辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷

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第1章

第1話 妹に全てを奪われました

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「ラース、君との婚約を破棄させてもらう」

 公爵家に呼ばれたラース・ナイゲールは婚約者である次期公爵に、婚約破棄を言い渡されていた。
次期公爵のラドバルは、容姿端麗で令嬢からの人気も高い。

 しかし、残念なことに政治的な才は全くと言っていいほど無かった。
公務についても、ラースが手伝っていたから様になっていたが、1人では何もできない。
それが、現公爵からの評価だった。

 国の内部からは、弟の方を次期公爵にするべきという声も上がっているほどである。

「一応、理由をお聞かせ願えますか?」
「私は、ミーシャと婚約することにした。だから、ラースとの婚約はなかったことにする」

 ミーシャとは、ラースの妹である。
ナイゲール伯爵家の次女だ。

「また、私から奪うのですね……」

 ラースは呟くように言った。
ミーシャには幼い頃から全てを奪われてきた。

 欲しいと言われたら全て渡してきた。
そうした方が、楽だったから。

 それでも、婚約者まで奪われるとは思わなかった。
ミーシャは何でもラースのものを欲しがった。

 しかし、飽きればポイと捨ててしまう。
3日と持てばいい方である。
大概は翌日にはゴミ箱行きだった。

 そんな性格であることはラースも周知のことであった。

 最近、ラドバルとミーシャがコソコソあって居たのは、知っていた。
しかし、ラースは何も言わなかった。

 別に、ラドバルの事を愛しているというわけでは無い。
元々、家同士が決めた結婚である。
ラースはそれに従うだけ。

 しかし、ミーシャにこの男はたぶらかされてしまったのだろう。
ミーシャは男からしたら、守ってあげたくなるような小動物的な可愛い子だ。
それも、ミーシャの全部計算なのだけど、そんなのを見破れるほどラドバルは頭が良くない。

「わかりました。その婚約破棄を承諾いたします」
「えっ」

 ラドバルは驚いた表情を浮かべた。
自分で言った婚約破棄だろう。

 それとも、ラースに泣いてでも欲しかったのだろうか。

 言ってしまえば、婚約破棄されたことについては特にどうも思っていない。

「ご自分で婚約破棄を宣言したのに、何を驚かれているのです?」
「その、いいのか? 君がどうしてもというなら側室でも……」

 こいつは何を言っているのか分かっているのだろうか。

「お心遣いありがとうございます。でも、結構です。どうぞ、お幸せに」
「ああ、」
「では、失礼します」

 それだけ言い残して、ラースは公爵家を後にした。

 きっと、これはラドバルが自分で勝手に言い出した婚約破棄だ。
現公爵はラドバルとは違い、優秀な人物だ。

 ラースに対しても優しく接してくれた。
この公爵家で公爵の存在が唯一の支えだった。

 そ公爵はラースの能力を見抜いていたのだ。
その癒しの魔法が王国で世界一になり得るものであると。

 そして、ラースが“超“一流の獣医であることも。

「帰ったら、お父様に何て言いましょう……」

 ラースはそれだけが憂鬱なのであった。
今から考えただけでも、頭が痛くなる思いである。

 気が重い中、ラースは屋敷へと帰るのであった。
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