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最初に来たのは、いつも通勤で使ってる、なんの変哲もない各駅停車だった。
「……はいはい。どうせ、最初はこうなるよな……」
悠太はベンチから立ち上がり、ガラガラの電車に乗り込んだ。
車内には高校生らしき少年がひとり、爆睡していた。あとはスーツ姿のおじさんが、うつむいてスマホをいじっている。
変わったところなんて、何ひとつない。強いて言えば、悠太の心だけが少しだけ浮かれていた。
「さて、まずは一駅目クリア。次の乗換駅、っと……えーと、○○駅。そこまでボーッと揺られてればOKね」
10分ほどして乗換駅に到着。
改札を抜けると、まるで知らない構内。表示板には、聞いたこともない私鉄の名前が踊っていた。
「……え、何線これ? 俺、初めて見るロゴなんだけど? そもそも都内……じゃないよな、もう」
不安を抱えつつ、最初に入ってきた電車に乗り込む。
「おお……車体がオレンジと緑……いい感じのレトロ感……」
座席はフカフカ、窓は微妙にくもっていて、外の景色がちょっとセピア色。
「なんかこの車両、昭和から来たのか……?」
ふと斜め向かいに座っている初老の男性が新聞を広げているのが見えた。
『昭和47年、三億円事件の犯人は――』
「え、えっ……おじさん、それいつの新聞読んでるんすか!?」
心の中で叫んだものの、ツッコむ勇気はなかった。
「よし……次の乗り換え……っと、三駅先ね。そこに乗換案内が……あるといいなぁ……」
三駅後、ようやく乗換。そこには、地下鉄が走っていた。
「地下鉄か、都会感戻ってきたな……って、この駅、名前が読めない!?」
表示板には『猫毛ヶ谷(ねこけがや)』の文字。
「なにその、抜け毛が心配になる駅名!?」
何はともあれ、最初にホームに入ってきた電車に飛び乗る。中は意外にも最新式。扉の上には液晶モニター、座席は抗菌素材。
「……ハイテクだ……けど、さっきまで昭和にいた気が……」
思わずスマホで時間を見るが、時間は普通に流れている。
「なんだこれ……時間旅行じゃなくて、空間旅行してる感じ?」
地下鉄を3駅で降り、地上に出ると、今度は再びローカル線の駅だった。
「やっぱりレトロ戻ってきた!!」
しかも、そのローカル線のホームは、木造。ホームに椅子じゃなくて、木箱が置かれている。
「ここ、映画のセットじゃないよな……?」
けれど、電車は普通にやってきて、悠太を乗せた。
そして、最後の乗換え――5回目。
この時点で、彼の頭はすでにこんがらがっていた。
「えーと……何回乗った? えっと、最初が……ローカル線で……次が私鉄で……その次が……もうわからん!!」
もう地図を開いても現在地が不明。スマホのGPSもやたらと読み込みが遅い。
「まさか、電波が……異世界仕様に……?」
そんなことを本気で考え始めたころ、車内に流れるアナウンスが聞こえた。
「――つぎは、たまき駅、たまき駅です。お出口は、右側です」
その一言に、胸の奥がざわっとした。
「……たまき……」
どこかで聞いたことがあるような、ないような。いや、絶対にある。
心臓が小さく脈打ち、手のひらがじんわり汗ばむ。
「……ここだ」
言葉に出したとき、自分でも驚いた。
なぜ「ここだ」と思ったのか、理由なんてない。ただ、全身がそう告げていた。
「降りるしか、ないな」
ガタンと立ち上がり、扉が開くのと同時にホームへと足を踏み出した。
目の前に広がるのは――
昭和の香りが色濃く残る、小さな小さな無人駅だった。
「……っていうか、ここSuica使えるんだ……?」
思わず自動改札にピッとタッチしながら、小声で呟いた。
まるで夢の境目にいるような不思議な感覚。
