上 下
12 / 87

第12話 書道部長

しおりを挟む
 放課後、教室を出ると、階段を上がり、『書道室』とプレートが出ている扉を開ける。

「こんにちは」

 書道室に入ると、先に居た部員たちに声を掛ける。

「あ、部長こんにちは」
「お疲れ様です!」

 きちんと挨拶をするのが、書道部のルールだった。

「莉緒はまだ来てないのか?」
「あ、副部長なら、飲み物買いに出ました」

 1年生の部員がそう、教えてくれた。
書道部は、俺以外は全員女子だ。
最初は、肩身の狭い思いをしたが、今では、だいぶ馴染んで来たと言えるだろう。

「さて、練習するかぁ」

 カバンを下ろすと、定位置に座った。

 書の世界では、臨書と言われる、手本を見て、それを真似する練習するため、後ろの棚から、今日の課題を取り出した。

 愛用の筆と墨で、半紙に6文字を入れていく。
黙々と、神経を集中させ、一文字一文字を書いていく。

「ふぅ……」

 一段落した所で、顔を上げた。

「めちゃくちゃ上手い……」
「さすがは部長です!」

 気付くと、1年の部員、萌と亜未が覗き込んで居た。

「おお、びっくりしたな!」
「部長って、本当に書いてる時は周り見えなくなりますよねぇ」
「仕方ないだろ? 集中しているんだから」
「私の作品、見てもらえませんか?」

 そう言って、後ろから現れた咲良が半紙をこちらに向けて来た。
これが、一年生ながら、中々上手いのだ。

「うん、よく書けているんじゃないか? だから、敢えて言うけど、右払い苦手だろ?」
「分かるんですね?」
「ああ、右払いに独特な癖がある。もっと、こう滑らかに力を抜いていくといいぞ」

 俺はそう言うと、実際に書いて見せた。

「何で、1発でそんな書けるのよ……」
「練習だよ」

 俺は、誰よりも遅くまで残り、書と向き合って来た自信がある。
まあ、自信過剰になるのは良くないが。

「部長、次、私のも見て下さい」
「その次私も!」

 萌と亜未も作品を持ってきて居た。

 その時、隣の部屋の扉が開いた。

「東條、ちょっといいか?」

 隣に併設されている、書道科準備室から、顧問で、この高校の書道教諭の河合が顔を出した。

「はい、今行きます!」

 俺は立ち上がると、書道科準備室へと向かう。

「ごめん、呼ばれたから、また今度な」

 書道準備室の前まで行くと、扉をノックする。

「入ってくれ」
「失礼します」

 相変わらず、作品や資料で雑然としている部屋を見回しながら、河合の元へと行った。

「僕に何かご用ですか?」
「ああ、まぁ、座れ」

 河合は近くにあるパイプ椅子を指差した。

「は、はい。では、失礼します」
「これ、知ってるよな?」

 河合は、一冊の冊子を手渡して来た。

「これ、うちの生徒会誌ですよね?」
「ああ、その表紙をお前さんに書いて貰いたいんだと。生徒会長からのご指名だ」
「また、何で俺に」
「まぁ、そんな面倒くさそうな顔するな。お前さん有名なんだよ。この学校ではな」

 何せ、この学校では快挙とも呼ばれるほど、書のコンクールの上位賞を総なめにして来たのだ。

「分かりました。やらせて頂きます」
「助かるよ。じゃあ、詳しいことは生徒会長に聞いてくれ、今度資料持って来るそうだ」
「はい、分かりました」

 河合の話はそれで終わったので、春輝は書道準備室を後にした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,725pt お気に入り:1,216

悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,316pt お気に入り:3,025

巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

BL / 連載中 24h.ポイント:4,462pt お気に入り:8,538

魔物のお嫁さん

BL / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:750

次期魔王の教育係に任命された

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:1,495

【完結】出戻り令嬢の奮闘と一途な再婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:146

主神の祝福

BL / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:251

処理中です...