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竜種討伐
60話 回帰する騎士道
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オリバーは竜種との圧倒的な戦力差を前に作戦を立てる気力も湧かないまま夜を迎える。
騎士たちは絶望的な状況ながらも炊き出しや物資の補給など任された役割を全うしていた。
「元気がなくても食べておけ」
テントの端で座り込んでいるオリバーに夕食を差し出す。
「ディアンさん……僕には食べる資格がありません」
「どういう事だ?」
「僕は援軍としてここに来たのに状況を打開できる策が何一つ思い浮かびませんでした。それどころか被害状況を聞いて混乱してばかりで……」
「それは詳しく状況を説明しなかった僕のせいだ」
ディアンは落ち込む後輩を何とか励まそうと試みる。
「いえ、むしろ王都で現状を知っていたら何を仕出かしたか……」
ディアンさんは何も間違っていない、と付け加えて自身の未熟さを痛感した。
国境沿いに駐屯している騎士たちに声を掛けていたか、それとも国王に状況を伝えて他国から援軍を呼ばせたか――――騎士隊長という肩書きを持っているオリバーは貴族と同程度の発言力を有している。
今の自分を見れば、先走ってやらかすことも過言ではないと考えていた。
炊き出しに手を付けようともしない彼を見兼ねてディアンは腰を下ろした。
「部下の暴走を止められず守るべき学生に助けられて、謹慎処分を食らって、団長には足手まといと言われて、自分の知らない所でディンゼル殿が亡くなって……落ち込むなってほうが無理な話かもな」
「……足手まといとは言われてませんよ。『今のも避けられないんじゃ話にならん』って言われたんです!」
俯いていたオリバーは聞き捨てならないと言わんばかりに彼に訂正を求めた。
「あれ、そうなの? でも反論するぐらいの元気はあって良かったよ」
「…………」
「よく聞けオリバー。僕たちは王国を守る騎士団だ。どんなに辛いことがあっても立ち止まっている暇は無い。お前はめしを食う資格も無い無能だと思っているらしいがそんな事はない。お前は部下を率いて夜遅くから昼まで馬を走らせてきたんだ。隊律違反で団長に斬られる可能性もあったはずなのにだ。それはお前がこの国の人達を守りたいって思ったからだ。その志がある限り、お前には飯を食う資格はある。それは僕が保証してやるよ」
「ですが……」
「ゴチャゴチャうるせぇ、これ以上喋ったら蛇の餌にするぞ」
素直に聞き入れない彼に怒気を含ませる。
「あ、ありがたく頂きます!」
気圧されたオリバーは器を手に取り、口の中にかき込んだ。
「食べながらで聞いてくれ。自分に自信が持てないならこの戦いで活躍するのはどうだ?」
「――――活躍以前に再戦するのかすら怪しい状況ですけど……」
『王都へ撤退し体勢を立て直す』という考えが騎士たちの中で蔓延していた。
勝算の低い戦いなのは間違いではないため妥当と言えなくも無い。だがそれを実行するには数々の障害があった。
まず今の竜種たちは成長途中であり、成竜に至ってしまえば脅威度はより一層増してしまうこと。
次に王都よりも近い南の町に被害が出る可能性が高いことだ。南部一帯を管轄していたディンゼル隊は隊長をはじめ、多くの犠牲者が出してしまっている。
万が一、町に目を付けられてしまえば残りの戦力で守り抜くのは極めて困難な状況だった。
撤退に対する損害を踏まえると、この場で竜種を討伐するのが最善と言える。
「確かにこのまま戦っても勝算は皆無だ。だがひとつだけ勝ち筋を見出す策がある」
「――――その策を教えてください! 僕に出来る事なら何でもやります!」
自信満々に話すディアンに食べ終えたオリバーは身を乗り出す勢いで尋ねた。
「その心意気だ。じゃあ策を伝える――――お前が強化種灰竜を狩るんだ」
***
夕食後、オリバーたちは設営地内の騎士たちを一か所に集めた。
「聞かせてくれかディアン。現状を打開できる策を」
「はい団長。まず皆に知って欲しいのは援軍で駆けつけたオリバー隊長と部下14名が加わったとしても、竜種との戦力差を覆すにはまだ足りない。だからこれから話す策はその戦力差を埋められるかもしれないし、悪化するかもしれない。それぐらい危険な賭けである事を十分に理解してくれ!」
