劇団25分 ― 25分で人生を変える、彼女の物語

谷川 雅

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2.劇団25分 ― シナリオ作りの始まり

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内定者研修の発表から一週間後。
結衣のもとに届いたメールには、はっきりとこう書かれていた。
「プロジェクト“劇団25分”、正式に立ち上げが決定しました。
まずはシナリオ作りからスタートします。内定者と現社員を対象に参加希望者を募集しますので、リーダーとして取りまとめをお願いします」
画面を見つめながら、結衣は小さく息をのむ。
(……本当に始まるんだ。もう引き返せない)
________________________________________
数日後、会社の会議室。
「劇団25分シナリオ作り」の第一回ミーティングには、十数名の内定者と社員が集まっていた。
「今回のプロジェクトは志水さんの提案です。リーダーとして全体をまとめてもらいます」
担当者の紹介に合わせて視線が一斉に自分へ注がれる。結衣は緊張で喉が乾いたが、ゆっくり前に出て口を開いた。
「志水結衣です。応慶大学で演劇部に所属していました。役者としては脇役ばかりでしたが……舞台が好きで、ずっと演劇に関わりたいと思ってきました。皆さんと一緒に、新しい作品を作れるのを楽しみにしています」
言葉を終えると、会議室には小さな拍手が広がった。
続いて参加者たちの自己紹介が始まる。
「脚本を書くのが趣味で、いつか公演をやってみたかったんです」
「映画研究会に所属してました。演劇は初めてですが、映像との融合に興味があります」
「私は営業部の社員です。舞台経験はゼロですが、観客として関わりたいと思って参加しました」
学生も社員も、年齢も経験もバラバラ。だが全員の目が輝いているのを、結衣は見逃さなかった。
________________________________________
長机に広げられた白紙のシナリオ用紙。
「それじゃあ、どういう物語を作りたいか、自由に意見を出してみましょう」
結衣が声をかけると、すぐに賑やかな議論が始まった。
「25分区切りなら、前半を謎解きにして、後半で真相を明かすのが面白そう!」
「いやいや、恋愛ものの方が絶対に観客が入りやすいって。前編で告白、後編で答えを出すとか」
「僕はコメディ推し。50分で笑って帰れる体験、現代の観客に合うと思う」
結衣は必死にメモを取りながら頷く。
「どれも魅力的ですね。でも、全国を回ることを考えると、子どもから大人まで楽しめる題材がいいと思うんです」
「だったら友情をテーマにするのもありじゃない?」
「友情なら映像と舞台の“分かれ目”で試される展開もできそうだな」
紙の上に次々と文字が積み重なり、会話は尽きなかった。
________________________________________
夜、会議室を出ると、美咲が小声で話しかけてきた。
「ねえ、結衣。なんだか楽しそうだったね」
「……うん。ずっと脇役で、舞台を遠くから見てた。でも今は――自分の手で物語を動かしてる気がする」
「主役じゃなくても、物語を動かせるんだ」
美咲の言葉に、結衣は少し笑って頷いた。
(この場所なら、私にも光を灯せるかもしれない)
プロジェクト“劇団25分”。
その物語は、まだ真っ白なシナリオ用紙の上で息づき始めたばかりだった。

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