辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷

文字の大きさ
14 / 61
第1章

第14話 事故現場

しおりを挟む
 開業から2日が経過した。

「今日は暇ですねぇ」

 看護師のアリアが言った。

「私たちが暇なのはいいことですよ」

 医者に頼らなくてもいいのは、この街に病気や怪我をした人がいないということである。
それは、とてもいいことだろう。

「でも、こうも静かだと何かあるのではと考えてしまいますね」

 嵐の前の静けさという言葉もあるくらいである。

「院長、そんなこと言ったら本当に何か起きてしまいますよ」

 事務長を任せているイリスが優しい声で言った。

「ラースさん! 居らっしゃいますか?」

 クレインが慌てた様子で入って来た。

「はい、居ますよ」

 ラースは診察室から顔を出す。

「どうかしましたか? そんなに慌てて」

 走って来たのだろう。
額には汗が滲んでいる。

「緊急事態です! 隣街と繋ぐトンネルが崩落しました」
「え!? 事故ですか?」
「まだ原因は分かっていませんが、怪我人が多数出ています。医者と看護師の人手が足りません。ラースさんの専門外ということは分かっていますが、手を貸して頂けないでしょうか?」
「もちろんです」

 こんな時のためにラースは王国が発行している医師国家資格を取得している。

 ラースはイリスとアリアに視線を向ける。

「私も行きます! お手伝いできると思いますので」
「では、今日は臨時休診ということにしましょう」
「ありがとうございます! では、行きましょう!」

 休診にして病院を出ると、そこには馬車が停車していた。

「乗ってください」
「はい」

 ラースは、クレインの手を借りて馬車へと乗り込んだ。

 御者が馬に鞭を入れると馬車はゆっくりと進んで行く。
スムーズに街を抜けて行き、事故現場のトンネルへと到着した。

 そこは、砂埃で視界が悪い。
それでも、辺境伯の騎士たちによって続々と救出されて行く。

 医療用のテントが作られて居る。

「重症者はうちの病院でも受け入れましょう!」
「分かりました!」
「アリアさん、補助に付いて下さい。トリアージを始めます」
「了解です」

 自力で歩ける人は自分で医療テントへと向かう。
そこでは治癒師たちが治療に当たっている。

「医師のラースと言います。どこか痛いですか?」
「腕が……」
「ちょっとみますね」

《医療魔法・スキャン》

 腕の骨が折れているのを見て取れる。

「今、腕の骨が折れてしまっています。ここで固定しますね」

 ラースは当て木を添えて骨折箇所を固定する。

「クレインさん、まだ取り残されてる人が居ますか?」
「はい、まだ30人ほどはいると思います」
「結構いますね。重傷者はうちでも受け入れますんで、言ってください」
「それは助かります」

 ラースの病院はまだ病床に余裕がある。
近隣の病院の中では受け入れられる方であろう。

 その時、危惧していた第二の被害が起こってしまった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

婚約者に捨てられた私ですが、なぜか宰相様の膝の上が定位置になっています 

さくら
恋愛
 王太子との婚約を一方的に破棄され、社交界で居場所を失った令嬢エリナ。絶望の淵に沈む彼女の前に現れたのは、冷徹と名高い宰相だった。  「君の居場所は、ここだ」  そう言って彼は、ためらいもなくエリナを自らの膝の上に抱き上げる。  それ以来、エリナの定位置はなぜか宰相様の膝の上に固定されてしまう。  周囲からの嘲笑や陰口、そして第一王子派の陰謀が二人を取り巻くが、宰相は一切怯むことなく、堂々とエリナを膝に抱いたまま権力の中枢に立ち続ける。  「君がいる限り、私は負けぬ」  その揺るぎない言葉に支えられ、エリナは少しずつ自信を取り戻し、やがて「宰相の妻」としての誇りを胸に刻んでいく。  舞踏会での公然の宣言、王妃の承認、王宮評議会での糾弾――数々の試練を経ても、二人の絆は揺らがない。むしろ宰相は、すべての人々の前で「彼女こそ我が誇り」と高らかに示し、エリナ自身もまた「膝の上にいることこそ愛の証」と誇らしく胸を張るようになっていく。  そしてついに、宰相は人々の前で正式に求婚を告げる。  「エリナ。これから先、どんな嵐が来ようとも――君の定位置は私の膝の上だ」

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

処理中です...