1万個の小さな幸せを集めたら、3億円と家族ができました

谷川 雅

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役所のロビーの片隅。備え付けの机に置かれた婚姻届。その夜。
「……じゃあ、行きますか」
「うん。夜間受付、たしか22時までだよね。あと47分!」
「……早いな、行動が。プロポーズから婚姻届提出までのスピード感、すごない?」
「“鉄は熱いうちに打て”っていうし、“男は3億当たったら結婚しろ”って諺もあるでしょ?」
「聞いたことない!?」
二人は並んで、ゆっくりと実家から市役所へ向かう夜道を歩いた。
夜風は少し涼しくて、彩の髪がふわっとなびく。
「……なんか、こんな時間に外を歩くの、懐かしいね。昔、花火大会の帰りに迷子になって、大泣きした彩をおんぶして帰ったこと、覚えてる?」
「うん……覚えてる。あのとき、“お兄ちゃんは絶対に私を置いていかない”って思った。」
「それ今、言われると重いなあ……でも、うれしい。」
道の端で、まだ元気な蝉が「ジジジ」と鳴いていた。
「……この時期の夜に蝉って、ちょっと頑張りすぎだよね」
「うん。でも、あの蝉もきっと幸せ日記つけてたんじゃない?」
「“今日の幸せ:朝日がまぶしかった”“今日の幸せ:人間に踏まれずに済んだ”みたいな?」
「それそれ! で、1万個集めたら、夜にも鳴ける権利が与えられるの」
「なんの進化やそれ」
そんな冗談を言い合いながら、二人は市役所の正面玄関に到着した。
夜間通用口のチャイムを押すと、窓口の奥から眠そうな顔のおじさん職員が出てきた。
「あー、婚姻届ね。記入は……ああ、もう完璧じゃん。印鑑も揃ってる。やる気満々ねぇ」
「バッチリです!」
「ちょ、彩、声が大きい!夜!」
「すみません、夜間テンションで!」
職員のおじさんが書類にハンコを押しながら、ニヤリと笑った。
「おめでとう。……幸せになりなよ、ふたりとも」
彼と彩は、思わず顔を見合わせた。
「なんか、実感わいてきたね……」
「うん。でも、わいてきたらちょっと恥ずかしくなってきた……」
「じゃあ、今日の幸せ日記に書くか。“婚姻届、受理された。ちょっと恥ずかしかったけど、うれしかった”って」
「それ、私も同じの書く!」
市役所を出るころには、夜の風がすっかり心地よくなっていた。
蝉の声も、どこか誇らしげに響いていた。

最後までお読みいただきありがとうございます🌷
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