だがその旅は、まだ始まったばかりだった。
「……はいはい。どうせ、最初はこうなるよな……」
悠太はベンチから立ち上がり、ガラガラの電車に乗り込んだ。
車内には高校生らしき少年がひとり、爆睡していた。あとはスーツ姿のおじさんが、うつむいてスマホをいじっている。
変わったところなんて、何ひとつない。強いて言えば、悠太の心だけが少しだけ浮かれていた。
「さて、まずは一駅目クリア。次の乗換駅、っと……えーと、○○駅。そこまでボーッと揺られてればOKね」
10分ほどして乗換駅に到着。
改札を抜けると、まるで知らない構内。表示板には、聞いたこともない私鉄の名前が踊っていた。
「……え、何線これ? 俺、初めて見るロゴなんだけど? そもそも都内……じゃないよな、もう」
不安を抱えつつ、最初に入ってきた電車に乗り込む。
「おお……車体がオレンジと緑……いい感じのレトロ感……」
座席はフカフカ、窓は微妙にくもっていて、外の景色がちょっとセピア色。
「なんかこの車両、昭和から来たのか……?」
ふと斜め向かいに座っている初老の男性が新聞を広げているのが見えた。
『昭和47年、三億円事件の犯人は――』
「え、えっ……おじさん、それいつの新聞読んでるんすか!?」
心の中で叫んだものの、ツッコむ勇気はなかった。
「よし……次の乗り換え……っと、三駅先ね。そこに乗換案内が……あるといいなぁ……」
三駅後、ようやく乗換。そこには、地下鉄が走っていた。
「地下鉄か、都会感戻ってきたな……って、この駅、名前が読めない!?」
表示板には『猫毛ヶ谷(ねこけがや)』の文字。
「なにその、抜け毛が心配になる駅名!?」
何はともあれ、最初にホームに入ってきた電車に飛び乗る。中は意外にも最新式。扉の上には液晶モニター、座席は抗菌素材。
「……ハイテクだ……けど、さっきまで昭和にいた気が……」
思わずスマホで時間を見るが、時間は普通に流れている。
「なんだこれ……時間旅行じゃなくて、空間旅行してる感じ?」
地下鉄を3駅で降り、地上に出ると、今度は再びローカル線の駅だった。
「やっぱりレトロ戻ってきた!!」
しかも、そのローカル線のホームは、木造。ホームに椅子じゃなくて、木箱が置かれている。
「ここ、映画のセットじゃないよな……?」
けれど、電車は普通にやってきて、悠太を乗せた。
そして、最後の乗換え――5回目。
この時点で、彼の頭はすでにこんがらがっていた。
「えーと……何回乗った? えっと、最初が……ローカル線で……次が私鉄で……その次が……もうわからん!!」
もう地図を開いても現在地が不明。スマホのGPSもやたらと読み込みが遅い。
「まさか、電波が……異世界仕様に……?」
そんなことを本気で考え始めたころ、車内に流れるアナウンスが聞こえた。
「――つぎは、たまき駅、たまき駅です。お出口は、右側です」
その一言に、胸の奥がざわっとした。
「……たまき……」
どこかで聞いたことがあるような、ないような。いや、絶対にある。
心臓が小さく脈打ち、手のひらがじんわり汗ばむ。
「……ここだ」
言葉に出したとき、自分でも驚いた。
なぜ「ここだ」と思ったのか、理由なんてない。ただ、全身がそう告げていた。
「降りるしか、ないな」
ガタンと立ち上がり、扉が開くのと同時にホームへと足を踏み出した。
目の前に広がるのは――
昭和の香りが色濃く残る、小さな小さな無人駅だった。
「……っていうか、ここSuica使えるんだ……?」
思わず自動改札にピッとタッチしながら、小声で呟いた。
まるで夢の境目にいるような不思議な感覚。
だがその旅は、まだ始まったばかりだった。
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