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第114話 王位継承権
しおりを挟む「君は現在、現王のただ一人の後継者。次の王座に座るのは君しかいないはずだった……何事もなけば」
「……叔父上」
「今回起こした騒動は、本来なら王位継承権を剥奪されても仕方がない。それは分かるね?」
「……はい」
「だが、帝国との密約がある」
「……」
ランスフォード公爵ははっきりと言葉にしなかったが、このまま次期国王には指名されるだろうと言っているのだ。
立太子されなければ、王妃の母国である帝国と関係が拗れるのだから当然とも言える。
だが今のような、不平等な関係が続くのは望ましくない。
(兄王は常に、帝国の力を削ぐ機会を狙っていたんだよ……王妃と君の手駒を減らすことも、ね?)
帝国とは良好で健全な関係を築きたいというのも本音だった。
国力を取り戻しつつある国に諸外国からの必要以上な介入ほど、厄介なことはないだろう。
排除したいに決まっている。
だが、 その方法が問題だった。
少しでも違えると戦乱を招く火種になりかねない。
そこで王妃に気づかれぬよう、帝国の力を少しずつ削いでいくことにした。
世継ぎの王子らしからぬ愚行が見逃されていたのもその為だ。
というか、帝国の影響力を低下させるために彼の不祥事を待ち構えていたともいえる。
そんな彼らの前に都合よく現れたのが、サリーナだった。
以前から隣国のスパイ容疑をかけられていた人物と癒着しているとは、好都合というもの。
これ以上ない、格好の獲物だった。
王子達が自力ではね除けられるなら、それはそれでよかった。
どちらに転んでも王国にとって深刻な不利益は生まない。
「国王は……兄王はね、試していたんだよ。君達がこの件で真実を見極められるか、成長できるかどうかをね」
「……!?」
ハッとして顔を上げた王子。
(父王から直接、叱責がなかったのは、そういう訳だったのか……私は、期待されていたんだ)
叔父の言葉で理解した。
自分に無関心だと思っていたが、そうでは無かったことに……。
「次代を治める者達が与えられた試練を乗り越えられれば、国としても頼もしいかぎりだからね」
しかし王達の期待もむなしく、特に側近くに仕え、優秀だと噂されていたリアン達共々、まんまと罠に嵌まってしまう。
サリーナと出会う前、第一王子の周囲には様々な派閥の有能な人材がバランスよく仕えていた。
しかし、彼女に堕ち、絡めとられてからは特に諌めることもなく、あっさりと離れていく。
その中には王子の幼馴染みで近衛騎士でもあるエイドリアンもいた。
彼だけは、最後まで王子と真摯に向き合い、何とかしようと足掻いていたが結局、周囲から遠ざけられた。
今回の騒動を見越していた王からの指示だった。
使える人材が巻き込まれることのないように、という……。
そうやって自然と、ランシェル王子の側近候補から国に忠実な家々が外れ、帝国派の者達で固められていく。
残った側近は、婚姻や取引で帝国との繋がりが深く、国内でも豊富な資金で力を増していた貴族家のみ……リアン達だけだった。
結果だけをみれば、国の中枢への帝国派閥の侵食が成功したように見えたことだろう。
だがそれこそが王妃の手腕に見せかけた、王家の策略だったのである。
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