ディアンは一発逆転の策でないことを事前に説明した。
期待していた騎士たちは落胆した様子を見せつつも彼の声に耳を傾ける。
「僕が考案した策、それは『強化種灰竜と群れの分断』だ!」
騎士たちのあいだに混乱が生じる。
「ディアン、話の腰を折って悪いが、その強化種灰竜ってなんだ?」
ブレイドは自身と部下たちの疑問を解消しようと率先して手を挙げた。
「はい、強化種灰竜とは通常個体の竜種と差別化するため僕が命名しました。よろしければ由来を説明しますか?」
「いや遠慮して置く。お前たちもその名前を頭に叩き込んで説明を聞け」
(他の竜種より強大で、体表が灰色だからとかそんな理由だろう……あいつが従えている魔物もそうだが、相変わらず妙なネーミングセンスだ)
ブレイドは数少ない欠点に呆れ、軽くため息を吐いた。
ディアンが命名した竜種こそブレイドたちが別格と呼んでいた推定五体分の強さを有する竜種だ。
それに他の竜種はくすんだ青色の体表をしているが、その竜種は灰色でかつ体長も二回りほど大きかった。
「では説明を再開する。群れを分断した後、団長や僕を含めた全員で五体の竜種を討伐する。そして分断したもう一方の強化種灰竜をオリバー隊長に討伐してもらう、作戦は以上だ」
ディアンが説明を終えると一瞬の静寂が訪れる。
「……無茶です」
しかし静寂を斬り裂いた第一声は反対意見だった。
「ディアン隊長もあの場に居たんですから分かるはずです。あの竜種は俺たちが何百人と束になっても勝つことは不可能だ……無礼を承知で言いますがそれはオリバー隊長でも同じことです! あんな化け物を単独で倒せる人間なんて団長くらいですよ……」
現実を目の当たりにした騎士は素直な自身の思いを述べる。
「考え直してくださいディアン隊長!」
「王都に戻ってレイゼン殿にも協力を仰ぐべきです!」
その騎士に賛同して反対意見を述べる者、黙って頷く者と反応は様々だが皆が一様に戦意を失っていた。
「王国を守護する騎士団がそんな弱腰でどうする! 僕を信じて戦ってくれ!」
「オリバー隊長はあの化け物と対峙していないからそんな事が言えるんですよォ!」
オリバーは喝を入れようとするも、恐怖に染まりきった彼らに再び戦意を灯すことは簡単ではなかった。
「一度撤退しましょう! 王都に戻ればレイゼン殿やあの学園生が助けてくれま――――」
直後、怖気づいた彼らを奮い立たせようとしていたオリバーの表情が消え、意見が言い終わるのを待たずに地面を力強く踏みつける。
振動魔法を行使した影響で微かに地面が揺れ動いた。
「「「ッ――――⁉」」」
ブレイドやディアンを除く騎士たちは足元の震動とともに無意識に身を震わせた。
「お前たちは何者だ? 人より魔法が使えるだけの一般人か? それとも強い子供に甘える恥知らずの大人か? 違うだろ……お前たちは国を、民を、命を賭して戦うと誓った騎士ではないのか!」
オリバーの言葉に騎士たちは体を震わせる。
「何のために厳しい訓練を乗り越えられた! 何のために強大な魔物たちに挑み続けられた! 何のために騎士になろうと志したァ! それはお前たちがこの国を愛し、大切な人たちを守ろうと思い立ったからではないのか!」
しかしそれは本能的な恐怖ではない。
彼らは忘れかけていた信念を思い出したのだ。
「上から目線で説教している僕だって圧倒的強者に頭を下げて、助けて欲しいと何度も頭を過ぎる! だが、こんなぼくでも――――いや俺でも騎士なんだ! ならばこの身が朽ち果てようと信念を、騎士道を貫き通してやる!」
彼らは失いかけていた騎士道を取り戻したのだ。
「前を向け! 顔を上げろ! 撤退という選択が民を犠牲にするのなら元より退路など存在しない! 我々はここで竜共を殲滅して王都へ帰還する! 分かったら戦いに備えてさっさと眠れェ馬鹿共がぁ――――――――‼」
オリバーは息を荒げ、顔を真っ赤にしながらも言いたい事を終える。
彼の呼吸音を除いて再び静寂が訪れた。
(鼓舞は失敗か……)
ディアンは素晴らしい演説だと感心しながら冷静に状況を見極める。
(いや……)
ブレイドは状況を確認しようとはせず、ただニヤリと口角を上げた。
「悪くない……」
「――――馬鹿は戦いに備えて寝ます!」
一人の男が演説内容に合わせて堂々と宣言する。
