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魔導大会五日目
契約の行方
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「ゆっくりだからな、ゆっくり抱き付い――――」
「お兄ちゃあああああん! 起きたァ!」
「ぐおォ‼ ――――おう、お兄ちゃんは目覚めたぞ……」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、俺の腹部に顔をぶつけそのまま埋めるマイン。
俺は妹の頭を撫でる腕は無いが、駆け巡る激痛にじっと耐えた。
「アルム、良かった……!」「俺の息子が、生きてるっ!」
続いて涙を流すレイナと驚いた表情のロイドがゆっくりと歩み寄る。
「勝手に殺すなよ、父さん――――って……」
茶化そうかと思ったが次の瞬間にはふたりとも涙を流しながら俺に抱き着いた。
「もう起きないんじゃないかって心配したんだから……!」
「戦ってた時のお前、どこか遠くに行っちまいそうで凄い怖かったよォ!」
死神教、レイゼン、王国に潜む裏社会、考える事は山ほどあるけど……。
「ごめんねみんな……ただいま」
今は家族の温かさが、優しさがとてつもなく心地いい。
俺たちは会場内の廊下で一日ぶりに対面を果たした。
***
「アルム君っ⁉ もう歩けるようになったの!」
観客席に顔を見せると嬉しそうにスベンが尋ねて来る。
「はい、ご心配をお掛けしました」
今の俺は両腕に分厚いの包帯で固定、その上で斬り落とされた右腕には肩と腕を繋ぎ留めるように金具が装着されている。
あとは右目の眼帯と頭部に包帯といった感じで……健常者には見えないな。
「医師からの許可は私も確認しています。激しい運動をしなければ問題ないとの事です」
「しっかり医者の言うことは守れよ。またベレスと戦ってたら明日で帰れなくなるかもしれないんだからな」
「俺から喧嘩を売ったこと一度もはねェよ。でもまあ今のベレスになら勝てるかもしれないけど」
「ちょっとアルム、昨日みたいな戦いはもう止めてよね」
「ラビスちゃんの言う通りよ、二度とあんな事はしないでね」
「分かってるよ、俺も殺し合いのような戦いは懲り懲りだ……」
冗談のつもりだったが彼女たちにとっては深い心の傷に残ってしまったようだ。
「ここで立っていると他の方の邪魔になりますし、席に座ってライザ君の試合を応援しましょう」
カルティアに促され、俺たちは各々の席に移動する。
「アルムだ……」「あんな状態でよく会場に来れたな」「なんかカッケェ……」
怪我が目立つせいで客席から注目と畏怖を込めた視線でジロジロと見られた。
「色々買って来たけど食べられそうなものはある?」
「めっちゃ買ったなぁ、結構しただろ?」
紙袋の中にはパンや果物、スープ系や茶菓子など本当に色々なものがあった。
「私も買い過ぎじゃないかなって思ったんだけど、病み上がりで何が食べれるか分からないからってセロブロ君が全部払ってくれたんだ」
「マジで⁉ いくらしたんだ? あとで返すから」
「必要ない、平民の飯代なんてはした金に過ぎん。見舞いの品だと思って受け取ると良い」
こうなってしまっては頑固なセロブロは聞く耳を持たない。
「じゃあ遠慮なく頂くよ、ありがとう……あっ!」
サンドイッチを食べようとしたが両腕が使えない事を忘れていた。
「ラビス、悪いけど食べ……」「ん? どうしたの?」
食べさせてくれないか? そう言おうとした俺の口が詰まる。
彼女なら断りはしないだろうが家族や同級生の目の前で食べさせて貰う絵面はあまり良くない。
「もしかしてあんまり食欲ない?」
いやでもお腹減ったなぁ……今でも食欲はあって何でも食べられそうだし……。
「無理に食べる必要はない、他の連中に食わせておけ」
それに恥ずかしいって理由だけで残しては彼に失礼だ、こんな状態なら多少奇異な目で見られたとしても恥ずかしいことじゃない。
「ラビス、悪いけど食べさ――――」
「アルム! 元気そうで何よりだ」
「テイバン先輩っ⁉」
覚悟を決めて食べさせて貰おうとしたがタイミング悪く話しかけて来る。
「試合は見れませんでしたが、惜しい戦いだったと伺っています」
「お前に比べれば全然だよ、それに腕の甲冑も無かったからな」
「俺も負けて悔しいですが、この経験を活かして来年こそは勝ちましょう!」
試合の話が地雷だと感じた俺は早々に切り上げた。
「……俺は、駄目かもしれない」「えっ」
「……⁉ あ、いやっ! そうだな、来年こそは絶対に勝つ!」
慌てた様子で言い直すと足早に去って行った。
敗北したばかりで沈んだ気分なのは分かるがあの様子は少し心配だ。
「大丈夫かな……」「今は虚勢を張っているがここからはどうなるかな」
心配している、というより同じ公爵家として気に掛けている程度のセロブロ。
「どうなるって?」
「向こう側の入り口を見てみろ」
セロブロの指差す方向を凝視すると甲冑を両腕に装着したベレスが姿を見せる。
『さぁ、長いようで短かった激動の魔導大会も最終決戦っ! 昨年と同じく一対一決勝戦はこの男たちだァ!』
『先の準決勝戦では苦戦を強いられたことで、この試合では防具を身に付けて決勝戦に臨んでいます』
「端から見たらそうかもしれないが、テイバンはそう思っていないだろうな」
やや気の毒そうに呟くセロブロと同様の感想を懐いた。
俺には使うまでもないという事か、そんな事を考えていなければ良いけど……。
「今の彼には難しいかもしれないな」
