異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第3部 第100話 「蜜花をめぐる交渉――甘き香りの裏に潜む駆け引き」

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王都の会議室。
 陽介と紬は、宰相と各国の使節を前にしていた。机の上には蜜花の鉢植えと、色とりどりのスイーツが並んでいる。
「さて……本題に入ろう」
 宰相が静かに切り出す。
「各国から要望が来ている。“蜜花”の輸出と栽培技術の提供だ」
 すると、まずカルナードの使者が身を乗り出した。
「我ら乾きの大地には、この花こそ希望だ! 砂漠で咲くなら、食料にも観光資源にもなる。種を譲っていただきたい!」
 すかさず、海洋国家エルマーレの代表がかぶせる。
「いやいや、我らには広大な港町がある。蜜花スイーツを“海の迎賓菓子”として売り出せば、交易の目玉になる! 種だけでなく栽培技術も……」
 場の熱気が一気に高まる。
________________________________________
 陽介は静かに手を上げた。
「皆さん、気持ちは分かります。ですが……蜜花はただの花ではありません。
 水の少ない環境でも育ち、少ない土地から大きな価値を生み出す。――だからこそ、慎重に扱うべきなんです」
 紬が続ける。
「私たちは“蜜花スイーツ”として輸出する方向を考えています。
 つまり、完成品は各国に届ける。でも栽培は王国と提携した認定農場だけ。
 この形なら品質も守れるし、国の産業としても育ちます」
________________________________________
 使節たちは顔を見合わせた。
「むむ……つまり、我らは花そのものではなく、商品を買う立場に?」
「だが、それでは自国で育てる楽しみが……」
 陽介は苦笑して肩をすくめた。
「ご希望があるなら、観光で来てください。屋上農園ツアーもあります。自分で収穫して、その場で食べられる。――どうです? 農業体験と観光を合わせた“グリーン・ツーリズム”ですよ」
 紬がにっこり笑って添える。
「“育てたい国”には、王国認定の研究提携という形で門を開きます。でも、そのかわり成果は共有する――そういう形にしたいんです」
________________________________________
 沈黙ののち、カルナードの使者が手を叩いた。
「……ふむ。公平で、筋が通っている。確かにこの花は貴重だ。独占はできまい。だが提携ならば、我が国も未来を見据えて協力しよう」
 他の使節も次々と同意の言葉を口にする。
 宰相は深く頷いた。
「決まりだな。蜜花は、この王国が中心となって世界に広げる。――まさに甘き外交の象徴となろう」
________________________________________
 会議が終わった後。
陽介と紬は廊下を歩きながら、顔を見合わせた。
「……ふう、まるで“スイーツ一つで国際会議”って感じだな」
「ほんと。ケーキの切り分けより難しい交渉だったよ」
 二人は笑い合いながら、また新たな一歩を踏み出していった。
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