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ドジっ娘(死語)は嗜虐心と庇護欲を掻き立てる?
友だちなのに⋯⋯
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📦
相手は王族なので、深めのカーテシーで丁寧に挨拶をしたあと、ゆるゆると部屋の奥に進む。
視線を巡らせて確認してみても、下座のソファはお兄さまとアーベントシュティアン様が座っていたので、お兄さまの手前、アーベントシュティアン様の隣に座る訳にもいかず、お母さまの隣の下手側に座ろうと思ったのに、ニコニコ笑顔のお母さまと殿下に、奥のソファの右側──殿下に一番近い席に座らされた。
私が、ルシーファ殿下の婚約者だったら許される距離だろうけど、もちろん違うしそんな話が出ている訳でもない(微塵もない)のに、この席でいいのだろうか?
「久し振りだね、フロリス嬢」
「はい。輝く君のご尊顔を拝し恭悦至極に⋯⋯」
「私達は、友になった」
「はい?」
綺麗だけど、表情の変化が少なく感情の読めない美貌の、整えられたのか生まれつきなのか形のよい柳眉が僅かに顰められる。
「友なのに、そのような堅苦しい臣下の礼は要らぬ」
ああ、他人行儀に過ぎるから、もう少し、気楽に崩せということ? でも、王族と臣下の伯爵家なのだから、最低限これぐらいは⋯⋯
「フロリス。殿下は、親しい友人が少ない。私も、学校や王城の奥宮では、臣下の礼は省略させていただいている。従兄君にあたるアーベントもな」
つまり、人前では臣下の礼をとっても、プライベートでは友人として対応しろってこと?
「友として、たまには伯爵と王都へ上って、兄上のフォオリウムと共に会いに来てくれる約束であった」
確かに、お父さまは、十二歳の貴族子女を集めた王家主催のお茶会の場で、王都に出向く用があるときは私を伴い、貴族学校の寄宿舎にいるお兄さまも連れて、顔を見せると約束した。
けれど、あれから一度も王都には向かわれなかったのだ。仕方ない。
王都での社交シーズン期間の貴族会議には、叔父さまが代理人として出席した。
お父さまは、季節外れの大雨で田畑が汚泥に浸かった地域の治水対策に忙しくて、それどころではなかったのだ。
「あれから半年も経っているのに、友に一度も会えぬとは」
さすがに不義理に過ぎるということ?
「申し訳ありませ⋯⋯」
「責めているのではない。年明けての雪解けと大雨で、領地の南の方が大変だったのは知っている。往復で二週もかかる王都へ出向いている場合ではなかったのだから、会えなかったのは理解している」
「では⋯⋯?」
テーブルの、殿下の前に詰まれた化粧箱の一つの蓋を開け、アーモンドが乗せられた艶のある茶色い塊を、その白く男の人にしては柔らかそうな指で優雅にそっと摘まみ上げた。
そのまま、その手は私の目の前に運ばれ、私の唇に、アーモンドと甘い香りのする茶色い塊──ショコラーデを当てられる。
「約束の、王都で流行りの菓子だ」
にっこりと、婚約者でもない女子の唇に菓子をあてがっても悪びれない殿下の笑顔は、心臓が活動停止してしまいそうなほど、破壊力があった。
相手は王族なので、深めのカーテシーで丁寧に挨拶をしたあと、ゆるゆると部屋の奥に進む。
視線を巡らせて確認してみても、下座のソファはお兄さまとアーベントシュティアン様が座っていたので、お兄さまの手前、アーベントシュティアン様の隣に座る訳にもいかず、お母さまの隣の下手側に座ろうと思ったのに、ニコニコ笑顔のお母さまと殿下に、奥のソファの右側──殿下に一番近い席に座らされた。
私が、ルシーファ殿下の婚約者だったら許される距離だろうけど、もちろん違うしそんな話が出ている訳でもない(微塵もない)のに、この席でいいのだろうか?
「久し振りだね、フロリス嬢」
「はい。輝く君のご尊顔を拝し恭悦至極に⋯⋯」
「私達は、友になった」
「はい?」
綺麗だけど、表情の変化が少なく感情の読めない美貌の、整えられたのか生まれつきなのか形のよい柳眉が僅かに顰められる。
「友なのに、そのような堅苦しい臣下の礼は要らぬ」
ああ、他人行儀に過ぎるから、もう少し、気楽に崩せということ? でも、王族と臣下の伯爵家なのだから、最低限これぐらいは⋯⋯
「フロリス。殿下は、親しい友人が少ない。私も、学校や王城の奥宮では、臣下の礼は省略させていただいている。従兄君にあたるアーベントもな」
つまり、人前では臣下の礼をとっても、プライベートでは友人として対応しろってこと?
「友として、たまには伯爵と王都へ上って、兄上のフォオリウムと共に会いに来てくれる約束であった」
確かに、お父さまは、十二歳の貴族子女を集めた王家主催のお茶会の場で、王都に出向く用があるときは私を伴い、貴族学校の寄宿舎にいるお兄さまも連れて、顔を見せると約束した。
けれど、あれから一度も王都には向かわれなかったのだ。仕方ない。
王都での社交シーズン期間の貴族会議には、叔父さまが代理人として出席した。
お父さまは、季節外れの大雨で田畑が汚泥に浸かった地域の治水対策に忙しくて、それどころではなかったのだ。
「あれから半年も経っているのに、友に一度も会えぬとは」
さすがに不義理に過ぎるということ?
「申し訳ありませ⋯⋯」
「責めているのではない。年明けての雪解けと大雨で、領地の南の方が大変だったのは知っている。往復で二週もかかる王都へ出向いている場合ではなかったのだから、会えなかったのは理解している」
「では⋯⋯?」
テーブルの、殿下の前に詰まれた化粧箱の一つの蓋を開け、アーモンドが乗せられた艶のある茶色い塊を、その白く男の人にしては柔らかそうな指で優雅にそっと摘まみ上げた。
そのまま、その手は私の目の前に運ばれ、私の唇に、アーモンドと甘い香りのする茶色い塊──ショコラーデを当てられる。
「約束の、王都で流行りの菓子だ」
にっこりと、婚約者でもない女子の唇に菓子をあてがっても悪びれない殿下の笑顔は、心臓が活動停止してしまいそうなほど、破壊力があった。
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