「竜共と戦うために寝ます!」
「竜共の首を掻っ切るために寝ます!」
「ディンゼル隊長の仇を撃つために寝ます!」
「「「俺も寝ます!」」」
一人の男を皮切りに続々と寝屋に戻って行く。
「このまま寝ても良いのか? もっと伝えるべき事もあっただろう」
入眠を宣言するというおかしな光景を眺めながらディアンに尋ねた。
「決行時刻くらいは伝えておきたかったですけど、戦意を取り戻してくれただけ良いでしょう……」
「決行時刻は前回と同じ夕暮れ時か?」
竜種は一般的に日中に活動する個体が多いため、ブレイドたちは寝静まる直前に強襲を掛けた。
「いえ、今回は夜明け前に仕掛けます。これは僕の予想ですけど、あの竜種たちは夜行性なのか動きが鈍くなったようには見えなかったので」
「そうなのか。魔物との戦闘経験は多いが竜種とは指で数える程度しか戦った事が無いからよく分からんがな。文献でも読み漁っているのか?」
「まさか、ただの勘ですよ」
感心した様子で訊くがディアンは即座に否定した。
「……そうか、じゃ俺も寝るとするわ」
「はい、ゆっくりお休みください」
寝屋に向かうブレイドを見送るとオリバーに歩み寄る。
「よくみんなの士気を高めてくれたな。来てくれて本当に助かったよ」
「僕がここに来たのは皆を鼓舞するためだけじゃありません。強化種灰竜を倒しに来たんですよ」
「……そうだったな、その調子で戦闘も頼むぜ」
「……? はい!」
どこか申し訳なさそうにディアンを不自然に感じながらも大きな声で答えた。
「んじゃ僕もひと眠りするよ。三時間後には僕の部下と交代する手筈になっているからそれまでは見張りを頼むね」
「はい、ディアンさんもゆっくり休んでください」
オリバーは焚火の前にしゃがみ込んでディアンを見送った。
「ふぅ……」
テントに戻ったディアンは軽くため息を吐く。
(オリバーには悪いが単騎で強化種灰竜勝てるとは思えない。少しでも早く僕らの戦いを終わらせて加勢に迎えるかがこの作戦の肝だ……! 勝率は依然として低いが状況は確実に良い方向に進んでいるはず……)
ディアンは首に吊られたペンダントを開き、一人の少女に視線を向ける。
「お前だけは絶対に死なせない、どんな犠牲を払ってでも兄ちゃんが守ってやる……!」
例に漏れず、彼もまた静かに闘志を燃やした。
騎士たちは絶望的な状況ながらも炊き出しや物資の補給など任された役割を全うしていた。
「元気がなくても食べておけ」
テントの端で座り込んでいるオリバーに夕食を差し出す。
「ディアンさん……僕には食べる資格がありません」
「どういう事だ?」
「僕は援軍としてここに来たのに状況を打開できる策が何一つ思い浮かびませんでした。それどころか被害状況を聞いて混乱してばかりで……」
「それは詳しく状況を説明しなかった僕のせいだ」
ディアンは落ち込む後輩を何とか励まそうと試みる。
「いえ、むしろ王都で現状を知っていたら何を仕出かしたか……」
ディアンさんは何も間違っていない、と付け加えて自身の未熟さを痛感した。
国境沿いに駐屯している騎士たちに声を掛けていたか、それとも国王に状況を伝えて他国から援軍を呼ばせたか――――騎士隊長という肩書きを持っているオリバーは貴族と同程度の発言力を有している。
今の自分を見れば、先走ってやらかすことも過言ではないと考えていた。
炊き出しに手を付けようともしない彼を見兼ねてディアンは腰を下ろした。
「部下の暴走を止められず守るべき学生に助けられて、謹慎処分を食らって、団長には足手まといと言われて、自分の知らない所でディンゼル殿が亡くなって……落ち込むなってほうが無理な話かもな」
「……足手まといとは言われてませんよ。『今のも避けられないんじゃ話にならん』って言われたんです!」
俯いていたオリバーは聞き捨てならないと言わんばかりに彼に訂正を求めた。
「あれ、そうなの? でも反論するぐらいの元気はあって良かったよ」
「…………」
「よく聞けオリバー。僕たちは王国を守る騎士団だ。どんなに辛いことがあっても立ち止まっている暇は無い。お前はめしを食う資格も無い無能だと思っているらしいがそんな事はない。お前は部下を率いて夜遅くから昼まで馬を走らせてきたんだ。隊律違反で団長に斬られる可能性もあったはずなのにだ。それはお前がこの国の人達を守りたいって思ったからだ。その志がある限り、お前には飯を食う資格はある。それは僕が保証してやるよ」
