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第1話 医術ギルド追放
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「エミリア・メディ、お前を医術ギルドから追放する!」
医術ギルドのギルド長から言い放たれた。
「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「お前の書いたこの論文は何だ! 全くの虚偽の論文じゃないか!」
サモール帝国の医術ギルドでは、年に一度研究論文を提出する事になっている。
なので、エミリアもまた自分の研究論文を提出したのだ。
「虚偽ではありません! ちゃんと医学的根拠に基づいた事実です!」
「瀉血が何の効果もないだと! ふざけた事をぬかすな! これだから女は信用できないんだ!」
この時代、帝国ではまだ瀉血という治療法がとられていた。
瀉血とは、体内に溜まった不要物や有害物を血液と共に排出させることで、健康を回復させるという考えによるものである。
また、美容効果があるなどと謳っている医者もいるのだから呆れたものである。
瀉血には医学的根拠はないと言っていい。
これが、エミリアの研究結果だった。
「瀉血はいたずらに患者の体力を消耗するだけです。美容目的に限らず、瀉血は辞めるべきです!」
「ならん! 瀉血は効果ある治療法なのだ!」
医術ギルド長は聞く耳を持たなかった。
どんな症状であってもとりあえず瀉血しようなんて話があってたまるか。
成人男性でも2リットル近くの血液を抜かれたら死に至る危険性も含まれる。
「とにかく、お前は医術ギルドを除籍処分とする!」
それだけ言い残して、ギルド長は去って行く。
しかし、エミリアの研究は間違いない。
瀉血を行われた24時間以内に死亡している患者さんもたくさんいる。
今までの統計と分析から瀉血は死亡率を上げていることは間違いない。
「もう、帝国をでるしか道はないかもしれませんね……」
医術ギルドに所属していないと、医師として活動することは難しい。
エミリアのような若くて女性医師はまだ帝国には少ないので信用がないとやっていけないのだ。
エミリアは一時的に実家へと戻る事にした。
メディ家は代々医師の家系であり、曽祖父は筆頭宮廷医師、祖父は初代医術局局長、父は医科大学の名誉教授だ。
「お父様、私は医術ギルドを追い出されてしまいました」
「あの論文が原因か?」
「ええ、その通りです」
「やはり、受け入れてはもらえなかったか。私も瀉血にはいささか疑問を覚えていたのだが」
父もまた瀉血の危険性にいち早く気づいていた一人だ。
しかし、父の声ですら医術ギルドには届かなかったのだ。
「これからどうするか考えているのか?」
「はい、この論文を世界に公表するつもりです。それで、誰かの命を救うことができるのなら」
「エミリアの好きなようにやりなさい。私は応援しているよ」
「ありがとうございます」
その翌日、エミリアは世界に瀉血は効果がない治療法であることを示す論文を発表した。
論文を発表してから、医療界では騒ぎになっていた。
父も宮廷から呼び出しを受けた。
エミリアの論文を手伝った人間として名前が入っていたからである。
「すみませんお父様。私の論文でご迷惑をお掛けしてしまいました」
「気にするな。とりあえず、宮廷の連中は黙らせてきた。それに、エミリアは私ができなかったことをやってのけた。これは誇っていい」
そう言って父は私の頭をポンっと撫でてくれた。
「エミリア、ここからが正念場だよ」
「分かっています」
亡き祖父、ブラット・メディに言われたことがある。
エミリア、お前も私のような医師になったらきっと難題に立ち向かわないといけない時が来る。
それでも決して逃げてはいけないよ。
苦しんでいる人を医学で救うのが医師の仕事だからね。
今こそ、祖父の言っていた難題なのだろう。
「必ず、やり遂げて見せます!」
エミリアは医学界と戦う決意をした。
医術ギルドのギルド長から言い放たれた。
「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「お前の書いたこの論文は何だ! 全くの虚偽の論文じゃないか!」
サモール帝国の医術ギルドでは、年に一度研究論文を提出する事になっている。
なので、エミリアもまた自分の研究論文を提出したのだ。
「虚偽ではありません! ちゃんと医学的根拠に基づいた事実です!」
「瀉血が何の効果もないだと! ふざけた事をぬかすな! これだから女は信用できないんだ!」
この時代、帝国ではまだ瀉血という治療法がとられていた。
瀉血とは、体内に溜まった不要物や有害物を血液と共に排出させることで、健康を回復させるという考えによるものである。
また、美容効果があるなどと謳っている医者もいるのだから呆れたものである。
瀉血には医学的根拠はないと言っていい。
これが、エミリアの研究結果だった。
「瀉血はいたずらに患者の体力を消耗するだけです。美容目的に限らず、瀉血は辞めるべきです!」
「ならん! 瀉血は効果ある治療法なのだ!」
医術ギルド長は聞く耳を持たなかった。
どんな症状であってもとりあえず瀉血しようなんて話があってたまるか。
成人男性でも2リットル近くの血液を抜かれたら死に至る危険性も含まれる。
「とにかく、お前は医術ギルドを除籍処分とする!」
それだけ言い残して、ギルド長は去って行く。
しかし、エミリアの研究は間違いない。
瀉血を行われた24時間以内に死亡している患者さんもたくさんいる。
今までの統計と分析から瀉血は死亡率を上げていることは間違いない。
「もう、帝国をでるしか道はないかもしれませんね……」
医術ギルドに所属していないと、医師として活動することは難しい。
エミリアのような若くて女性医師はまだ帝国には少ないので信用がないとやっていけないのだ。
エミリアは一時的に実家へと戻る事にした。
メディ家は代々医師の家系であり、曽祖父は筆頭宮廷医師、祖父は初代医術局局長、父は医科大学の名誉教授だ。
「お父様、私は医術ギルドを追い出されてしまいました」
「あの論文が原因か?」
「ええ、その通りです」
「やはり、受け入れてはもらえなかったか。私も瀉血にはいささか疑問を覚えていたのだが」
父もまた瀉血の危険性にいち早く気づいていた一人だ。
しかし、父の声ですら医術ギルドには届かなかったのだ。
「これからどうするか考えているのか?」
「はい、この論文を世界に公表するつもりです。それで、誰かの命を救うことができるのなら」
「エミリアの好きなようにやりなさい。私は応援しているよ」
「ありがとうございます」
その翌日、エミリアは世界に瀉血は効果がない治療法であることを示す論文を発表した。
論文を発表してから、医療界では騒ぎになっていた。
父も宮廷から呼び出しを受けた。
エミリアの論文を手伝った人間として名前が入っていたからである。
「すみませんお父様。私の論文でご迷惑をお掛けしてしまいました」
「気にするな。とりあえず、宮廷の連中は黙らせてきた。それに、エミリアは私ができなかったことをやってのけた。これは誇っていい」
そう言って父は私の頭をポンっと撫でてくれた。
「エミリア、ここからが正念場だよ」
「分かっています」
亡き祖父、ブラット・メディに言われたことがある。
エミリア、お前も私のような医師になったらきっと難題に立ち向かわないといけない時が来る。
それでも決して逃げてはいけないよ。
苦しんでいる人を医学で救うのが医師の仕事だからね。
今こそ、祖父の言っていた難題なのだろう。
「必ず、やり遂げて見せます!」
エミリアは医学界と戦う決意をした。
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