仮面舞踏会で婚約破棄なんてしようとするから……

飛鳥井 真理

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第14話 王妃と王子

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 ◇ ◇ ◇



「全くもう貴方はっ。聞いているのですか、アレクシス!」

「はいっ、母上。きちんと拝聴しております!」

 呼び出された豪華な宮の一室で、王妃の怒声が炸裂していた。

 長引くお説教に気が逸れた様子の息子に一層、ヒートアップする彼女を止められるものは誰もいない。


「何故、そう軽々しくイリーナ嬢との婚約を破棄しようとしはじめたのですか!?」


 二人の婚約は「アレクシス王子の補佐を出来るご令嬢が望ましい」という、厳しい条件の元、幼少期に決められた。

 血筋、教養、美貌に至るまで選び抜かれルフィルオーネ公爵令嬢しかいないとされたのだが……。

 最近になって急に、王子的には何かが気に入らなくなったようなのだ。


 当初は、完璧すぎる彼女に嫉妬し、反発しているのかと思われていたが、母親の勘がそれは違うと訴えていた。

 彼には他に誰も真似できない音楽の才能という確固たる心の拠り所があるためか、人に嫉妬するという感情自体がなさそうなのだ。

 この意見には、直接王子の人柄を知っている者ほど賛同してくれたので、ほぼ当たっていると思われる。

 親としては嬉しい素質が判明した瞬間だったが、喜んでいる場合ではない。


 頻発し出した婚約破棄騒動に同伴している令嬢達と、本当に婚約したいと思っているのかどうかも、不明なままなのだ。

 側仕えからの情報では、特定の令嬢に入れあげ、のめり込んでいるのかというとそうでもないらしいし、もう訳が分からない。

 来る者拒まず去る者追わずの姿勢を貫いているおかげで、当然の如くお相手の女性は、季節が巡るよりも早く入れ代わっていく。

 今回のマロン嬢で何回目になるのかを数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいだ。

 そのマロン嬢だが、あれから数日たった今、すでに王子の側にはいなかったのである。



「それで貴方が仮面舞踏会に同伴したマロンさんですけれども……」

「ああ、母上。何かご存じなのですか? 急に一切連絡が取れなくなったようなのですが」

 側近たちに情報を集めさせているところだったのですと言いながら、特に心配もしていなさそうな様子で聞いてきた。


 ただ、向けられた瞳はキラキラと輝きを放ち、まるで宝石のように美しい。

 至近距離でじっと見つめられた王妃は思わずうっとりしそうになり、流されてはいけないとハッとして首を振った。


「……自ら修道院行きを希望しておりましたので許可を出しておきましたよ」


「修道院? またですか? 確か先週お付き合いしたセシル……セシリアだったかな? 彼女も連絡が取れないと思ったら修道院へ行ったと聞いた気がしますが……?」


  あれほど熱く愛を語ってくれていたのに、何故でしょうねと首を傾げる王子のクズさ加減に、眩暈がしそうな王妃。

 全部、お前が原因だよと言ってやりたくなるが、グッと堪えた。

 関心なさそうな顔をしている彼に言っても無駄な気がする。



「まあ、彼女達の気持ちを受け入れてあげなさい。それぞれ悩んだ上で、固く決心した事なのですから」

 そう言うに止めた。

「分かりました、母上」

 軽い。

 明日の天気を聞かされたかのような軽い返答だった。

 もうなにも信じられなくなったから、といって去っていった令嬢達には聞かせられない。


 ――しかし、これはどうにも何かがおかしい。




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