死神と恐れられた俺、転生したら平和な時代だったので自由気ままな人生を享受する

オカさん

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竜種討伐

61話 滅竜作戦始動

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 夜明け前の午前四時、設営地の広場には143人のエンドリアス王国の騎士が集まっていた。

「二度目の竜種ワイバーン殲滅作戦の決行にあたり最終確認を行う」

 ディアンは集まった騎士たちに軽く視線を向けてから作戦を話し始める。
 ディアンが考案した作戦の決行時刻の都合により丸一日以上の休息を挟むことになった。しかし騎士たちの英気を養うことが出来たため、無駄な時間にはならなかったと言える。

「戦闘前に竜種やつら偵察している部下たちと入れ替わり、ここで戦況の伝達係をしてもらう」

 そう言って小型の伝承石を見せつける。
 騎士団本部や支部に設置されているものに比べ、粗悪品であるため短距離での連絡手段に使われることが多い。

「僕の口から戦況を伝えられたら確実だが、そんな余裕はない可能性のほうが高い。だから戦闘が始まって60分のあいだにこちらから連絡が無ければ全滅、という認識で町や騎士団本部に連絡がいく手筈になっている。あとは――――」

「負けた時の作戦なんて今の俺たちには関係ねえ、勝つための作戦を教えろ」

 ブレイドは士気に影響すると判断し、ディアンの説明を止めさせる。

「分かりました。では今作戦の最初の壁である分断方法について話す。まずはオリバー隊長を除く全員で群れの注意を引き、強化種灰竜ブレイバーンを孤立、もしくは群れから抜け出しやすい状況を作り出す。そしてオリバー隊長が強化種灰竜ブレイバーンを遠く離れた場所におびき寄せ、各々の戦いで勝利する。何か言いたい事はあるか、オリバー隊長?」

 作戦の要に等しいオリバーに話を振った。

「言いたい事はありません。与えられた任務をこなすだけですから」

「ふっ、そうか……」

 自信満々な彼の言動にディアンは安心した表情を浮かべる。

「お前ら若手がその調子ならこの戦いで引退しても大丈夫そうだな」

「それは困りますよ団長。貴方は僕の目標なんです。この手で倒すまでは団長の座に居続けてください」

 冗談交じりの発言に一同が騒然となる中、オリバーは彼を力強く見つめた。

「つい数日前まで腰を抜かしていたくせによぉ……だったらこの戦い、何がなんでも勝って生き延びろよ!」

 グレイドも彼の成長ぶりを深紅の隻眼でしっかりと見据えた。

 ***

 数十分後、偵察隊と入れ替わる形で本隊が竜種の群れに向かって歩み始める。
 山の向こう側から昇り始めた朝日が優しく森を照らした。

「「「…………」」」

 すでに覚悟を決めた彼らは黙って進行を続ける。
 しかし誰一人として闘志を燃やさない者はいなかった。 

(だれも死なせない、そんな理想は俺の片腕とともに無残に食い千切られた。でもそんな事は関係ない。この戦いもだれも死なせないため、命を賭して戦う!)

 ある者は一人でも多くの部下を生かすために。

(僕たちの平穏を乱すやからは何者であろうと容赦しない! たとえ彼らの誇りを踏みにじることになったとしても……!)

 ある者はたった一人の大切な家族を守るために。

(アルム君……きみが王都に残ってくれるから戦場へ赴くことが出来るんだ。本当にありがとう)

 そしてある者は恩人に感謝と敬意を……一人一人が違うものに意識を向けていた。
 だがこれから戦う大きな脅威に立ち向かうという意思は全員が共通していた。

「あれが、竜種ワイバーンか……」

 初めて実物を目にするオリバーは驚愕した様子で呟いた。
 例えとして種族的に蜥蜴とかげや蛇の魔物に近いと言われているが、鉱物質のような体表からはしなやかなうろこが特徴の蜥蜴や蛇かれらとは全く別の生き物に見えた。
 そして自身の腕に並ぶほどの長く鋭い歯牙しがと全てを薙ぎ払う強靭かつ柔軟な尻尾を持ち、大空を羽ばたくための翼はあの巨体のさらに数倍は大きかった。

「「「ッ……!」」」

 騎士たちは本能的に身震いをさせる。
 覚悟を決めた勇敢ゆうかんな騎士も圧倒的な力で蹂躙じゅうりんされ、仲間を殺された記憶トラウマはそう簡単に拭い去ることは出来なかった。

「やっぱ報告通りだな、ディアン」

 そんな様子を見兼ねたブレイドは普段通りに話しかける。

「ええ、同族を食べて戦いの傷もすっかりえていますね。それに体長も三日前より大きくなっているように見えます」

「共食いはこっちも想定して毒を仕込んでいたが効果は見えないな。蓄積系の毒でも仕込んだのか?」

「いえ、摂取すれば数分で死に至る即効性の毒を仕込ませましたが、単に効かなかっただけでしょう……」

 ディアンの見解を聞くとブレイドは呆れたように軽くため息を吐く。

「ま、はなから直接手を下すつもりだったし関係ねえか。そうだろ、お前ら?」

 挑戦的な視線を怖気づいた部下たちに向けると彼らは静かに、しかし力強く頷いた。

「んじゃ! 始めるとしよう……」

 戦いの合図が言い渡され、彼らはそれぞれの配置に移動した。

***

 活動時間が過ぎて竜種たちはまぶたを閉じかけた時、森の奥から無数の火球が放たれた。
 突然の奇襲に回避行動は間に合わず強化種灰竜を除いた竜種たちに命中し、鳴き声をあげながら怒り狂う。

