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第2章

第1話 伝説に消えた名医

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ローラン国王陛下との謁見が終わり、ラースは屋敷へと戻った。

「もう、オーランドへ戻るのか?」

 屋敷に戻るというか父から聞かれた。

「はい、あそこには私のことを待っている患者さんたちがいますから。でも、その前にお祖父様のお墓参りをして行こうと思います」
「そうか。それは父さんも喜ぶだろうな」

 またしばらくは王都に戻れないだろう。
一度、ちゃんと祖父に報告をと思っていた。

「私も、一緒に行ってもよろしいですか?」

 クレインが言った。

「もちろんです。一緒にいきましょう」

 王都の屋敷から、馬車で10分ほどの霊園に祖父は眠っている。
ここは、高台にあり王都の景色を一望することができる。
きっと、祖父はここからずっと見守っていてくれたのだろう。

「お祖父様、お久しぶりです」

 そう言って、ラースは花を墓の前に置いて手を合わせる。

 そして、カバンの中からお酒とグラスを取り出した。

「お祖父様が好きだったお酒です」

 ラースは祖父が生前、好んで飲んでいたウィスキーを置いた。

「私、今はオーランドの街で獣医院を開業しました。それに、お祖父様がずっと会長をやっていた、獣医師会の会長に私もなりましたよ」

 ラースはこれが報告したかった。
祖父がローラン獣医師会の会長に就任してから、この国の獣医学は10年進歩したと言われている。

 その祖父の功績が大き過ぎた為か、獣医師会会長の後任は中々決まらなかった。
しかし、会長の座に相応しい医師がやっと現れた。

「なので、お祖父様は安心して眠っていてください。あとは、私がちゃんと全部引き継ぎますから」

 その時、ふわりとした心地良い風がラースの前髪を持ち上げた。
それは、まるで祖父が返事を返してくれたように感じた。

「それと、紹介しますね。クレイン・オーランドさん、私の婚約者です」
「ベルベットさん、初めまして。クレインです。あなたのお孫さんは私が必ず幸せにします。なので、見守っていてください」

 そう言って、クレインも手を合わせてくれた。

「お祖父様に挨拶もしたことですし、帰りましょうか。オーランドの街に」
「そうですね。帰りましょう。それにしても、やはり生前にお会いしてみたかったですね。伝説の獣医師に」

 あの街には、私の帰りを待っている患者さんがいる。

 医者にとって、患者さんは何千何万のうちの一人かもしれない。
しかし、患者は違う。目の前の医者が全てなんだ。

 いつの日か、祖父が言っていた言葉だ。

 ベルベット・ナイゲール。
かつて、伝説の獣医師と呼ばれた男は今、静かに眠っている。

 孫娘、ラース・ナイゲール。
新たな伝説を残す獣医に未来を託して。


【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。
予想以上にご好評頂きましたので、第1章を完結ということにし、新しく第2章をスタートさせようと思います。
今後は、ラースの祖父であるベルベットや公爵家についても触れていき、クレインとの恋愛模様も描いていくつもりです。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
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