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保護児童(ただ飯食い)から公爵様の愛妾に昇格?
髪を撫でましょう、お互いに?
しおりを挟む私の背にまわされていた手が、私の右腕を摑む。
ヤベっ ルーシェさんの髪のさらさらを楽しんでたまんまだった。
「私の髪を触って楽しいのか?」
あ、言葉が通じてる。
別に怒ってるわけではなく、単に疑問なだけのようだ。
「とても。さらさらしてて、手入れの効いた髪の手触りって好き」
「そうか。今朝は話せるのだな。朝食まで、しばらく話をしようか」
話をしようと言いつつ、身を起こして抱き寄せ直し、自分も私の髪を撫でる。
「ヴァニラの髪も柔らかくて、少しひんやりしていて、つるっと触り心地がいい……」
「ルーシェさんも、髪を撫でるの好きね?」
「そうだな。動物の温かい被毛も、子供の柔らかい髪も、触れているとこちらの心も温かくなってくる気がするのだ」
「癒しですね?」
「うむ」
何度も頭のてっぺんよりやや下の辺りから背中の方まで撫で下ろし、時折額の生え際にうにゅっと来る。
寝惚けてるわけではないのに……
顔に熱が集まってくると、
「どうした。熱いのか?」
と、実に不思議そ~ぉに訊いてくる。
いや、熱いですよ? あなたのちゅーをもらった部分が。異様に。
「だって、何度もおでこ、ちゅーって……」
「……ああ、すまぬ。レディに失礼だったかな。
ただ、不埒な気持ちでした訳ではないのだ。髪の手触りもよいし、少しひんやりしてするするで、指に巻いてもスルッと解ける瞬間が気持ちよいし、こう、つい、な? ヴァニラが可愛いから……」
苦笑っぽい笑顔。
これは、本当の意味での『レディ』じゃなくて、おしゃまな女の子に大人の人が言うヤツね。むくれたのを宥める的な。
『可愛い』も『小っちゃなレディ』に言う、清少納言的なヤツね。
どれもこれも小さきものはいとおかしってか。
今こそ、本当はあなたと親子に近い年の差で離れたオバチャンなんですって言うべき?
でも、抱き寄せられて、なでなでちゅーって最中に、本当は子供じゃなくてええ歳した大人なので勘弁したってくださいとは言えぬぅ。
真っ赤になって俯くと、頰に添えられた手が少しだけ離れ、触れるか触れないかくらいの位置で、戸惑っているようだ。
「……すまぬ、いやだったか」
「嫌……ってほどではないけど、恥ずかしいしどうしていいのか解らなくて、ちょっと困る……デス」
上目遣いでルーシェさんの様子を覗いながら正直に答える。
やや眼を見開いて固まった後、ふわっと柔らかく微笑む。ちょい、嬉しそう。
「そうか、よかった。嫌ではないのだな。嫌われてるのかと気を揉んだ。
可愛いからついやってしまう事であって、困らせるつもりもなかったし、この所、ずっと共寝をしていたし、気を許してもらってるとばかり、嫌われる可能性など考えてもなかったのだ。……赦せ」
他の人が言ったら、どんだけ自信過剰やねんって思うけど、ルーシェさんの含みも勘違いもない、素直な言葉に、こちらが苦笑するしかない。
確かに、眠れない夜が続いて憔悴していたのを共寝してもらって、身の危険から、路頭に迷う可能性から、色々と助けて貰って、気は許してるのも、頼りにしてるのも、感謝しこそすれ嫌うはずがないのも間違いない。
そう伝えると、嬉しそうにもっともっと密着するように近く抱き寄せられ、
「レディに失礼だとは解っているが、嬉しいのだ。可愛いと思う。ヴァニラに触れていると疲れが吹き飛ぶようなのだ。君の言うとおり、こうして触れるととても癒される……
嫌でないなら、恥ずかしいと言うのなら、もう、人の目のある場ではせぬから……
赦せ」
人前ではしないと誓いつつ、何度か額の生え際に、鼻先に、目尻に、うにゅっと熱く触れていく。
黙って耐えてると、胸やお腹の奥がぎゅ~と締めつけるような苦しい感じがして、恥ずかしいしどうしていいのか解らないし、そわそわと落ち着かない気分になる。
目尻から、頰骨の辺りに軽く触れるだけのようなちゅーのあと、首筋にルーシェさんの吐息がかかる感じに身をすくめる。
少しだけ、ジュードさんに舐られた時のゾワゾワ感を思い出した。
私が身を硬くしたのが解ったのだろう。首筋にはちゅうはせず、そっと身を離す。
「すまぬ。あまりに心地よかったので、やり過ぎてしまった……
今後は控えるように気をつける」
そこはルーシェさんも男性と言うことか。でも、イヤらしい気持ちからではないようだし、心地よさについ熱が入ってしまったのだろうか。そう言うもん? よう解らん。
ただ、激しい嫌悪感や拒絶する気持ちは湧かなかった。ので、赤面した顔を見られたくないし、でこちゅーのあとで目を合わせづらかったので、俯いてルーシェさんの背に手を伸ばし、髪をイジる事でこの場の空気を誤魔化す。
「そうか。髪や毛を撫でるのが好きだと言ったな。私ばかり癒してもらうのも申し訳ないから、君もいつでも私の髪に触っていいから」
という事で、なんだか不思議な習慣が始まった。
朝晩の挨拶に、お互いの髪をいじり、ぎゅーされてうにゅっと来るのを耐えながら背中をなでなでしたり髪をくるくるしたりするようになった。
……なんでやねん なんか、おかしくないか?
*** *** *** *** ***
ヤバっ また、ルーシェがカインハウザー喋りになりそうに……頑張って読み返して直しました。
同時連載は、執筆にかかる時間と、気持ちの切り替えなど、そういう所が困りますね(笑)
気をつけま~す😅
今回は、ルーシェ暴走の回? 幾ら子供だと思ってても、いや、子供だから尚のこと? これは、アブナイ人ですよねぇ……
起き抜けってつい正直者になるんですかね?
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