「双方、恥じない戦いを……戦闘開始!」
俺たちの心配を余所に決勝戦が始まった。
「お兄ちゃあああああん! 起きたァ!」
「ぐおォ‼ ――――おう、お兄ちゃんは目覚めたぞ……」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、俺の腹部に顔をぶつけそのまま埋めるマイン。
俺は妹の頭を撫でる腕は無いが、駆け巡る激痛にじっと耐えた。
「アルム、良かった……!」「俺の息子が、生きてるっ!」
続いて涙を流すレイナと驚いた表情のロイドがゆっくりと歩み寄る。
「勝手に殺すなよ、父さん――――って……」
茶化そうかと思ったが次の瞬間にはふたりとも涙を流しながら俺に抱き着いた。
「もう起きないんじゃないかって心配したんだから……!」
「戦ってた時のお前、どこか遠くに行っちまいそうで凄い怖かったよォ!」
死神教、レイゼン、王国に潜む裏社会、考える事は山ほどあるけど……。
「ごめんねみんな……ただいま」
今は家族の温かさが、優しさがとてつもなく心地いい。
俺たちは会場内の廊下で一日ぶりに対面を果たした。
***
「アルム君っ⁉ もう歩けるようになったの!」
観客席に顔を見せると嬉しそうにスベンが尋ねて来る。
「はい、ご心配をお掛けしました」
今の俺は両腕に分厚いの包帯で固定、その上で斬り落とされた右腕には肩と腕を繋ぎ留めるように金具が装着されている。
あとは右目の眼帯と頭部に包帯といった感じで……健常者には見えないな。
「医師からの許可は私も確認しています。激しい運動をしなければ問題ないとの事です」
「しっかり医者の言うことは守れよ。またベレスと戦ってたら明日で帰れなくなるかもしれないんだからな」
「俺から喧嘩を売ったこと一度もはねェよ。でもまあ今のベレスになら勝てるかもしれないけど」
「ちょっとアルム、昨日みたいな戦いはもう止めてよね」
「ラビスちゃんの言う通りよ、二度とあんな事はしないでね」
「分かってるよ、俺も殺し合いのような戦いは懲り懲りだ……」
冗談のつもりだったが彼女たちにとっては深い心の傷に残ってしまったようだ。
「ここで立っていると他の方の邪魔になりますし、席に座ってライザ君の試合を応援しましょう」
カルティアに促され、俺たちは各々の席に移動する。
「アルムだ……」「あんな状態でよく会場に来れたな」「なんかカッケェ……」
怪我が目立つせいで客席から注目と畏怖を込めた視線でジロジロと見られた。
「色々買って来たけど食べられそうなものはある?」
「めっちゃ買ったなぁ、結構しただろ?」
紙袋の中にはパンや果物、スープ系や茶菓子など本当に色々なものがあった。
「私も買い過ぎじゃないかなって思ったんだけど、病み上がりで何が食べれるか分からないからってセロブロ君が全部払ってくれたんだ」
「マジで⁉ いくらしたんだ? あとで返すから」
「必要ない、平民の飯代なんてはした金に過ぎん。見舞いの品だと思って受け取ると良い」
こうなってしまっては頑固なセロブロは聞く耳を持たない。
「じゃあ遠慮なく頂くよ、ありがとう……あっ!」
サンドイッチを食べようとしたが両腕が使えない事を忘れていた。
「ラビス、悪いけど食べ……」「ん? どうしたの?」
食べさせてくれないか? そう言おうとした俺の口が詰まる。
彼女なら断りはしないだろうが家族や同級生の目の前で食べさせて貰う絵面はあまり良くない。
「もしかしてあんまり食欲ない?」
いやでもお腹減ったなぁ……今でも食欲はあって何でも食べられそうだし……。
「無理に食べる必要はない、他の連中に食わせておけ」
それに恥ずかしいって理由だけで残しては彼に失礼だ、こんな状態なら多少奇異な目で見られたとしても恥ずかしいことじゃない。
「ラビス、悪いけど食べさ――――」
「アルム! 元気そうで何よりだ」
「テイバン先輩っ⁉」
覚悟を決めて食べさせて貰おうとしたがタイミング悪く話しかけて来る。
「試合は見れませんでしたが、惜しい戦いだったと伺っています」
「お前に比べれば全然だよ、それに腕の甲冑も無かったからな」
「俺も負けて悔しいですが、この経験を活かして来年こそは勝ちましょう!」
試合の話が地雷だと感じた俺は早々に切り上げた。
「……俺は、駄目かもしれない」「えっ」
「……⁉ あ、いやっ! そうだな、来年こそは絶対に勝つ!」
慌てた様子で言い直すと足早に去って行った。
敗北したばかりで沈んだ気分なのは分かるがあの様子は少し心配だ。
「大丈夫かな……」「今は虚勢を張っているがここからはどうなるかな」
心配している、というより同じ公爵家として気に掛けている程度のセロブロ。
「どうなるって?」
「向こう側の入り口を見てみろ」
セロブロの指差す方向を凝視すると甲冑を両腕に装着したベレスが姿を見せる。
『さぁ、長いようで短かった激動の魔導大会も最終決戦っ! 昨年と同じく一対一決勝戦はこの男たちだァ!』
『先の準決勝戦では苦戦を強いられたことで、この試合では防具を身に付けて決勝戦に臨んでいます』
「端から見たらそうかもしれないが、テイバンはそう思っていないだろうな」
やや気の毒そうに呟くセロブロと同様の感想を懐いた。
俺には使うまでもないという事か、そんな事を考えていなければ良いけど……。
「今の彼には難しいかもしれないな」
「双方、恥じない戦いを……戦闘開始!」
俺たちの心配を余所に決勝戦が始まった。
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