「よぉトカゲ共、今度こそ漏れなくあの世に送ってやる」

 煽り台詞とともに森の奥からブレイドが姿を晒す。
 言葉は理解できずとも攻撃の犯人だと断定した竜種たちは彼にヘイトを向けた。

「あとは団長が竜種やつらを誘導するからお前たちは両脇で待機していろ!」

 ディアンは火球を放った騎士たちに指示を出す。

(あとは群れから強化種灰竜グレイバーンを引き離せれば――――なァ⁉)

 ブレイドに向かって来る竜種の真ん中に強化種灰竜の姿もあった。

「何のためにお前に当てさせなかったと思っているんだよ!」

 あえて奇襲の攻撃をはずして他の竜種より一歩遅く動き出させ、群れから引き離すというのが彼の作戦だったが大きな体躯たいくと高い反射神経を併せ持つ強化種灰竜には一歩の遅れに大した影響は無かった。

「他の竜種ワイバーンに囲まれている状態じゃ、オリバー隊長も手が出せねぇよ!」

 ブレイドの後ろに控えた騎士たちは騒然となる。

(下手にオリバーが手を出せばほかの竜種に狙われる。そうなったら分断作戦は失敗、乱戦になれば我々の敗北……!)

 ディアンは顔を歪ませ、状況を好転させる方法を必死に模索する。

「……ディアン、お前は頭は切れるが即興アドリブが足りねえんだよ」

 そう言うとブレイドは意を決したように竜種に向かって走り始める。
 愚直にも向かって来るブレイドに対し、先頭の竜種は口元から炎を漏らした次の瞬間、蒼い炎が放出される。 

「群れのほうを移動させるぞォ!」

 ブレイドは指示のような独り言を口にすると炎に呑み込まれる直前で力いっぱいに地面を蹴って跳躍する。

「……! 総員、竜種ワイバーン包囲し、僕の指示で一斉に魔法攻撃!」

「「「はいッ!」」」

 騎士たちは混乱しながらもディアンの指示に従い、竜種を囲い込むように形成した。

「片腕の仕返しだ、……」

 剣に魔力を纏わせると強化種灰竜の片翼に狙いを定めた。

「【一刀スレイドォ】‼」

 落下による重力を活かしながら大きく振り被り、強化種灰竜の左翼を付け根からスパッと斬り裂いた。 
 強化種灰竜は傷口から流れる血を抑える事も出来ず、全身に駆け巡る激痛に酷く苦しむ。

「攻撃始めェ!」

 ブレイドが地面に着地し群れから離脱した直後、ディアンは騎士たちに攻撃を命じ、それぞれの魔法で竜種たちに攻撃を開始する。

「【火球ファイヤーボール】!」

「【岩の槍グランド・ランス】!」

「【電撃ライトニング】!」

 逃げ場のない全方位からの魔法攻撃に怒りが頂点に達した竜種たちは標的をブレイドから騎士たち変え、それぞれが手近な騎士に襲い掛かる。

「全員散開ィ! 攻撃を中断し、今すぐこの場から離れろ!」

 頃合いだと判断したディアンは新たな指示を出し、騎士たちを後退させる。
 追いつけないと判断した竜種たちも大きな両翼を羽ばたかせて狙った獲物を追いかけていった。

「……ふっ、やっぱ追いかけられるのは俺か……」

 しかし強化種灰竜は片翼を斬り裂かれて飛ぶことが出来なかったため、逃げ遅れたブレイドを血走りながら食い殺そうと追いかける。

 竜種の巨体ならたった一歩でも人間の十数歩を距離を移動できる。ましてや不慣れな片腕で走るブレイドなら数瞬で追いつかれる距離だった。

 よだれを垂らし大きく口を開けながら鎧ごと彼の肉体にかぶりつこうとした時――――何者かが近づいて来るのを感じ取る。

 強化種灰竜は四足で体を旋回させ、正体不明の何者かの接近を拒む。
 長い尻尾と岩肌のような皮膚は軽く動かしただけで地面を抉り、他の生物の四肢をもぎ取る。

「【震動刃クルシュナイダー】!」 

 しかし、その者は拒まれてもなお進み続け、強化種灰竜の右目に突き刺す。
 自身で生み出してしまった砂煙で完全に不意を突かれた強化種灰竜は二度目の激痛にもだえ苦しむ羽目となった。

「かなりの博打だったが、何とか計画通りに運べそうだな」

「ええ、まずは勝利の第一条件はクリアです!」

 ブレイドとディアンは合流し、各々の戦場に向けて走り出した。
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