死神と恐れられた俺、転生したら平和な時代だったので自由気ままな人生を享受する

オカさん

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死神転生

2話 建前な遠足

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 早朝目覚めた俺は桶に溜められた冷水で顔を洗う。

「冷たッ⁉」

 両親に気付かれないよう汎用魔法を学び続けて二年の時が経つ。
 足腰が発達し家の外に出られるようになったことで現状を知れる機会が劇的に増えた。 
 まず前世の自分ギールが死んでから500年ほどの歳月が流れているということだ。
 書き記された情報ではないため断定できないが、死累戦争しるいせんそうという世界を巻き込んだ戦争が終結してから500年が経過したことからそう結論付けることにした。当時でも世界戦争と報道されていたためその説が正しい可能性は高いだろう。
 出来るなら住んでいた土地がどうなったのかこの目で見たかったが、戦争が長引いてしまったが為に人の住めない環境になってしまったらしい。
 生き残った人類は数千キロと離れたこの地に移住し、長い時間を掛けて今の文明レベルまで押し上げたという。

「しかし死累戦争しるいせんそうとはよく言ったものだ……」

 タオルで顔に付いた水を拭き取ると呆れたように呟く。
 後にも先にもあんな戦いは存在しないと断言できる、いや存在してはならない。
 兵士も民間人も王侯貴族も死に場所は違えど行き着く先は全員が同じだった。
 無論、そんな彼らを送り届けた張本人に俺の名も挙がる。当時の俺は何を考えて人を殺めていたのだろう。

 大切な人を殺された怒り? 贅沢な暮らしを維持するため? それとも――――。

「いつまで顔を洗っているの? 早く食べなさい」

 洗面所から出てこない俺を不審に思ったレイナは居間に行くよう促す。

「分かった! ……朝に考える事じゃないか」

 気を取り直して居間に立ち入るとコーヒーや朝食の良い匂いがした。

「おはようアルム」

「おはよう父さん」

 ロイドは新聞を読みながら挨拶を交わす。俺も椅子に座って朝食を食べ始めた。

「今日は休みだし、どこかお出掛けしない?」

 自身の朝食を準備したレイナも椅子に座って新聞越しに尋ねる。

「そうだな。アルム、行きたい所はないか?」

 行きたい場所があった俺は急いで口に含んだパンを飲み込む。

「ウサギが見たいな」

「良いわね、王都の外へ連れてってあげましょう?」

 王都の外へ連れ出す良い機会と考えてレイナが後押しする。

「……じゃあに行こうか、ピクニックに!」

「ありがとう、父さん!」
 
「良かったわねアルム。それじゃお母さんは昼食を作るわね」

「ウサギに会えるといいな」

「うん!」

 俺は大きく頷いて食べるペースを速めた。
 無論、ウサギに会いたいなんてのは建前で本当は汎用魔法がどの程度のものなのかテストしたいだけだ。
 王都周辺には数こそ少ないが魔物はうろついているらしいし、社会貢献ついでに二年間の成果を見てみよう。

「ごちそうさまでした!」

 朝食を食べ終えた俺は食器を片付けて自室へ向かった。

 ***

 動きやすい外着に着替え、玄関前で両親が来るのを待っていた。

「しかし森へ出向くのは良いけど、どうやって二人から離れよう?」

 今日まで彼らの言動を間近で見てきたが、身振りや立ち振る舞いから一般人であることには間違いないため離れるのは簡単だ。
 しかし俺に怪我や危ない目に遭わせないよう目を離すことは無い。優しい親に出会えたのは喜ばしい事だがもう少し奔放な教育でも良いな。

