異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第3部 第93話 「町が息づく――観光と農の交わる場所」

観光ツアーが始まって数か月。
　港町エルドマリーナは、目に見えて変わり始めていた。
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　まず、経済の変化。
　漁師たちはただ魚を売るだけでなく、観光客に“漁船体験”を提供することで副収入を得るようになった。
　今までは余り物の干物として捨て値で売られていた魚種も、「体験で釣った魚を持ち帰りたい！」という客の声で需要が急増し、価格が跳ね上がった。
「へへ、昔は港に戻していた雑魚が、今じゃ金貨に化けるんだ。世の中わからんもんだな」
　髭面の漁師が笑い、仲間たちが豪快にうなずく。
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　次に、農業の変化。
　海水野菜の栽培に挑む農家が増え、若者たちが「農業で食べていける」と希望を抱くようになった。
　かつては家を出て港で雑用をしていた青年たちが、今は畑に戻って汗を流している。
「親父、俺も畑をやる！　観光客が“この野菜はおいしい”って笑ってくれるの、嬉しいんだ」
「……そうか。お前がそう言ってくれるなら、もう十分だ」
　年老いた農夫の目には、涙が光っていた。
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　そして、社会の変化。
　農家民宿が増え、各家に客人を迎える習慣が生まれた。
　最初は「他人を泊めるなんて」と戸惑っていた家々も、今では子どもが率先して客人に港町を案内している。
「お兄さん、こっちこっち！　市場のかき氷は絶対食べたほうがいいよ！」
　少年の案内に、観光客は思わず笑って財布を開く。
　町の空気は、人を迎え入れることで温かく、そして誇らしげに変わっていた。
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　文化の変化も芽生えていた。
　観光客が持ち込む歌や踊りが町に広がり、逆に港町の漁師歌が外へ伝わる。
　祭りのときには、旅人と町民が混じって大合唱が起き、異国情緒と地元文化が交わる独特の雰囲気が生まれていた。
「町が……生き返ったな」
　陽介は広場に並ぶ人々を見渡して、静かに言った。
「うん。お金だけじゃなくて、笑顔が増えてる。これが一番大事なことだよ」
　紬が隣で微笑む。
　かつては疲れた漁村にすぎなかった港町が、今は“交流と希望の町”へと姿を変えつつあった。
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　その変化は、やがて国全体の注目を集めることになる。
「観光と農業を結んだ町」という成功例は、他の地方にも波紋を広げ始めていたのだ――。