿にも子リスちゃんを出して貰い、そっとルーテーシアさんの前に押し出す。
「ヴァニラ? クィルフココターク(以下略)」
「お裾分けです。幸せは分け合うのがいいのです」
 右隣に座ってるルーシェさんのお顔を仰ぎ見る。勝手に譲って怒るような人じゃないとは思うけど。一応ね。

 うん、微笑んで見てるだけ。大丈夫そう。

 手元のリスちゃんにフォークを入れて、半分に分けて、それの更に¼ほどをフォークに乗せて、ルーシェさんの口元に運ぶ。
「うふふ、いつも私の口まで運んでくれるから、お返しデス」
 いたずら半分なんだけど、ルーシェさんの驚いた顔見てちょっと満足した。

 ので、手元に戻してさあお味見、と思ったら、フォークを持つ手が少し重くなる。
 ルーシェさんが、ケーキを食べたのだ。
「う、うぇええ?」
「ジュウィーッ。クーグジュウィーッ。
 ……ヴァニラルッカ『カワイー』」
 頭をかき回すように撫でられる。
 どんどん顔が熱くなる。やめて、もう可愛いを連発しないで。

 子リスちゃんは、濃厚な太陽のルビーマンゴーに似た味と、バナナに似た味の交互になってた……筈だけど、それは後日同じものをお土産に貰ったから判った事で、この日は味がしなかった。
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