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青信号
フレンド・イン・ザ・ルーム
しおりを挟む──the elephant in the room
誰もがそこにいる(ある)と認識しているけれど、あえて触れずに気付かないふりをする状況を表す
──────────────────
七月二十二日。高校二年の夏休み初日。
梓月はほの暗い部屋を照射する電灯を見つめている。
黒く肩に触れるほど伸びた髪は、毛先が不揃いで傷んでいる。蜂蜜色と薄花色のオッドアイが長い前髪から覗かせていた。
この部屋には、カーテン越しに差し込む光も、窓の外の喧騒もない。このまま、誰にも見つけられずに往生を遂げるのか。
ふと、部屋が冷気を増して寂びれた心地になる。霜風の出処を見ると、毛布を被り現今にそぐわぬ書生服を着た友人の姿があった。
いや、人ではない。暗がりの中なのに薄らと光を帯びており、透けた身体の向こうには午前三時を示した壁掛け時計が見える。
梓月は、どうせ夢だと悟るも、それの顔を見て不愉快な表情を顕にした。都合の良いように生み出した存在が何故泣くのか
「なんでこんな夢ばっかり」
「違うよ」
記憶から薄れつつあった友の声が鮮明に聞こえた。
「なんだよ、ただの幻の癖に」
「ほんとうだったら?」
「本当なわけ、だってお前」
梓月の表情は青白く、額からは脂汗が滲み出ている。
「この前死んだじゃないか」
「ごめんね、ずっと待たせてしまって」
D君はそっと手を伸ばすも、梓月の目の前でしまいこむ。そして、何か言いたげに己の手と面食らった梓月を交互に見ている。けれども、梓月の沈黙に耐えられずに口癖を零す。
「ごめんなさい」
梓月は、半分起き上がった身体を再び床に落とす。
「寝させて」
「う、うん! 顔色悪いもんね……」
鼻につく言葉選びの下手さに覚えがある。一度寝て考えよう。朝になればわかることだ。
「梓月くん!」
混濁した目に友が飛び込んでくる。高校一年生の夏にプールサイドで肌を寄せ合い、暖をとっていたことを思い出す。友の傍が寒いと感じたのは、この日が初めてだった。
夢を見た。そこは真っ暗で冷たい場所。気がつくと、そこにはD君がいるいつもの夢。
「どうして、僕を置いて行ったの?」
震えながら俯いているD君を、見つめていた。
「僕は、ずっと待ってたのに」
友の声は、掠れていて苦しそうだった。ふわりと漂うD君の手に触れようとする。
「もう、疲れちゃったなあ」
D君がそう呟いた瞬間、目が覚めた。
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