「ですが……」
「ゴチャゴチャうるせぇ、これ以上喋ったら蛇の餌にするぞ」
素直に聞き入れない彼に怒気を含ませる。
「あ、ありがたく頂きます!」
気圧されたオリバーは器を手に取り、口の中にかき込んだ。
「食べながらで聞いてくれ。自分に自信が持てないならこの戦いで活躍するのはどうだ?」
「――――活躍以前に再戦するのかすら怪しい状況ですけど……」
『王都へ撤退し体勢を立て直す』という考えが騎士たちの中で蔓延していた。
勝算の低い戦いなのは間違いではないため妥当と言えなくも無い。だがそれを実行するには数々の障害があった。
まず今の竜種たちは成長途中であり、成竜に至ってしまえば脅威度はより一層増してしまうこと。
次に王都よりも近い南の町に被害が出る可能性が高いことだ。南部一帯を管轄していたディンゼル隊は隊長をはじめ、多くの犠牲者が出してしまっている。
万が一、町に目を付けられてしまえば残りの戦力で守り抜くのは極めて困難な状況だった。
撤退に対する損害を踏まえると、この場で竜種を討伐するのが最善と言える。
「確かにこのまま戦っても勝算は皆無だ。だがひとつだけ勝ち筋を見出す策がある」
「――――その策を教えてください! 僕に出来る事なら何でもやります!」
自信満々に話すディアンに食べ終えたオリバーは身を乗り出す勢いで尋ねた。
「その心意気だ。じゃあ策を伝える――――お前が強化種灰竜を狩るんだ」
***
夕食後、オリバーたちは設営地内の騎士たちを一か所に集めた。
「聞かせてくれかディアン。現状を打開できる策を」
「はい団長。まず皆に知って欲しいのは援軍で駆けつけたオリバー隊長と部下14名が加わったとしても、竜種との戦力差を覆すにはまだ足りない。だからこれから話す策はその戦力差を埋められるかもしれないし、悪化するかもしれない。それぐらい危険な賭けである事を十分に理解してくれ!」
ディアンは一発逆転の策でないことを事前に説明した。
期待していた騎士たちは落胆した様子を見せつつも彼の声に耳を傾ける。
「僕が考案した策、それは『強化種灰竜と群れの分断』だ!」
騎士たちのあいだに混乱が生じる。
「ディアン、話の腰を折って悪いが、その強化種灰竜ってなんだ?」
ブレイドは自身と部下たちの疑問を解消しようと率先して手を挙げた。
「はい、強化種灰竜とは通常個体の竜種と差別化するため僕が命名しました。よろしければ由来を説明しますか?」
「いや遠慮して置く。お前たちもその名前を頭に叩き込んで説明を聞け」
(他の竜種より強大で、体表が灰色だからとかそんな理由だろう……あいつが従えている魔物もそうだが、相変わらず妙なネーミングセンスだ)
ブレイドは数少ない欠点に呆れ、軽くため息を吐いた。
ディアンが命名した竜種こそブレイドたちが別格と呼んでいた推定五体分の強さを有する竜種だ。
それに他の竜種はくすんだ青色の体表をしているが、その竜種は灰色でかつ体長も二回りほど大きかった。
「では説明を再開する。群れを分断した後、団長や僕を含めた全員で五体の竜種を討伐する。そして分断したもう一方の強化種灰竜をオリバー隊長に討伐してもらう、作戦は以上だ」
ディアンが説明を終えると一瞬の静寂が訪れる。
「……無茶です」
しかし静寂を斬り裂いた第一声は反対意見だった。
「ディアン隊長もあの場に居たんですから分かるはずです。あの竜種は俺たちが何百人と束になっても勝つことは不可能だ……無礼を承知で言いますがそれはオリバー隊長でも同じことです! あんな化け物を単独で倒せる人間なんて団長くらいですよ……」
現実を目の当たりにした騎士は素直な自身の思いを述べる。
「考え直してくださいディアン隊長!」
「王都に戻ってレイゼン殿にも協力を仰ぐべきです!」
その騎士に賛同して反対意見を述べる者、黙って頷く者と反応は様々だが皆が一様に戦意を失っていた。
「王国を守護する騎士団がそんな弱腰でどうする! 僕を信じて戦ってくれ!」
「オリバー隊長はあの化け物と対峙していないからそんな事が言えるんですよォ!」
オリバーは喝を入れようとするも、恐怖に染まりきった彼らに再び戦意を灯すことは簡単ではなかった。
「一度撤退しましょう! 王都に戻ればレイゼン殿やあの学園生が助けてくれま――――」
