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第38話 国王陛下へ直談判

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 そして、夕食の時間となった。

「シャル、冒険者登録をする気はないか?」

 樹が食事をしながらシャルに尋ねた。

「え、でも、いくら樹さんたちが良くして下さっても私は奴隷の身ですから、冒険者登録は出来ないのでは?」

 シャルは少し目を伏せた。

「奴隷とかそんなのは無しだ。したいか、したくないか、どっちだ?」
「それは、もちろんしたいです!」

 シャルは真剣な目で訴えかけてきた。

「分かった。俺が何とかしてやる」
「そんな事、出来るんですか?」
「ああ、これでもSランクの冒険者だ。心配するな」

 そう言って樹は優しく微笑んだ。

 夕食を食べ終わると樹は早々にベッドへと潜り込み、やがて意識を手放した。

「おはよう」

 翌朝、普段より早い時間に目が覚めた。

「あら、おはようございます。今日はお早いですね」

 アリアは相変わらず樹より早く起きて仕事をしていた。

「うん、今日は陛下と謁見の予定だし、早く寝たら早く起きれるよね」

 なんとま当たり前な事に今更気づいた。

「この生活を続ければいいんですよ」
「善処します」

 樹はアリアに用意してもらった朝食を取ると屋敷を出ようとしていた。

「じゃぁ、ちょっと王宮に行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
「お気をつけて」

 アリアとシャルに見送られ、樹は王宮へと向かった。

 王宮へ入るといつものメイドさんに応接間へと通された。

「いやぁ、待たせてしまってすまんな。ようやく執務がひと段落でな」

 数分待つと陛下が入ってきた。

「いえ、お気になさらず。陛下も大変ですね」
「そう言ってもらえると助かる。で、今日は何の用件だね?」

 陛下が尋ねてきた。

「はい、実はですね、奴隷の身分の子に冒険者登録をさせたい子が居まして、陛下にご相談に来た次第であります」
「なるほど。そうかぁ、奴隷に冒険者登録か」

 陛下は頭を悩ませていた。

「僕とアリアの技術を仕込んでますから腕は確かですよ」
「何!? それは興味深いが、何分、前例が無いのでなぁ」
「最初はみんな初めてです。前例が無いなら作りましょう!」

 樹は陛下へ真剣に訴えた。

「うむ、わかった。お前さんがそこまで言うならワシからギルド本部へ取り計らおう」
「ありがとうございます!」
「なに、お前さんとアリアから教えを受けた子ともなればこっちも見逃せまい。期待しているぞ」
「ご期待には必ずお応えします」
「明日には冒険者登録が出来るよう、ギルマスへ伝えておく」
「お手数おかけします」

 そこから、陛下としばらく世間話をすると王宮を後にした。
陛下も喋る相手が居なくて喋り足りないのだろう。

「ただいまー」

 樹は屋敷の玄関を開けた。

「おかえりなさいませ」
「どうでしたか? 旦那様」

 アリアとシャルが出迎えてくれた。

「ああ、シャルも冒険者登録できる事になった。明日には出来るらしい」
「本当ですか……?」
「ああ、本当だ」
「よかったわね」
「はい……」

 シャルは満面笑で喜んでいた。

「じゃあ、明日の昼にでもギルドへ行って手続きするか」
「はい! お願いします!」

 こうしてシャルの冒険者登録が決まった。
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