「おお、良い天気だな」

 考えている内に扉が開く。暖かく照らしつけるに日差しにロイドは肘くらいまで袖をまくる。

「そうね、ピクニック日和だわ」

 後に続いて白ワンピース姿のレイナが姿を見せる。

「アルムが好きなアップルパイも入っているわよ」

 そう言って彼女は手に持っているバケットの中身を見せつける。

「ありがと母さん!」

「アルムは本当にアップルパイが好きなんだな。俺もお酒が大好きなんだ!」

 バケットの中身を知っているのも関わらず、わざとらしく好物を声に出す。
 ピクニックで酒を飲むなんてありえないが、眠らす方法として悪くない。

「飲んだら――――」

「ピクニックでお酒なんて非常識よ!」

「ですよね!」

 ロイドに同調しようと声を上げるもレイナの喝によってかき消される。本人もすぐに諦めたようで作戦は一瞬で砕け散った。

「家族でお出かけか?」

 王都を囲む外壁と大きな門が見えた所で門兵のイルクスが声を掛ける。
 彼はロイドの友人で面識もある。
 
「今日も仕事とは精が出るな」

「お前こそ可愛い妻子連れていいご身分だな」

 この会話だけでも彼らの友情は硬く結ばれていると分かる。
 
「イルクスさん、こんにちわ」

「こんにちわ!」

 レイナに続いて俺も挨拶する。

「おう! 挨拶できて偉いぞアル坊。見ない間にまたデカくなったな」

 『アル坊』という名で呼んだ彼は俺を頭を力強く撫でる。 

「……ロイド、ピクニックは結構だがあまり森の奥に行かない方がいい」

「その予定だが、なにかあったのか?」

「近くで人鬼オーガの目撃情報があったらしい。小型の魔物ですら外壁に近付くことは滅多にないからおかしな話だが一応、気を付けておけ」

「ああ、肝に銘じておくよ」

 忠告を聞き入れた俺たちは外壁のそとへ踏み出す。
 石床ではない懐かしい土の感触に少しばかりの感動を覚える。

「あとで感想聞かせろよ、アル坊!」

 離れていく俺たちにイルクスは手を振ると短い腕を伸ばして振り返した。

 ***

 外壁が視認できる距離を保ちながら生い茂る森の中を散策していた。

「可愛いな、ウサギ」

 目的のウサギを見つけると適切な距離を保ちながら眺める。

「うん!」

 こんな弱そうな動物はいいからもっと凶暴な魔物を見たい、そんな事が言えたらどれだけ楽だろうか。

「そろそろ昼飯にしよう」

 かぱっと懐中時計を開き、ロイドは昼休憩を提案する。 

「どこにしましょうか?」

「……⁉ あそこ、あそこにしよう!」

 周囲を見渡して俺は日差しが当たっている場所を指差す。
 特に反論はなく芝生の上に布を敷き、バケットからアップルパイやサンドウィッチを取り出した。

「「「いただきます!」」」

 俺はすぐさま口いっぱいにアップルパイを頬張った。
 りんごの甘さとサクサクの生地が絶妙に調和している。レイナが作るアップルパイはパン屋にも劣らない。

「もう、お口にくっ付いているわよ」

「――――ありがとっ」

 レイナは口に付いていた食べかすをハンカチで拭う。
 この体で食事をするのは慣れたが、好物を目の前にしてしまうと行儀など二の次になってしまう。

「サンドウィッチも美味いぞ」

「たまにはピクニックも悪くないわね」

 大自然を感じながら他愛もない話で盛り上がる。普通にピクニックが出来るなんてやはり平和が一番だ。

「「…………」」

 昼食を始めて数十分後、ロイドとレイナは眠りに就いてしまった。
 平和ボケした両親でも魔物がうろつく森で寝られるほど鈍いわけではない。

「どうやって抜け出そうか考えていたけど、これが生えていて助かった」

 俺は両親を眠らせた薬草を摘まむ。
 主に温かい時期に自生しているこの薬草は眠気を誘発する花粉を常に放っている。しかし眠気以外では体への悪影響は一切ないし、近付かなければ影響を受けることは無い。

「さて、今の俺はどこまで出来るかな?」

 俺は体を伸縮させて期待を胸に躍らせた。
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