直後、怖気づいた彼らを奮い立たせようとしていたオリバーの表情が消え、意見が言い終わるのを待たずに地面を力強く踏みつける。
振動魔法を行使した影響で微かに地面が揺れ動いた。
「「「ッ――――⁉」」」
ブレイドやディアンを除く騎士たちは足元の震動とともに無意識に身を震わせた。
「お前たちは何者だ? 人より魔法が使えるだけの一般人か? それとも強い子供に甘える恥知らずの大人か? 違うだろ……お前たちは国を、民を、命を賭して戦うと誓った騎士ではないのか!」
オリバーの言葉に騎士たちは体を震わせる。
「何のために厳しい訓練を乗り越えられた! 何のために強大な魔物たちに挑み続けられた! 何のために騎士になろうと志したァ! それはお前たちがこの国を愛し、大切な人たちを守ろうと思い立ったからではないのか!」
しかしそれは本能的な恐怖ではない。
彼らは忘れかけていた信念を思い出したのだ。
「上から目線で説教している僕だって圧倒的強者に頭を下げて、助けて欲しいと何度も頭を過ぎる! だが、こんなぼくでも――――いや俺でも騎士なんだ! ならばこの身が朽ち果てようと信念を、騎士道を貫き通してやる!」
彼らは失いかけていた騎士道を取り戻したのだ。
「前を向け! 顔を上げろ! 撤退という選択が民を犠牲にするのなら元より退路など存在しない! 我々はここで竜共を殲滅して王都へ帰還する! 分かったら戦いに備えてさっさと眠れェ馬鹿共がぁ――――――――‼」
オリバーは息を荒げ、顔を真っ赤にしながらも言いたい事を終える。
彼の呼吸音を除いて再び静寂が訪れた。
(鼓舞は失敗か……)
ディアンは素晴らしい演説だと感心しながら冷静に状況を見極める。
(いや……)
ブレイドは状況を確認しようとはせず、ただニヤリと口角を上げた。
「悪くない……」
「――――馬鹿は戦いに備えて寝ます!」
一人の男が演説内容に合わせて堂々と宣言する。
「竜共と戦うために寝ます!」
「竜共の首を掻っ切るために寝ます!」
「ディンゼル隊長の仇を撃つために寝ます!」
「「「俺も寝ます!」」」
一人の男を皮切りに続々と寝屋に戻って行く。
「このまま寝ても良いのか? もっと伝えるべき事もあっただろう」
入眠を宣言するというおかしな光景を眺めながらディアンに尋ねた。
「決行時刻くらいは伝えておきたかったですけど、戦意を取り戻してくれただけ良いでしょう……」
「決行時刻は前回と同じ夕暮れ時か?」
竜種は一般的に日中に活動する個体が多いため、ブレイドたちは寝静まる直前に強襲を掛けた。
「いえ、今回は夜明け前に仕掛けます。これは僕の予想ですけど、あの竜種たちは夜行性なのか動きが鈍くなったようには見えなかったので」
「そうなのか。魔物との戦闘経験は多いが竜種とは指で数える程度しか戦った事が無いからよく分からんがな。文献でも読み漁っているのか?」
「まさか、ただの勘ですよ」
感心した様子で訊くがディアンは即座に否定した。
「……そうか、じゃ俺も寝るとするわ」
「はい、ゆっくりお休みください」
寝屋に向かうブレイドを見送るとオリバーに歩み寄る。
「よくみんなの士気を高めてくれたな。来てくれて本当に助かったよ」
「僕がここに来たのは皆を鼓舞するためだけじゃありません。強化種灰竜を倒しに来たんですよ」
「……そうだったな、その調子で戦闘も頼むぜ」
「……? はい!」
どこか申し訳なさそうにディアンを不自然に感じながらも大きな声で答えた。
「んじゃ僕もひと眠りするよ。三時間後には僕の部下と交代する手筈になっているからそれまでは見張りを頼むね」
「はい、ディアンさんもゆっくり休んでください」
オリバーは焚火の前にしゃがみ込んでディアンを見送った。
「ふぅ……」
テントに戻ったディアンは軽くため息を吐く。
(オリバーには悪いが単騎で強化種灰竜勝てるとは思えない。少しでも早く僕らの戦いを終わらせて加勢に迎えるかがこの作戦の肝だ……! 勝率は依然として低いが状況は確実に良い方向に進んでいるはず……)
ディアンは首に吊られたペンダントを開き、一人の少女に視線を向ける。
「お前だけは絶対に死なせない、どんな犠牲を払ってでも兄ちゃんが守ってやる……!」
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