劇団25分 ― 25分で人生を変える、彼女の物語

谷川 雅

文字の大きさ
3 / 13

3.劇団25分 ― 役割分担

しおりを挟む
深夜まで続いたシナリオ会議。
ホワイトボードは文字と図でいっぱいになり、机の上にはアイデアを書き殴ったメモ用紙が散乱していた。
「いやあ、盛り上がったな!」
営業部の社員が大きく伸びをする。
「でも、これ……誰がまとめるの?」
場が一瞬静まった。
シナリオ自体は面白い方向に転がっている。友情か、恋愛か、コメディか――どの要素を中心にするかも、だんだん形が見えてきた。
だが同時に、実際に動かすための体制が必要なことに誰もが気づいていた。
「脚本だけじゃなくて、演出とか、制作とか、広報もいるよね」
「そうそう。動画撮影や編集も誰がやるか決めないと」
「お金の管理も必要だし、スポンサー対応も」
次々に出る“役割”の言葉に、結衣はノートに走り書きしながら顔を上げた。
「……確かに、必要ですね。映画会社の一プロジェクトと言っても、これって小さな劇団と同じ。役割分担をきちんと決めた方がいいと思います」
そのとき、中堅社員の一人――制作部に所属する三浦が口を開いた。
「じゃあ、そろそろ割り振りを考えよう。脚本班、演出班、映像制作班、広報班……」
彼はペンを走らせながら、ふと結衣に視線を向けた。
「そして――プロデューサー。これは志水さんでどうかな?」
「えっ、私ですか?」
結衣の声が裏返った。
「提案者だし、みんなを引っ張る立場としては一番自然だろう。それに、企画全体の流れを一番理解しているのは君だ」
「でも、私はまだ内定者で……経験もありませんし」
「いや、経験は俺たちが補う。演出の細かい部分や技術は任せていい。プロデューサーは方向性を示すのが仕事だから」
「それに……」
横から美咲が言った。
「結衣が主役やってみたらどう? ずっと脇役ばかりだったんでしょ? この企画なら、堂々と舞台に立てるじゃない」
「主役……私が……?」
会議室の視線が一斉に結衣に注がれる。
心臓が跳ねた。
(プロデューサー兼主役――そんな大役、私にできるの?)
三浦が穏やかに頷いた。
「誰かがやらなきゃならない。だったら、提案した本人がふさわしい。俺たちは君を支えるためにいる」
沈黙の後、結衣はゆっくりと口を開いた。
「……わかりました。責任は重いですけど、やってみます」
拍手が自然と湧き上がった。
その音を浴びながら結衣は、自分が本当に舞台の中心に立とうとしていることを、まだ信じきれずにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

短編集

飴傘(あまがさ)
青春
気まぐれに書く短編集 短編というか、いろいろな場面を集めたようなもの。 恋愛メインになるかも。 何もわかんない人が書いてます。あたたかい目で見ていただけると嬉しいです。 いつかこのひとつの場面から短編でもいいからちゃんとオチまで書いてみたいなって思ってます。 とりあえず思いつくのと書きおこすのに時間がかかるのでひとつの場面、として公開してます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...