異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?

ピコっぴ

文字の大きさ
67 / 72
保護児童(ただ飯食い)から公爵様の愛妾に昇格?

移るぬくもりと動悸、ふたりで1つ

しおりを挟む

 もう、泣くときはルーシェさんに縋ってか、ルーティーシアさんのお胸に埋まって、が定番になってきてる、保護児童(40歳後半)ヴァニラです。

 ジュードさんが上手く纏めてくれたもっともらしい私の身の上話、ちゃんとメモしとくほうがいいかな?
 日本語で書いてる分には、誰かに見られても読めないだろうし……

 それにしても、よくこんなの思いつきですらすらと言えたなぁ。感心する。ペテン師の才能あるよ、ジュードさん。



 *****


 その日も、ルーシェさんは遅めに帰ってきた。

 ちょっと暗めのお顔で、たぶんお疲れ。


 家人も寝静まる頃、ベッドの中でなかなか訪れない眠りを待っていたら、ルーシェさんが扉の音もさせずに静かに入って来て、天蓋の幕の手前で1度立ち止まり、洗浄だウォッシュ 浄化クリーンだかの術を使ってから、カーテンをめくり内側に入って来る。
「ヴァニラ」

 いつもの柔らかい優しいものとは違った少し掠れた声。風邪ひいたとかとは違う。
 体調とかメンタルとか下がってるときに出る、ツラそうな声にも聴こえる。

 今は、言葉、通じるのかな?

 ちょっと期待したけど、……ダメだった。

 英語やドイツ語に似てるような気もするけど、単語も文法もサッパリのまんまだ。

 厚手の魔道士ジャケットを脱いでベッドサイドに置かれたベントウッドチェアの背にかける。

「上品な上着、型崩れたりしちゃうよ?」
 意味が解ってるというよりかは、かけられた上着を見ながらの言葉に、だいたい想像がついたのだろう、少し口元に笑みを浮かべ、ずいいっとベッドの奥へ進む。
 途中で私の肩、背中を捕まえ、引き寄せて、髪を梳くように頭を撫でる。撫でる。背を摩る。

 う~ん、かなりお疲れのようですね?

 癒し系珍獣・保護児童抱き枕は、己の存在意義を果たすべく、見た目からは想像つかない意外に広い背中に腕をまわし、肩甲骨の上の辺りを、ぽん、ぽん、ゆっくりタップする。

 息を詰める気配の後、きゅっと締められる。

 普段は私が子供扱いな感じだけど、この瞬間は、どちらかというと、歳の離れたお姉さんやお母さん的な気分だ。
「今日もお仕事大変だったのね。お疲れさま」
 みたいな?
 事実、青年公爵様と初老に差し掛かる中年童顔オバチャンですけどね。

 しばらくぎゅ~したままのルーシェさんの腕の中でおとなしくしていると、深く息を吐いた後に解放され……なくて、腕を緩めるだけ。

 緩められた腕はするすると位置を変え、腿の裏側を大外刈りにゆっくり払うように寝かされ、その払った腕は私の背に、支えていた腕は私の枕になり、定位置で生きた抱き枕になる。

 何度か鼻先や額、頰にしっとり感の押しつけるだけのちゅーをもらったら、おねむタイムのゴーサイン。

 これね、慣れないんですわ。

 抱き枕は、慣れた。てかむしろ今では、ルーシェさんの体温ぬくもりがないと熟睡出来ない事も多い躰になっている。

 しかし、ルーシェさんの体温ぬくもりをもらっていよいよ眠れるって時に、温かいと言うより熱い、つい意識が集まるような、柔らかいものをうにゅっと押しつけられて、急激にドキドキがうるさくなる。

 ジュードさんがおかしくなった時の、吸いつくようなのや舐めるようなのはゾワゾワ気持ち悪かった(まあ、位置も違うけどね)けど、ルーシェさんの子供を宥めるようなふわっとしたのや、うにゅっと押しつけるだけのは、動悸が騒がしくなるのだ。

 ルーシェさんが首筋にちゅーをくれるようになったら、やはりゾーッとするのだろうか……

 人を困らせておいて、本人はストンと落ちるように眠ってる。

 で、ぬくもりが移って動悸が治まって、体温も鼓動も同調してふたりで1つな感じになる頃、私もふわふわ寝落ちるのだ。

 それまでの間、僅かに自由になる、ルーシェさんの背にまわした右手で、ルーシェさんのさらさらの髪の感触を楽しむ。内緒だけど。


 * * * * *


 今日も、私が先に目が覚めた。睡眠時間短めで長年躰も慣れてるしね。

 ルーシェさんの髪を梳いたり撫でたり指に巻いたりして感触を楽しみながら、寝顔を眺めていると、ルーシェさんが鼻先で唸るような小さな声をあげる。
「う……ン……ヴァニラ? ヴッフィアルグ……」

 目も開けず、ぎゅっと締めてきて、額や髪の生え際大当たりに何度も柔らかく口づける。
 いや、あのね、そういうのは、早く奥さんもらって、奥さんにしなさいね。

 ……そっか。ルーシェさんが奥さんを迎えたら、私は、独りでも熟睡できるように躰の習慣を戻さなきゃいけないんだね。そりゃそうか。いつまでもこの時間が続くわけもない。

 さんざん、恥ずかしいだの困るだの一人だけすっと先に寝てズルいだの考えてたけど、この状況は普通じゃないし、いつまでも続くものじゃないって、知ってるはずなのに、解ってなかった、心のどこかでずっと続く気がしてた。

 なんて我が儘で図々しいんだろう……


しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...