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優しい大きな人達に、子供扱いされる私は中年女
○と×の間に
しおりを挟む言葉が再び通じなくなっていて少し残念そうだったけど、ルーシェさんは、絵本の絵を指さしたり、私の描いた絵に記号や何かを足したりして、意思の疎通を図ろうとしてくれた。
今までの私の落書きや4コマ漫画は、筆談のツールとして、アバウトながら大活躍していた。
地球上であれば、○と×でいいけど、ここらではそういう使い方をしてなかったみたいで、私が○を書いて、頷いたり、親指を立ててグーをしてみたりしたけど、なかなか通じなかった。
お風呂場で、ルーティーシャさんに歯を磨いてもらってる間に、メイドさんが入浴剤を洗面器に入れて、今日のを選べと来た。
ここでピンときた私は、○を描いた紙を、緑色の炭酸水の前に置き、薔薇の花びらとピンクの濃厚な泡が入った洗面器と、青いムース状の液体が入った洗面器の前に×を描いた紙を並べる。
そして、緑色の炭酸水を指さして、頷きながら、
「今夜はこれにします」
と伝える。
「ヴァニラ、クォレスディアバル、ゴーティレア」
「これは、うんうんとか、ハイとかです」
首を縦に振って、○を見せる。
「これは、ダメダメとか、いいえです」
胸の前で腕をクロスさせ、首を横に振って嫌そうに×を見せる。
優秀な皆さんは解ってくれたみたい。
これだけでも、今後の意思疎通が楽だよね。
今夜も、やはり真珠色にじんわり光る、微妙に弾力のある、スイカやビーチボールくらいの大きさの球体が浮かんでいる。
ホント、これ、ナンナンデショネ?
踏み台から湯船に入り、この球体を高速で回したり、しがみついてラッコみたいに浮いてみたりして、毎晩遊ばしてもらってる。
……ん? まさか、まさか、幼児扱い!?
いやいや、さすがに幼児はないでしょ。
髪を洗ってもらった後、肩まで浸かって、ほこほこになったら出る。
いつもの通り、肩や首回りと腰を、優秀な整体師なみの腕前でほぐしてもらって、お顔や髪に栄養すり込んでもらって。
最近また、堕落生活に戻ってる。
でも、マーサさんは、言葉が通じていた時、お世話をするのが楽しいと言っていたし、おべっかとか使う関係性ではないし、気遣いだったとしても、彼女たちは使用人で、ルーシェさん達公爵家の人が私を保護して客人扱いをしている以上、世話をしない訳にはいかないのかもしれない。
だから、今は、練習台になってるのだと自分に言い訳している。
明日は何を習うのかな。令嬢じゃないんだから、社交ダンスや体幹トレーニングみたいな歩行訓練は要らないんじゃないのかな?
湯に浸かってほこほこになって、体の凝りもほぐされて、ふらふらと寝落ちしそうになった頃、ルーティーシアさんとルーシェさんがお部屋に来て、それぞれ、おでこやほっぺにお休みの挨拶をくれる。
すっかり飼い珍獣になってます。
2人ともにこにこ笑顔で退室していきました。
マーサさんが灯りを落とすと、眠気に抗えなくなってきて、絵本のお復習いは今日…は……ム…リ…
いやいや、少しでもお復習いしないと、また消えてなくなる! ……る?
お空、明るい? エ? もう朝?
天蓋のカーテンの隙間から、透き通った朝の光が差している。
うっそぉん、昨夜のお復習い、全くやってないよぉ!
慌てて飛び起きて、ベッドから出てみる。
窓際に小鳥が来てて、可愛い声で鳴いてる。
あれ? ジュードさんと出会った森でよく見かけた小鳥さんだ。雀とかヤマガラに似てるの。
ガラス越しにこちらを見てて、懐っこそう。
そっと窓の掛け金を外し、押し開くと、一度は飛び立った小鳥さん達は、お部屋の中にまで入ってきて、頭に肩にとまって、チチチ、チュチュチュと鳴いてくれる。
小鳥さんも、プチもふもふだよね。羽根がふわっとしてて、温かくて。
はわぁ~癒されるぅ♡
小鳥さんの声が近いので起きて窓を開けたのが判ったのか、メイドさん達が入ってきて、小鳥さんと戯れてる姿に構わず、窓際でそのままブラッシングや蒸しタオルや美容液のコースを始める。
「ヴァニラディアバル、エルクアルク……」
何を言ってるのか判らないけど、視線の先にあるもので考えてみるに、小鳥さん達が可愛いと言っているのだろう。或いは、良く懐いてますね~的な?
私に懐いてるのか、元々こういう感じなのか。森の中でも思ったけど、警戒心薄いよね。
髪を纏めるのが終わった頃、窓の下でなんか音がする。
棹か何か長いものを振るような、ビュッとかブンとかって何かがブレるような音。
窓に手をかけて、庭の方を覗き込むと、キラキラと素敵な物が観られました!
「きゃわわん、イイ♡」
ベントウッドチェアから飛び降りて(窓から身を乗り出すために乗ってた)、 お部屋を飛び出し、ここの人達に比べて小柄な私には結構急な段差の階段を必死に下り、途中で出会った執事さんやメイドさん達にはちゃんと挨拶をして(日本語解らないだろうけど)、 サンルームからテラスへ飛び出した。
朝の鮮烈な陽光がキラキラと眩しくて、自分の手で庇をつくってもまだ、逆光でよく見えない。
ビュッビュッ
空気が震えブレるような音。
カッ キンギン
金属のぶつかり合う重厚な音。
模造品じゃない、本物の音だった。
ヴォワッ ドォン
着火したかと思うと地が爆裂する。
澄んだ音、大きな地響きを伴う音。
湿った土の匂い。金属の、歯が浮くようなぞわぞわする匂い。
風に乗って届く汗の匂いと、僅かに湿った布がはためいてバタバタと飜る音。
私の心臓は、朝からぎゅぎゅ~っと締めつけられて、呼吸も浅くなる。
目元の上に庇をつくったのと逆の手を、胸元で固く握り締める。少し震えてた。
はぁあ……
私は、小さく震えながら、感動と興奮のため息をついた。ついてしまった。
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