1万個の小さな幸せを集めたら、3億円と家族ができました

谷川 雅

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秋も深まり、朝夕は少し肌寒くなってきた。
リビングの窓から見える庭のラベンダーは、風に揺れて少し寂しげだが、それがまた、今の季節らしかった。
彼はお気に入りのマグカップに温かい紅茶を注ぎ、ふうっと息を吐く。
「ねえパパ、今日の幸せ、もう書いた?」
背後から声をかけてきたのは、悠翔。
ランドセルを背負ったまま、にこにこと笑っている。
「まだだよ。今日は何を書こうかなあ」
「ぼくはもう書いた。“給食のサツマイモごはんが、神だった”って!」
「“神”来たか……じゃあパパは、“悠翔の幸せレベル表現が爆上がりしてた”にしようかな」
「やった、今日も親子で幸せー!」
彩がキッチンからくすくすと笑いながらやってきた。
「じゃあ私は、“二人の“幸せ合戦”がうるさ可愛かった”って書こうかな」
「ほら見てミケも、“今日の幸せ:部屋あったかい”って顔してるよ」
ソファの上では、猫のミケノフスキーがふわっと丸くなり、まぶたをとろんと閉じていた。
「……ねぇ」
と、彩がぽつりと口にした。
「最近さ。前よりも“幸せ”って言葉が、もっとやさしく聞こえるようになった気がするんだ」
「うん、わかる」
彼も静かにうなずいた。
「前は、“手に入れなきゃいけないもの”だったけど、今は“そこにあるもの”みたいな感じだよな」
「ねえママ、ぼく、明日の幸せも予告していい?」
「ん? なんだろう?」
「“パパとママと3人で一緒に朝ごはんを食べられたこと”」
「それって、今日と同じじゃん」
「うん。でも同じことでも、毎日うれしいんだよ」
その言葉に、彼は胸の奥が、じんわりとあたたまるのを感じた。
「……いいね。それ、“日記の本質”ついてる」
「悠翔先生、あなどれないな~」
「むふふふ」
夕暮れが近づくリビングには、焼き芋の香りと、ほんのりあたたかな幸せが満ちていた。
ノートのページは、もう何冊目かわからないけれど――
そこに今日もまた、ひとつの「やさしい奇跡」が、そっと書き加えられていく。
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