聖女も勇者もお断り🙅

ピコっぴ

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【萌々香 Ⅰ】

🚱2 夏休みは自粛令

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 せっかくの夏休み、どこにも行けない若者達はフラストレーションが溜まっていた。

 私は、どちらかというとインドア派なのでそうでもなかったが、友人達は図書館の自習室で腐っていた。

「あーもー、苛々する。せっかくの夏休みなのにぃ。どこにも行けないよぉ」
「仕方ないでしょ? こんなご時世なんだから」

 世界中で飲酒や外出、店舗営業から会社出勤までの多くの行動を制限され、閉業・倒産、医療体制逼迫から政治家やメディア関係者への批判など、色んな物議を醸しだす流行病はやりやまいの勢力は衰えることなく、一部の真面目な学生である私達は、遊びに出掛けるでもなく、図書館で通年の倍はあると思われる課題を消化しに集まっていた。

「あーもー、マスクは蒸れて暑いし」
「化粧のし甲斐もないわよね。素敵な出逢いもある訳ないわ、こんなんじゃさ~」

 省エネなのか、エアコンは本のために除湿は成されているものの、設定温度は高めで、明るい窓際は外の熱気が迫ってくる。

 友人達は扇子や団扇で扇ぎながら、耳の紐は外さずにマスクを顔から離し、少しでも涼をとろうとする。

 人数分の清涼飲料を抱えた友達が廊下から帰って来た。

愛唯あおいゴメーン、コーラなかった。スプライトかジンジャーエールでもいい?」
「いいよ、炭酸が飲みたいの」
「ルイボスティーあった? ありがとー」
萌々香ももか、カルピスもなかったの。アクエリアスでもいい?」
「うん、ありがとう。一緒に行けばよかったね」
「4本くらい持てるって」

 美土里みどりは綺麗にウインクしてアクエリアスを手渡してくれる。ちゃんと、カロリー糖質オフとかにありがちの、人工甘味料は入ってないヤツだ。親友の心遣いに感謝する。

 本がたくさんある場所である図書館は、基本飲食禁止だけど、自習室は、蓋のある入れ物に入った飲み物だけ容認されていた。
 熱中症や脱水症で倒れられては困るからだろう。

 三人は、殆ど課題に手をつける事もなく、だべりだした。

「やっぱ海行きたいよね」
「プールでもいい。水辺行きたい」
「市民プールはイケメンいない上に、ちびっ子やダイエット講習のオバチャンでいっぱいだし、競泳水着オンリー水泳帽必須やん? 遊べないし、ホテルかせめて遊園地のプールでなきゃ」
「ええー、イケメンゲットするまで何回かかると思うのよぉ、お金足りなくなるって」
「新しい水着も買ってない~。デパートなんかも、食品や生活必需品コーナー以外は閉鎖されてるって言うし、例えやってても試着とか大丈夫かな?」
「布の上でも8時間くらい菌いるって言うしね」
「やっぱ怖いかな」
「それを言うなら、スマホとかお札の上とかツルッとした面なら3日くらい居るって言わなかったっけ?」

 四人ともゾッとする。スマホもお金も、日常的に使うもので、3日以上使わずになんて居られない。
 愛夏音あかねがポケットから小さな袋を取り出し、中から湿った不織布を1枚抜き出してスマホを拭いだした。

「これ、銀イオンが臭い菌も抑えるってヤツなの。みんなも使う?」
「抗菌濡れウェットティッシュでウイルスが死ぬの? ウイルスって細菌よりめっちゃ小っこくてしつこいんじゃなかったっけ?」

 でもみんな、やらないよりかはマシだろうと、せっせこスマホを磨いてた。

「で? どうする? プール」
「ホテルや遊園地は高いから、海に行きたいなぁ」

 美土里みどり愛唯あおい愛夏音あかねも、水着姿で夏を謳歌したいらしい。

萌々香ももかはどっちがいい?」

 急にこちらに振られて、答えに詰まった。
 完全に蚊帳の外だと思ってたのに⋯⋯

「ああ、萌々香はダメよ。水辺は嫌いなの」

 三人の内、幼稚園からずっと一緒の美土里しか知らない事だけど、実は、私は、水辺は嫌いだ。
 小さな頃から、たくさんの水の側に立つだけでゾッとする。
 水溜まりや家庭サイズのお風呂くらいならまだ大丈夫だけど、ホテルの大浴場やプールくらいになると、卒倒しそうになる。

 理由はわからない。

 子供の頃に溺れたとか乗ってた船が転覆したとか、トラウマになりそうな事実は、両親に訊いても何もなかった。

「だから悪いけど、私はパスで、みんなで行って? イケメンゲットしたら、出来たての彼氏のオトモダチでも紹介してよ」

 別に彼氏が欲しい訳でもないけど、みんなが気を遣わないように、軽く受け答えしておく。どうせ、一緒に行っても迷惑をかけるだけだ。
 自分でもどうしようもないから仕方がない。

「これを機に、克服するとか?」
「ダメダメ、嫌いなんてもんじゃないの、マジで倒れるから」

 美土里が間に入ってくれたので、私抜きで行くことになった。

 みんな、お喋りは止まらないみたいだし、もうひとりで帰って、家でやろうかな。宿題。

萌々香ももか、どこ行くの?」

 広げたノートや筆記具を手早く纏め、立ち上がる。
 愛唯あおいが見上げながら訊いてくる。
 あんた達が黙らないから帰る、とは言えないし⋯⋯

「帰るわ。夕食前で混まない内に、スーパーに寄って帰りたいし」
「ああ、アンタ、今一人だっけ?」

 両親は、父の派遣先の国から帰国出来ずにいる。あちらの方がワクチンや制度が整ってるから、無理して帰ることはないと思っているけど、もう1年以上顔を見ていない。

 家は従兄いとこ夫婦が近場に就職したので貸していて、私は学校に近いマンスリーマンションに一人暮らしだ。

「寂しくない? ご飯食べに行ったげよっか?」
「そこは、作りにじゃないの? いいわよ、密がどうのとか、管理人さんに文句言われたくないし」

 この子達が集まれば賑やかになるし、個人の部屋だからと、話す時のマスクや距離などの感染予防に気の緩みも出るに違いない。

 冷たいと言われてもいい。彼女達を置いて、自習室を出た。



 ❈❈❈❈❈❈❈


この作品は、2020年に書き始め、2021年の夏に序盤七章を公開したもので、多少の時事ネタになっています(八章から未完のまま休載中で、お気に入り登録してくださった方、読んでくださったたくさんの読者のみなさま、申し訳ありません)
今と生活環境が違ってもそういう時期の話なんだなとスルーしてください🙏

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