空を飛んでも海を渡っても行き着けない、知らない世界から来た娘

ピコっぴ

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オウジサマってなんだ?

37.緑風の森を歩く者達

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 朝議も無事済ませ、軽く昼食をとってジュードを送り出し、後のスケジュールを、オウルヴィと確認する。

「あ、局長、これを……」
 四つ折りに畳まれた紙を手渡される。
 開いてみると、先程ジュードが話していた、自国とヴァニラについての話をとりまとめた物だった。
「先程、調書の間に纏めておきました。参考までにどうぞ」
 にっこり笑って、自分の執務机に戻る。

 国があったと思われる地域の候補から、魔道を使わないカラクリ文化、多岐にわたる書物が多く発展している事と、ヴァニラが物語やマンガなる絵で伝える本を多く読んで育ち、影響があるらしい事。
 小動物が好きで、妖魔だと知っても可愛がるほどだという事。
 食の好みから、性格の考察、それらに対しての扱いの注意点まで細かく、女姉弟がきょうだい いる者ならではの男には気づきにくい点まで、オウルヴィの推測と注釈入りで書かれていた。

 こういう所は、素直に感謝するし感心もする。頭も下がる。
 丁寧にたたみ直し、上衣の胸の隠しに大切に保管する。

「予定を一部変更して、まずは緑風の森の調査団に出す者と、研究開発と王宮の守りに残す者と、人員整理をしましょう」
「……そうだな。研究班の中に、緑風の森の生態系に詳しい者がいるか、進んで調査したい者が何人いるか、確認をしておこう」
 能力があるかどうかも大切だが、やる気や興味があるかも考慮したいと考えていた。

 緑風の森の調査をする事になったと発表すると、あちらこちらでざわめく。
 研究職の魔導師の中には、王立学舎の教授を兼ねている者も多く、殆どの者が立候補した。
 平民から募った職業兵士の遠征訓練も兼ねている事を付け加えると、付与魔術や攻撃手段にも応用の利く魔術に長けた者が立候補した。一般兵士への付与魔術の効果や、合わせ術の実地演習がやりたいらしい。

 引き籠もって魔道探究に腐心する者が多い中、自発的に参加を希望する者が多く、ルーシェンフェルドは胸を撫で下ろす気持ちだった。
 

 研究と調査を並行して行う研究職の魔導師と、攻撃や補助の魔術が得意な武官職魔道士と、もしもに備え、回復魔術が得意な魔道士も数人選出する。

「神殿の祈禱師や神官は、緑風の森には入りたがらないだろうからな」
「そうですね。瘴気は払われたとはいっても、魔族や魔獣が居ないわけではないですし、穢れを極端に嫌う人達ですから……」
「魔獣落ちしたとはいっても、元は神獣、魔力を多く持つ野生動物で、人間に比べて負の感情など持たぬゆえ、そもそも瘴気の素になり得ぬ存在。魔族とてその多くは魔力が強いだけの種族。なにも必ずしも穢れた存在ではないと言うのに……」
 魔物が棲む場所に瘴気が溜まるのではなく、瘴気の籠もる場所に、魔素に惹かれて魔物が集まるのである。
 瘴気の多くは、人や生き物の負の感情から生まれ、魔素を闇色に染めて溜まっていくのである。
 緑風の森は、大昔の大戦跡地で、山や野にうち捨てられた太古の戦死者の恨みや痛み、望郷と絶望などの負の感情や浄化されなかった霊気が瘴気となって溜まり、魔素を糧とする魔物が棲むようになったものである。

「彼らは、神を至高の存在とし、想定敵対種をあげて信仰を募りますからね……おっと」
 つい口を滑ったと言った風で、オウルヴィが口元を押さえる。

「少なからず、ここにも信者はいるのだぞ、発言には気をつけよ。どういったクレームをつけられるか解らぬぞ」
 どこでも、熱狂的狂信的な信者という者はいるらしい。

「では、私はしばらくお側を離れますが、クルルクヴェートリンブルクもそろそろ側係を務めてもよい頃。経験を積ませるのもいいでしょう。不在中の後任に、シルベルスト・カルギス・マジュアス・ソルディスカーンを任命しておきました」
「うむ、彼なら慣れておるから大丈夫だろう」
「火急の用があれば、これを……」
 親指と人差し指で摘まめる程度の小さな小瓶を手渡す。中には、ふわふわした綿毛のような、ぼんやり光るものが入っている。
 目視確認し、ルーシェンフェルドはそれも魔道士用コートの内の隠しにしまった。

「すまないが、よろしく頼む」
「では」
 腰元の騎士剣を掲げ、礼をとると、オウルヴィは局長執務室を退出する。

「さて、何か判ればいいが……」


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